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 昔のことをふと思い出して「そーいやあれって普通にやり過ごしていたけど…
──第15回:きゃんつりどう

2014.11.07

 昔のことをふと思い出して「そーいやあれって普通にやり過ごしていたけど、今思うと何だったんだろうな〜?」と思うことが誰にでもあると思います。僕にもいくつかそんな思い出があります。

 10代の頃働いていた引越屋のアルバイト先に、山梨出身でヤンキー上がりの平井さんという上司がいまして、一緒に働いていると聞いてもないのにバイクの話やら喧嘩の話やらをひたすら喋りまくってくれる面白い人でした。しかし仕事が忙しいと苛つくせいか、方言が出てくるのです。トラックから家具を出そうとしていると「おい! もっと強くおっぺせ」と大声で言われて、意味がよくわからなく聞き返すと、平井さんは「おっぺせって言ってんべよ!!」とさらに声を荒げているのです。後で聞けば方言で「押せ」ということだったらしく、一度意味が分かれば「ああ、確かにそんな雰囲気だな」と言う感じですが、殺気立って大声でいきなり言うもんだからまったく分かりませんでした。平井さん曰く、山梨の方言でチ●コのことを「きゃんつりどう」というらしく、さらにそれが勃つことを「てんぎる」というらしいのです。平井さんはそれをニヤニヤしながら「おめぇよぅ、ひっひぃ、アソコが勃つことをなんつーか知ってっか? きゃんつりどうがてんぎっちまってよぅ! つーんだよ! ひいっひぃっひぃ」それは平井さんのネタのようなもので、しょっちゅう言っているので「もう知ってますよ」と言ってもそれは意味なく、同じことが繰り返されるのでした。何度も言われるので僕の中では「キャン吊り塔が天切る」という意味なのかな? と勝手に解釈していました。おかげでもう忘れることができません。

 話はもう少し遡って、僕は昔から修行とか気合いとかの類いのものが大好きで、小学2年生の時、たーちゃんという友達の家で見た漫画本の「ドラゴンボール」に出てくる亀仙人の修行に完全に心を奪われていました。それは重たい亀の甲羅を背負って毎日走ったり飛んだりと修行をしていると甲羅を外したときに信じられないほどのジャンプ力が身に付いている…というもの。子供の「信じる力」というのは無限で、僕とたーちゃんはそれをガチで信じ込み、ランドセルに入れることができる最大限にでかい石を探し、それを詰め込み毎日学校に通うということをやっていました。教科書やノートがあると石が入らないってことで、すべての教科書とノートを学校の机の中にぶち込みまくっていたせいで、何を出すにも机がパンパンで取りづらかった記憶があります。

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 毎日たーちゃんと通学路を走り、わざわざ木が多いところを通りジグザグ走行したり垣根を飛び越えたりして学校に着くと、正門の横の草むらに石を隠し、そこで身軽になった自分のジャンプ力を確かめるのです。「おー! 軽いな、ちょっと高く飛んでるんじゃない?」などとお互いをほめ合って汗だくで教室に向かい、学校が終わるとまたその石を入れて家まで帰るのが日課でした。いつだか隠し場所からその石が消えてしまいその修行は終わってしまったのですが、ジャンプ力が上がっていたはずの僕より、何もしていない僕の兄が走り高跳びの選手で東京都で2位とかになっていて、月曜日の全校朝礼で表彰されているのをぼんやり見ながら「修行はあんまり意味なかったのかな」と、虚しく感じたのを覚えています。

 小学校5年頃から漠然と「アクロバティックな感じでコミカルに強くなりたい」と思っていました。そうですジャッキー・チェンに心を奪われたのです。早速親に頼み込み、空手ではなく拳法と名のつくものを習いたく、タウンページでひたすら探しやっと見つけたのが隣町でやっている日本拳法でした。完全にこれだと思った僕は、すぐさま親にもらった月謝を手に門を叩きました。門と言っても隣町の市民会館の一室を借りてやっている殺風景な場所でした。しかしそれでも道着を着れる喜びや受け身なんかを教えてもらっているときの高揚感はたまらなかったです。あるとき楽しすぎるせいか、早く行き過ぎてしまい部屋が開いていなかったことがあったので、近くのコンビニで立ち読みでもしようと思い、コンビニの本コーナーに行くとエロ本が目に入ってきました。家の近くのコンビニだと友達に会う可能性もあり、恥ずかしくて行けないその場所から「ここは地元じゃないよ、誰もいないよ」という甘いお誘いがありました。現代ではエロ本には青いテープが貼ってあり立ち読みはできないようになっていますが、僕が小学生の頃はそんなものはなく、周りの目さえ気にしなければ読みたい放題だったのです。僕は迷うことなくその禁断の本を開き食い入るようにみているとなんと……キャン吊り塔が天切ってきてしまったのです。「あれあれ? これは一体?」 不思議に思った僕はトイレに駆け込み確認してみると、キャン吊り塔は見事に天切っていました。とにかくそれが癖になってしまった僕は、毎週拳法が始まる時間よりも早く行き、ローソンでキャン吊り塔を天切らせ、それをトイレで確認することに夢中になってしまいました。毎週のその日にシフトが入っているローソンの店員はきっと「あのガキまた来やがった」と思っていたことでしょう。そんなことは気にもしない小学生の僕は、キャン吊り塔が天切ったところでどうしていいのかが分からないので、それを確認するというのがゴールでした。しかし修行も大好きだった僕は、その後の拳法もしっかりとこなし、鍛錬には精を出していました(笑)。

 ある日、拳法の練習が終わり着替えていると、先生がほかの生徒にビデオテープを渡していました。何か面白い拳法映画とかかなと思っていると、先生は普通に「はい、こないだ言ってたウラね、貸してあげる」と言うのです。小学生ながら裏ビデオの存在を知っていたのかはよく覚えていませんが、きっとエロだろうという感じがしたのは覚えています。途端、腹が立っている自分に気がつきました。「修行をする神聖な場所で裏ビデオの貸し借りだと?」 こんなにふざけたヤツらに拳法を習っても強くなれるわけはない、もっと本気な先生を捜さなければ……。ローソンでエロ本を立ち読みしながらキャン吊り塔を天切らせている自分を忘れてしまうくらい、僕は拳法に対して熱かったのです。以来、エロ日本拳法は即やめて、その後近くの小学校の体育館でやっていた少林寺拳法に身を移しました。そこでの週2回の練習では物足りず、違う街の少林寺の道場にも通い、週6回の練習を3年ほど続けました。夏合宿等にも参加し「一番行きたい国は?」と聞かれると間違いなく「中国」と答え、「将来は?」と聞かれると「師範」と迷わず言っていました。

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 結局中学3年でスケートボードに出会い、びっくりするほどあっさりと少林寺拳法はやめてしまい、行きたい国もアメリカで、将来の夢もプロスケーターに変わっていました。今思うと「あれほど情熱を注いだ拳法って何だったんだろう」というのと同時に、「小学生のときランドセルに詰めていた石ってどこ行っちゃったんだろう?」とか、「日本拳法の先生が貸していたのって本当に裏ビデオだったのかな?」とか気になることは結構あります。そして一番気になるのに、いまだにしっかり確認できていないことがあります。「きゃんつりどうがてんぎった」って本当に山梨の方言であるのかな?

Daisuke Miyajima
@jimabien

M×M×Mの敏腕スタッフにして自称映像作家のジマこと宮島大介。伝家の宝刀Fs 180フリップをなくした今、どこへ向かっていけばいいのか迷走中。本能の閃きをたよりに書き綴る出口なしコラム。

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