京都に拠点を置きながら、LRGの本国の公式ウェブサイトよりフルパートをグローバルリリースした森中一誠。これまでの活動の集大成ともいえる本パートの撮影の舞台裏、そして妥協なしのスケート観について話を聞いてみた。
Interview by VHSMAG Photos by Shinsaku Arakawa Special thanks: Board Walk Sports Kyoto
VHSMAG(以下V): まずフルパートを作ろうと思ったきっかけ、そして完成した率直な感想を聞かせてください。
森中一誠(以下M): パートを作るきっかけは2~3年前かな? 当時京都には一緒に行動してくれるフィルマーがいなくて、僕自身もフィルマーを探していました。そんな時、ドイツから京都に留学で来たヨーナスっていうスケーターと地元のスポットで会うようになって。ヨーナスは日本語はもちろんフィルミングや写真も勉強している努力家で、彼が京都でのスケートライフの思い出に「僕を使って軽い動画を作りたい」と言ってくれたことがきっかけで、彼がドイツに帰るまでの間一緒に行動するようになりました。そう言えば、彼が帰国する当日の朝も撮影してました(笑)。撮ってもらえる環境が整ったと同時にドイツに帰ってしまったので「自分で何かアクションを起こさないと始まらない」と思って自分で貯金してカメラ機材を揃えるようになったら、バイトをして機材を揃える子たちも増えてきて、撮影欲がさらに増したって感じです。
それから地元の火打形スケートパークで練習してトリックの完成度が上がるにつれ「そのトリックをストリートで試して、もっと上に挑戦して行きたい」っていう向上心を持つようになりました。映像や写真を形に残すのがサポートライダーとして最低限の仕事と思っているので、パートを作ってみんなに観てもらうのは当たり前の流れだったと僕は思っています。
完成の率直な感想は……とにかく、めちゃくちゃ動きました! 「車がない」なんて言っている暇があればプッシュで動く。地元で練習するときも、京都の北の端にある自宅から南の端にあるパークまで、数10kmのプッシュ移動を何とも思わないくらい動きました。で、身体の筋肉バランス考えて帰りは絶対スイッチプッシュにしていました(笑)。
撮影ももちろんかなりやりました。周りが「OKテイク」と言ってくれても、自分が納得できるまで何度もリベンジしました。今回は締め切りがキツくなかったので、時間をかけて濃厚に仕上げていきました。フルパートとして納得のいくパートが完成したって感じです!!
V: 今回のパートはLRGの本国サイトでの公開となりましたが、その経緯について聞かせてください。
M: パートをどこで出すかはいろいろ誘ってもらっていたので本当に迷っていました。数ヵ月迷って「USサイドから公開し世界中の人に観てもらう」いう僕の小さい頃からの夢だった手段を取らせていただきました。スポンサーであるLRGにダメモトで「パートを観てください」とお願いしたら予想以上に気に入ってもらい、今回の公開になりました。
V: 撮影期間はどれくらいでしたか?
M: 約2年間撮り溜めました。今回使ってないフッテージで、もうひとつかふたつぐらいはパートが作れるくらい映像ストックがあります(笑)。
V: 撮影のプロセスについて聞かせてください。
M: スポットは自分で探したり、教えてもらったりいろいろです。スポットシークをし過ぎて山奥のマッドマックスみたいな廃工場に来てしまって怖くて逃げたこともありました。京都のスポットはメディアに出ていない場所が多いので、このパートをきっかけにどんどんみんなに観て興味を持ってもらい、他の地域のスケーターがもっと京都に滑りに来るようになってほしいです。お寺から始まって極上スポット、お寺をもう一度挟んで極上スポットに流れて夜はラーメンから高級な京懐石まで……。懐石はおごれませんけど京都は何でも僕が案内しますよ!!
フィルマーは結構いろんな人に撮ってもらいました。関西では尾崎 淳っていう僕が高校生の頃から撮ってもらっているフィルマー。彼とは少しの間、行動をともにできなかったけども、昔からツルんでるヤツなんで安心して撮影に臨めます。それに京都のバネマン、ムーチュ。最近地元にいる時は滋賀の宮庄 祐さんとずっと行動しています。東京行ったときはヒデくんや、Lesqueのマーくん、つかっちゃんたちにはめちゃくちゃ撮ってもらいました。本当感謝です! ありがとうございます!!
編集は僕のショップスポンサーのBoard Walk店長のホモローさんにお願いしました。ホモローさんはかなりのスケートオタクで、20年以上前から京都のスケートビデオ作品をたくさん作っているし、お店の3周年動画も一緒に作ったからイメージも伝えやすいし、何よりもスポンサーなんで思いっきり甘えられるんで迷わずお願いしました(笑)。妥協は一切しないで撮影に挑んだので、編集もホモローさんと気が遠くなるくらい話し合いをして、泣く泣くカットする映像をふたりで決めて……数ヵ月間、僕の妥協なしの姿勢を受け入れて編集してくれたホモローさんがガチのオタクで助かりました(笑)。
V: 今回のパートのロケーションについて聞かせてください。関西中心での撮影となりましたか?
M: スポットはいろんな場所に行きました。主に京都・大阪・神戸・滋賀ですが、関東の方も行きました。
V: 京都を拠点に活動する理由を教えてください。
M: 「東京に住んでスケートしたい」って気持ちが無いと言えば嘘になりますが、地元のキッズたちに「京都でもここまでできるんやで!!」ってのも見せてやりたいし、今スケートに集中できる環境が地元にある程度は整っているので、今は京都に住んでいたいと思います。それとコンディションも試したいトリックもマックス状態で、限られた日程で遠征に行くほうが集中力もマックスになるので、その方が自分を奮い立たせやすいイメージもあります。京都の魅力は……まずは世界中から人が訪れる国際的な街。住んでいる僕には京都の街並みが落ち着きます。人の流れもゆっくりしていて、家の近くに加茂川が流れていて……ゆったりした、ほんわかした空気が流れていてチルするには最高の環境です!
