これを読んでいるスケートボーダーのみなさまが一度は必ず言われたであろう言葉があります。ストリートを滑っている人は特にだと思いますが、ズバリ言いましょう。それは「うるさい」です。
時には優しく、時には激怒した人があなたの前に現れて「スケボーの音がうるさいからやめてくれ」と言われた経験があると思います。僕もつい先日、DIYで作ったバンクが出来上がった瞬間に感情が高ぶり、ブチ上がって滑ったら「うるせーんだよ! いい加減にしろっ!!」と激怒したおじさんのお叱りを頂戴致しました。おじさんからしたら、作っている最中もインパクトでネジを爆音でバリバリと打ち込んだりしながら作業していて「WTF!! ついにこいつ滑りやがった。ふざけんじゃねーぞ」と我慢の限界を超えたのでしょう。その節は大変申し訳ありませんでした。
スケートボードは昔から騒音問題と切り離せないもの。パークを経営する人にとっては場所が非常に大事になります。近くに民家があったりすると、ランプの中に布団を詰めてみたり壁に卵パックを貼り付けて防音効果を狙ってみたりと、どうにかして地域との共存を図らなければいけません。これをクリアしないと騒音問題は徐々に悪化し、パーク閉鎖なんてことになりかねないのです。
スケートボードの素材に改良を加え音が出ないようにする…というのは完全に不可能でしょう。路面の改良? いやいや、あのツルッツルの硬ーーっい路面でテールを弾いた時のポップの気持ち良さに勝るものはありません。そしてあの乾いたテールの音、ふぅ〜っ! 最高ですよね…。あれ?
そうなんです。スケーターにとってスケートボードの音は心地良かったりするんですよね。テールを弾き乾いた音が鳴り響く。デッキが回り足の裏に吸い付くようなキャッチの音が心臓の鼓動のように伝わってくる。四輪同時に着地する音が日々のストレスをすべて吹き飛ばすようにその場全体に広がっていく…。その音は気持ち良く、書き方によっては官能小説に匹敵する文章まで仕上がりそうです。
ということはですよ、この地球にいる全人類を洗脳して「スケートボードの音は死ぬほど気持ちいい」という概念を脳にインセプションすれば「スケートボード=うるさい」という問題を解決できるのではないでしょうか。この概念や感覚が波紋のように広がり、みなさんがそれを経験することができればどういう世界になるのでしょうか。想像するだけでたまらないです。
まず暇な人は全員スケートパークにスケートを見に来ます。だって超気持ちいいんだもん。テールを叩く音にドキドキしながらたまらない表情でこちらを見つめてきます。ゴリゴリの縁石でグラインドなんかしようものなら失禁してしまう人や声が出てしまう人もいるでしょう。メイクせずに裏乗りしてしまった時でさえ、脳の奥まで鳴り響くあの高い音に涙を流す人も出てくるはずです。
そうなってしまうともう四六時中あの音を聴いていたい衝動に駆られ、自宅の前に大理石の縁石をこしらえ、なんとかスケーターに滑ってもらえないか試行錯誤するでしょう。自作の大理石をインスタに投稿し、#極上縁石 #grindallday などとハッシュタグまでつけてスケーターを待ち、来てくれようものならもうビールを振る舞い感謝感激。「ウチの寝たきりの婆さんがキミたちの生の音をどうしても欲しくって、これで介護も楽になるよ。ありがとう」と言われるかもしれません。
もちろんその音を集めただけのASMRもネットにいくらでもありますが、やはり生音に勝るものはありません。人は幸せになり、仕事は捗り、景気も上昇。街は笑顔に包まれます。行政もこの効果を高く評価し、新しく建設予定の公園には必ずと言っていいほどスケートプラザを配置し、スケートボードに密着した街づくりにすべての予算を注ぎ込むのです。
いやぁ、スケートボードの音ってほんっとに素晴らしいですね。「さよなら、さよなら、さよなら!」と言いながら笑顔で天寿を全うする人や、逆に生まれた瞬間からスケートボードの音を聴かせる英才教育がしたいためにセレブは高いお金を払って産婦人科とスケートパークの融合施設を選んだりするわけです。
スケートボードの騒音問題と今まで向き合ってきましたが、これほどいい解決方法があったのか…と。もう眼から鱗、棚からぼた餅! 早速これから会う人をどんどん洗脳していこう。
「スケートボードの音ってほっんとに超気持ち良くて最高なんですよ!」
ガーガーガー
「うるっせぇっんだよッ!!!」
Daisuke Miyajima
@jimabien
M×M×Mの敏腕スタッフにして自称映像作家のジマこと宮島大介。伝家の宝刀Fs 180フリップをなくした今、どこへ向かっていけばいいのか迷走中。本能の閃きをたよりに書き綴る出口なしコラム。