スケボーしながら調子が悪いと「いやぁ、膝が痛いんだよね…」という言い訳を続けて8年弱。いわゆる怪我逃げを理由に、調子良ければ黙っているくせに調子が悪いと「膝が」とかやたらとよく喋るワタクシ。
6年前に一度膝と向き合い手術をしたのですが、その時は大掛かりな手術からは逃げて簡易的なもので済ませたことがありました(第13回: 前向き入院)。
しかしそちらも年貢の収め時になり、本格的に膝が機能しなくなってきたここ数年。症状としては歩いているだけでたまに膝が外れるような痛み(ロッキング)が1日に多い時で10回くらい現れるのと、突如膝が曲がらない感覚になり、皮膚の上から触ってわかるタピオカくらいのコロコロした軟骨(半月板や軟骨が砕けて散らばりときどき関節の動きを邪魔する、いわゆる関節ネズミ)が出現。それを指で関節の中にコリっと入れると膝が曲がるようになるという、自分にしかわからないコツが必要な使い古しの機械みたいな膝でした。スケボーしている最中は力が入っているせいか割と平気なんですが、ちょっと休んでいるときに症状が現れると痛くて滑れなくなるという感じだったので、ついに逃げ続けていた前十字靭帯再建という壮大なプロジェクトに踏み切ることを決意しました。
手術を受けたのは今年の4月上旬、ちょうど新型コロナウイルスで世間がざわつきまくっている頃であります。しかしこの時の自粛ムード、不謹慎な話ですが僕には少し都合が良かったのです。なぜなら身動き取れないのは手術を受けた僕だけではなく、世界中のみなさんもそうだったから。
「お家で過ごそう」というスローガンが僕にとっては「病院で寝てよう」に変わっただけなのでそりゃあ楽なもんでした。張り切って持ち込んだポケットWi-Fiをフルに稼働させながらSNSのタイムラインを見ても「スケボーしてイエイ〜!」っていう動画はほぼ上がっておらず、自粛ムード全開。実際はしていたとしても遊んだり飲んだり出かけたり系のポヨつき投稿は少なめで、見なきゃいいのに見てしまうSNS投稿に嫉妬することなく真面目な入院生活を送ることができました(以前僕がした不真面目な入院…第28回: 複合系トリック)。
僕が入院した杉並区の某成病院では3月にコロナ患者が出たので一度閉鎖になり、厳戒態勢のなか診療再開となっておりました。おかげさまで誰も面会に来れない、自分も病棟から隔離されて出れない、売店に行こうにも看護師にお使いに行ってもらわないといけない。完全に世間とは別な理由でロックダウンに成功しておりました。
リモートワークが普及しだし、ノートパソコンとWi-Fiさえあればどこでも仕事ができる時代なので、ベッドの上にノートパソコンをセットしてメールやLINEを開き会社や仲間に連絡し、いつもと変わらぬやり取りを再開。(暇なので)誰よりも早いレスを打つコンテストを勝手に開催しつつ、つねに首位独占をキープしておりました。しかしWi-Fi、ノートパソコン、自分だけの空間、この3つの条件が揃ったときの正常な思考の男性ならば大体考えることは一緒だと思います。1週間ほどある入院生活のどこかで男のファンタジーをメイクしてやろうと企みつつ、おとなしく入院初夜を過ごし翌日の手術を迎えました。
手術は要するに部品交換。膝を開けて切れている前十字靭帯を除去(僕の場合長いこと放っておいたせいで切れた前十字靭帯が後十字靭帯にガッツリ付着しているという離れ業をメイクしてなかなか大変だったらしいです)、自分の腿裏のハムストリングスという腱を一本シュルシュルと抜き出してそれを骨に穴を開けたりして前十字靭帯の代わりとして移植。タピオカ(関節ネズミ)たちを除去。擦れてガサガサになった軟骨の表面をナデナデ。