V: パートの中で、思い入れのあるトリックとその理由を教えてください。
M: 全部思い出あるフッテージなんですけど、やっぱり映像の締め切りを延長してまでトライしたラストトリックは思い出深いです! ラストのマニュアルからのコンボトリックはずっと頭の中でイメージしていたんですけど、イメージ通りのスポットに巡り逢えなくて……(汗)。結果、近場で抑えて撮影時間を多く取る方を選んだんですが、トリックとスポットの相性があまり良くなくて相当苦戦しました。結局10回通って、微妙メイクも10回以上しているんですけどなかなか完璧が来ませんでした。それまで約2年間一切妥協なしで挑んで来た撮影だったので、ラストトリックは絶対完璧で締めたかったし、ホモローさんも締め切りを延ばしてくれたので納得いくまで挑み続けました! そこからもどうしても納得のカットを得ることができず、ついにリベンジ9回目にナベMJくんと神社にお祈りしに行って願掛けしたのに、その日は一度も乗れずできなさすぎて怒りとストレスで神様を恨みましたね。ええ歳こいてるのに夜に布団の中で本気で泣きました(笑)。10回目のリベンジは神社には行かず、みんなで「カツ(勝つ)カレー」食ってから撮影を開始した途端、何発かであっさりメイク!! 難なく渾身の1発が来ました! 乗れた時は「やっと終わった……」。「神様よりカツカレーやん……」という感じでした。カツカレーは嘘ですけど、パーフェクトな着地をして振り返った時、フィルマーの祐さんを見たらウルっときていたのは鮮明に覚えているし、スポットのローカルのおじいさんたちも「やっとできたんやな︎」って一緒に喜んで僕のところに来てくれた時は僕も泣きかけました(笑)。もちろん本編に全部収録されているので、みなさんカツカレーの効果も合わせてお楽しみください(笑)。
V: 撮影で最高だったこと、また苦労したことを教えてください。
M: 撮影で最高やったことは、いろんな地方に行かせてもらっていろんな方と出会うことができ、刺激をもらったことです。地方のキッズたちがファンになってくれたり、「サインや写真を撮らして欲しい」って言ってくれたり、人に感動を与えられたということ。これだけ最高なことはないと思います。苦労したことは、自分超えのネクストレベルなトリックに挑戦すると撮れない日々が続き、それがストレスになったことですかね。その分メイクした時の、自分を超えられた達成感と筋肉痛が気持ちいいんですけどね!
V: フルパートを作るにあたり、参考にしたパートや影響を受けたスケーターは?
M: パートを作るにあたりいろんな人のパートを見ました。影響を受けたスケーターを絞るのは難しいですが、コリー・ケネディは好きなスケーターです。キレイ過ぎずいい荒さ加減と男感、環境を選ばずオールラウンドに滑りこなす感じが大好きです。
V: 撮影のモチベーションの高さとトリックに対する強いこだわりがあるようですが、その点について聞かせてください。
M: 撮影のモチベーションですが、今自分には給料を出してくれるスポンサーもあるので「プロとしてやるべきことをやらないと」ってのがまずあります。そして純粋に「大好きなスケートボードで感動を与えたい」ってのがモチベーションに繋がっています。スポットの使い方も少し変わった視点での攻め方をつねに意識しています。でもパートでオリジナルをやりすぎても“変なスケーター”ってイメージがつきそうなので、バランス良くシンプルでかっこいいトリックもやる。男臭いスケートやテクニカルトリックもするし、時にはビッグセクションもやる。で、スパイスでオリジナルトリックもやる……ってのを考えています。今回のパートもバランスよくオールラウンダーを目指し、考えて作って行きました。
V: 撮影中に印象に残った出来事を教えてください。
M: 某大学の体育館前のカーブで撮影していたら体育館の屋根から学生が落ちてきた。フィルマーのヨーナスが大切な映像データが入っているノートPCを上海に置いたままドイツに帰国。“京都らしい映像”にこだわって、早起きしてひたすら京都観光をひとりでするのを3ヵ月くらい続けた結果、美味しい和菓子屋に無駄に詳しくなってしまう……。毎日、毎日、刺激的で印象的過ぎて書ききれないです。
V: スケートで成し遂げたいことは何でしょう?
M: 一番近い目標は、スケートだけで普通のサラリーマンくらいの収入を得ること。大きいことは言いません。小さいことからコツコツとやって行きます。そしていつかプロモデルを出したいのと、海外のビデオでパートを持つこと。何より多くの層に多くのファンを作ること!
V: 今後の活動予定は?
M: 4月にTHE MANというイベントで北海道へ呼んでもらうのと、5月頃に東京へ行ってしばらく撮影する予定です。他にも今は公表できませんがビッグプロジェクトがありますし、なにより次回作へ向けて撮影して映像や写真を多く残して行きたいと思っていますので、こんな僕ではありますが応援お願いします!! 最後に、今回の企画をくれたVHSMAG編集部、サポートしてくれる会社、フィルマー、カメラマン、エディター、支えてくれている仲間みんなにお礼を言いたいです。そしてこれからも宜しくお願いします。ほな、お~きに!!
Issei Morinaka
1990年3月10日生まれ。テクニカルトリックからバンガーまで、オールラウンドなスキルと完成度の高いスケーティングに定評のあるスケートマシーン。京都のストリートスケートのシーンを牽引するひとりでもある。
@isseimorinaka