SLIDER 場外乱闘・番外編 東京で生まれて……。

 ローカリズム、地方愛……。言い方はさまざまだけど、人はだれしもが生まれた場所、育った場所への極私的な意識や思いを持っていることだろう。そして、その思いが特に強い人というのは、地元を積極的に応援したり激しく非難したり、または他の土地と地元を比較したりするけれども、実はそれとは対照的にナチュラルにうすーくやわらかーく頭のどこかで無意識的に地元を意識している人というのも中には存在して、どちらかといえばボクは後者のタイプに属しているのかもしれない。そう、地元の良いところも悪いところも知っていて、肯定も否定もしない。どちらかといえば、そこで生まれたのだから“しょうがないじゃないか”、地元のそのすべてを受け入れようというスタンスだ。ただし、自分という人間を形成する上では、かならず“環境”というものが大いに関係していて、とりあえずいまの自分はそんなに嫌いではないから、そういう意味では現在の自分の一端を形成した地元に、感謝をしているといえるだろうか。

 さてボクに関していえば、東京の渋谷区富ヶ谷が地元になる。渋谷や原宿に近いという土地柄ゆえか、その延長線上でいまでこそお洒落なカフェやショップが建ち並び多くの人が訪れるエリアになったが、ボクが中学生の頃までは、小さな商店街を中心に地元の人が往来するだけの地味な街だった。たい焼き屋があり、駄菓子屋があり、小さなローカルのファミリーレストランがあった。商店街に立ち並ぶ店はだいたい友達の家族が経営していたし、街を歩けばほとんどの人が顔なじみだった。そう、非常にタイトなコミュニティで、昔ながらといえば昔ながらの雰囲気が漂う街だった。嫌いでもないし、特別すきでもない。ただただ自分が生まれ住むのが、そんな街だった。

 けれど大学生になって、そこで知り合ったまわりの友人たちが見ているボクの地元への印象、というか東京への印象はそれほど良くないものだった。とくに地方から出てきた友人は口を揃えて東京のネガティブを話す。「毎日うるさくない?」とか、「人が冷たいよね」とか、「よく住めるよね」などなど。自分は東京に対してそんな印象を抱いたことがなかったから、逆にびっくりした。たしかに東京はさまざまな人が集まる街だから、人口密度も高いし、なかには冷たい人もいるだろうし、うるさくて眠れないアパートもあることだろう。しかしだ。必要があって東京に出てきたわりには、ネガティブなところばかり取りあげて、東京をひとつにまとめてしまうことに、怒りというか呆れを感じた。なぜならボクが生まれ育った東京、そして地元は彼らが抱く印象と対極に位置していたからだ。そう長く住んだからこそ分かる、そこで育ったがゆえにわかる東京があるということを、当時の彼らは知らなかったにちがいない。

 実は9月30日に発売となる最新号のSLIDERは、そんな東京への思いをかたちにした“TOKYO特集”を予定している。東京で生まれ、東京でスケートをしてきた人々をインタビューし、当時の状況や東京への思いを語ってもらおうと考えているのだ。それは“TOKYO LOCAL”という言葉ではひとくくりにできない、極めて難儀なもの。東京に住んでいようともネガティブな意見が出ることもあるだろうし、逆に我々の知らなかった東京が明かされることもあるかもしれない。現在は取材の真っ最中だが、インタビューした人それぞれが東京を語るとき、言葉をひとつひとつ選び、丁寧に答えている印象だった。それほどに東京という街は語ることが多く、それがゆえに魅力的に映るのではないだろうか。