手術は無事成功! らしいのですが起きた瞬間にまず感じたのは自分のチ●ポの異変、そうです。全身麻酔した後に必ず待ち受けているのはチン管。自分で排尿できないので管にオートマチック排尿してもらうというシステムをもれなく設置していただけるのです。このチン管は先っちょからささりケツの穴くらいまで刺さっているのですが、なにしろ感覚がヤバい。おしっこが出る瞬間の先っちょのもぞもぞ、ゾワっとした感覚が永遠に続くのです。先っちょをナデナデされ続けるというかおしっこが漏れそうになり続けるというか、とにかく日常生活では一瞬感じるだけで「イヤん♡」なのがひたすら続くので「いやいやいやいやー」だけで最後の「ん♡」という部分が一生やってこないのです。
これは男のファンタジーどころの話ではないな…と直感的に思った後に感じたのが「寒い! めちゃくちゃ寒い」。手術室から自分の病室に行く途中で意識が戻ったのですが、移動するベッドの少しの振動でチ●ポが反応して「いやいやいやいや!」でさらに寒すぎて「ガクガクガクガク」。イヤイヤガクガクイヤイヤガクガク……。手術室は結構気温が低い上に3時間ほど全身麻酔で眠っていた僕の身体は芯まで冷え切っており、体温が戻るには相当な時間がかかりました。
イヤイヤガクガクの陰に隠れ猛威を振るって来たのは超絶な痛みです。そりゃ骨に穴を開けていますから痛いに決まっています。神経ブロック、点滴、座薬プレイ(ナースの手作業)。すべての手を駆使しても痛みは完全になくなるわけではなく、朝から始まり昼頃に終わった手術の後24時間くらいは身体に刺さっている無数の管が抜けないように気を使いながら穏やかに悶え苦しみほぼ寝れない時間を過ごしていたその時。ハッと気づくとまたチ●ポに異変が…。寝不足や疲れたときにうたた寝をしていると、気づけば息子がいつの間にか元気になっているというのを男性諸君なら経験したことがあると思うのですが、まさに今それになってしまっている…。いや待て! 今はチン管が刺さってるんだってば。圧迫され自分の居場所を失っている管は外側に押し出され優雅に自分のビジュアルをアピールしていた。これは大変だ! 痛い痛い痛い。精神統一して平常心を取り戻し深い呼吸で自分を落ち着かせる。
そこへ看護師が点滴のチェックへとやってくる。おっと、美人じゃないか…というよりすげー美人なんじゃないかな? という思考が正しいのかもしれません。コロナの影響により病院にいるすべての人間がマスクをしているので、全員目しか見えないのです。
失礼のない言い方でお伝えしたいのですが、初対面で顔を知らずパチっとメイクされている目だけ見ていると大体の人が美人に見え、入院した時から「ここの看護師さん美人な人多いな」と感じていたのでした。いや…失礼か。最後まで僕が顔を見るチャンスはなかったので実際に美人だらけの病院だったのかもしれません。イスラム教の国に住む男性はこんな感じで女性を見て楽しんでいるのかもしれません。とにかく目だけの看護師が僕の精神統一の妨げになったことは言うまでもありません。
チン管が抜けた後も膝が内側から破裂しそうな痛みは続くし、ひとりで歩けるわけもないし身体にはいろんな管刺さってるし。もうすべてを諦めてひたすらYouTubeを見続けて1週間の入院生活を終えました。コロナ禍ということもあり病院側も早く出ていってくれという雰囲気だったのか? 通常は2週間ほど入院のところ「出してくれ」と希望したら1週間で帰宅できました。おかげさまで退院はできたけどまあ歩けない。家でも座っているだけのお荷物野郎でしたが、それから早4ヵ月。月1回のリハビリに通い筋肉を少しづつ戻し、ようやく来月からジャンプしても大丈夫な身体にまで戻りました。スケボーできるのは冬が始まる頃でしょうか? それまではもっぱら脳内スケートを楽しむしかなさそうです。
コロナで大変な時期にしれっと手術終わらせて何事もなかったように復活してやるぞ! っていう意気込みを込めたコラムを書いていたのに後半はほぼ下ネタ…しかしまあこの新型コロナもまだおしゃべりが成熟しておらず、サ行が苦手なウチの3歳の娘に言わせれば「チン型コロナウイルス」だそうです。