SLIDER 場外乱闘・番外編 マニュアルを制する者はスケートを制す

 「マニュアルを制する者は、スケートボードを制す」とは、とある元プロスケーターの友人の言葉なのですが、これには同感です。さまざまなジャンルやスタイルのスケートボードがあるので、優劣をつけることが目的ではないのですが、マニュアルの動きの精密さはスケートボードをコントロールするという意味合いの上では頂点の動きといっても過言ではないでしょう。複合のマニュアルトリックなんかは最たるもので、他の分野では時として功を制す、いわゆる“気合い”とか“ノリで”は通用しません。まぐれで乗れてしまうことは皆無と言っても、あながち間違いではないでしょう。
 マニュアルの基礎である、テールマニュアルとノーズマニュアルだけはかろうじて人並みにこなすことが出来るのですが、そこから先がどうやっても習得できない。単純にスキル不足と練習不足と言ってしまえばそれまでなのですが、180してから入るとか、フェイキーやノーリーからマニュアルに入っていくとか、あるいは回しから入るなんてことは、自分にとっては考えるだけで気の遠くなる作業です。無理! とずいぶん前にあえなく白旗を上げてしまったのですが、自分なりにトライを重ねた上での決断なので、後悔もなければこの先頑張ろうという前向きな考えすら毛頭にないのですが、長年のスケート歴にてその難しさを痛感している故に、マニュアルを得意とするスケーターに対して無条件にリスペクトが湧いてきます。回してから縁石に入ったり、レールに入ったりする猛者が大勢出てきたというか、もはやスタンダードになりつつあるハイレベルなスケーティングが定着している昨今ですが、回してからのマニュアルというのは、回してからレールや縁石に入るのとは少し感覚もレベルも違うような気がします。
 回して入ってマニュアルして、また回して下りるというのは、一連の動きが速いというか映像でいえばワンカットで括られていますが、よくよく考えると、ワンカットでひとつのラインをメイクしていることと同じように換算されるべきではないかと。マニュアル自体がトリックなわけですから、それプラス、回しトリックや180系のトリックをいくつか加えられているのでれっきとしたラインとなるわけです。180インやアウトのみならず、時には360、ボディバリアル、スイッチスタンスなんかとヴァリエーションも豊か(無限の組み合わせが可能)なので、ビッグエアーや全流しトリックのような派手さはありませんが、目の肥えたスケーターたちを唸らせる超絶スキルを必須とする玄人なジャンルなのであります。
 結構前にリリースされたTWSの『Subtlties』というタイトルの中で、ブランドン・ビーブル(Featuringブライアン・ウェニング)のパートがあるのですが、それを近所の若者スケーターと一緒に観ていて「なんだビーブル手抜きパートでしょ、ウェニングのフッテージがなかったらこのパートもたないじゃん」というようなことを言っていました。この浅はかな若者スケーターは、単純にパートの尺だけを見ていて、肝心な内容(濃度)を見逃していたわけです。確かに尺の長さもパートの重要なファクターではありますが、このパートでビーブルが見せたマニュアルトリックの内容は明らかにネクストレベルであったし、尺的には短かったかもしれませんが、マニュアルのワンカットをワンラインとして捉えると、かなりボリューミーなパートだったことに気づかされます。どちらにせよ、このパートがボードコントロールを完全に熟知したビーブルの真骨頂パートであったのは疑いの余地もありません。

 「マニュアルを制する者は、スケートボードを制す」と教えてくれた元プロスケーターのパートは、10年以上前にリリースされたドメスビデオの『CMYK』(Three's Film Works制作)にてチェックできるので、VHSテープを持っている人からゲットしてください。当時ではあり得ない(今でも凄い)超絶マニュアルスキルを連発しております(どなたかYouTubeに上げてくれるとありがたや)。
 ちなみに、先に挙げた浅はかな若者スケーターは、元スケーターとなってただいま迷走中。完 


画質が粗いですが、ビーブルの神業オンパレードのパートは『Subtlties』より。