僕が本格的にスケートの撮影をするようになったのは17歳の頃。もともと秋葉原や浅草で一緒にスケートしていたバレリーくんにフィルミングしてもらうようになったのがきっかけである。
その頃からたくさんのフィルマーまたフォトグラファーと出会い、“撮影”ということをするようになった。途中、20歳過ぎに急遽体調を崩し入院した時と、25〜6歳の頃に2年ほどスケートから離れた時以外は、つねに撮影をしてきた。そう考えると、世間的にイケてる映像なり写真なりが撮れているかどうかは別にしろ、割と撮影をこなしてきたスケーターではないかと自分で思う(自分で言うのもなんだが f^_^;))。
スケートの撮影は辛い。ものすごく辛い。今となっては貴重な経験だが、47都道府県撮影ノックの時は、身体がボロボロになり鬱病になりかけていた。僕は狙ったスポットをサクッとメイクするタイプではないので、何度も何度もトライし、撮影の途中「なんでオレはこんな辛い思いをしながらスケートしてんだよ!! 完全に道を間違えたぜ! 母ちゃんマジでごめん」なんて言葉を頭によぎらせながら、やっとのことでメイクできていた。まあ、言うなればあまりスケートが上手くない。自分でもよくわかっている。
でも、やめられない。それは狙ったスポットでのメイクできた喜びが、夜のオーガズム以上の快感を得られるからである。
そんな僕が撮影時に心がけている、いや意識していることがふたつある。いま日本のスケーターの中で、どれだけのスケーターが撮影をしているかは不明だが、生意気を承知で、そして馬鹿にされる覚悟でそのふたつを紹介しようと思う。
ひとつ目。それは「ゴールの次をイメージする」ということ。僕の撮影時でのイメージ法が変わったのは、20代前半にたまたま読んだ本がきっかけである。その本にはこんなことが書かれていた(思い出せる範囲で)。「『ボタンをテーブルの上に縦に立てろ』と言われても、なかなか立てることはできない。ただ、ボタンを縦に立てたあとに『ボタンの穴に糸を通せ』と言われたら、ボタンを縦に立たせられようになる」。
要するに「人間は自分のイメージしたことの一歩手前までを実現できる」ということなのだろう。僕はそう捉えた。例えば、どんなジャンルにせよ「日本一になりたい」という人は日本一になるのは難しい。日本一になる人は、きっとその先の「世界一になりたい」と思っている。「世界一」になる人は、きっと「宇宙」のことまで考えているということ。
まあ、そこまで考えると話が飛躍しすぎるかもしれないが、この考えのスケールを小さくし、自身の撮影の時に取り入れるようにした。
スケートの撮影時にゴールとされるのは、もちろんメイクである。ただ、それより先をイメージする。メイクした後に僕らスケーターがする行為を。それは、フィルマーなりフォトグラファーなり、その時に見守ってくれている仲間たちとのハイタッチである。
僕は撮影時、メイクした瞬間ではなく、メイクした後に仲間たちと喜びをともにしている瞬間をイメージするようになった。臨場感をこめて、まだメイクしていないのに、思いきりガッツポーズをし、「おっしゃ~! メイクできだぜ! みんなありがとう。おいらは幸せもんだぜ」と。あたかもメイクしたかのように自分を演じるようにした。かなり怪しいヤツに見えるがそんなことは関係ない。
ふたつ目。それは「相手の為にメイクする」ということ。スケートは基本的には個人プレーである。ただ、自分なりに方法は違えど、スケートに関わる活動をしている人たちはみんなチームプレーになる。撮影の場合だと、まずフィルマーやフォトグラファーがいてくれないと成り立たない。また、サポートしてくれているスポンサー、取り上げてくれるメディアなど数えだしたらキリがない。そうなると、もう自分だけの撮影ではない。僕がスポットでメイクすれば、それは自分だけのメイクではなく、みんなのメイクになる。
撮影時に、1時間、いや2時間もメイクできずハマってしまう時がある。もう身体はフラフラで、真夏なんかは本気で倒れそうになる。まあ、トライを諦めれば、その状態から解放されるのだが、それも嫌だ。悔しい。けど辛い。でも諦めたい! けど辛い…。そんな状態の時「自分のためではなく、相手のためのメイク」と頭を切り替えられたら、言葉では説明できない潜在能力が発揮される。その力に何度も助けられた。自分がメイクすれば、映像なり写真なりが、自分だけのもではなく、お互いの共有物になるのだから。
僕は日々の生活の中で自分の為ならいくらでも怠け、手を抜くことができる。でも、スケートになると日常では起きないテンションと力が出るときがある。それは仲間と一緒に喜びたいからだ。
僕はこのふたつを、撮影時に意識している。このふたつを実践してから、僕は撮影でのメイク率がかなり上がった。狙ったスポットは時間はかかるが、かなりの確率でメイクできるようになった。おまけに、そのふたつを意識するようになってから、僕は一度もスケートができなくなるくらいのグリッチョや怪我をしていない(まあ、これはたまたまかもしれないが)。
また怪しい話になってしまったが、このふたつを実践して、僕はかなりの効果があった。だからこの撮影法はかなりオススメである。ただ「実践してみたけど全然効果ねぇじゃねぇか! 糞デシが!! うそつき」というクレームは一切受けつけないよヽ( ̄д ̄;)ノ
DESHI
旅とドトールと読書をこよなく愛する吟遊詩人。 “我以外はすべて師匠なり”が座右の銘。