スケートには実にたくさんのトリックがあり、そしておそらくそのすべてに名前が与えられています。それはそのトリックの開発者の名前に由来するものであったり、単にその動作やトリックの際のデッキの状態がそのまま名前になっていたりしますが、中にはとてもユニークな名前がつけられているものがあります。例えばボーンレス、ステールフィッシュ、マドンナ、ガムチョップ(これは国内オンリー)などなど、挙げればキリがありません。そしてそれらの多くは、スケートが今よりまだ発展途上であった少し前の時代(常に進化してるから当たり前なのですが)に生まれています。
そんな中でも特にユニークかつ的確に、スケートボードという行為そのものを言い表しているなと、個人的に感心してしまうトリック名があります。それが今回のタイトルにもなっているNo Comply(ノー・コンプライ)です。「従う、服従する」といった意味を持つ単語を「No」という実にはっきりした力強い言葉で否定している様がなんとも小気味良いこのトリック、原則(?)両足が板に乗っている状態をよしとするスケートボードにおいて、それはまるで「足ついて何がいけないの? じゃあ足さえつかなきゃOKなの? スケートってそういうもんじゃないでしょ?」というような反逆者たちの声とも言うべき反骨精神の表れのように思えるのです。そしてこのトリック、調べてみるとどうやらその生みの親は1980年代にSanta Cruzで活躍し'90年にBlack Labelを立ち上げ、今現在もシーンを牽引するレジェンドスケーターのジョン・ルセロ。同じく'80年代にスケートボードが持つ芸術的な可能性にいち早く着目し、その観念をそのスケートスタイルはもちろんボードグラフィックに自らの手で落とし込み、以降スケートボードが併せ持つアートという側面に決して消えることのない大きな痕跡を刻み込んだレジェンド、ニール・ブレンダーが命名したというのだからすごい。そしてそれをレイ・バービーやマイク・ヴァレリーといった達人たちが受け継ぎ、そして現在においても、若き才能あるスケーターたちがその精度に日々磨きをかけているのです。
そんな「ローリングウォール」でも、「サンダーウェーブ」でも、「シベリア仕込みの足封じ」でもない「ノー・コンプライ」、この反逆者と芸術家の共同作業から生まれた貴重なトリックはもはやスケート無形文化遺産認定ものです。
キミはコスモ(小宇宙)を感じたことがあるか!
--TH (Fat Bros)