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 僕自身、ストリートでスケートをしていて一番精神的に堪えるのはキックア…
──第4回 : 琵琶湖からのプレゼント

2011.11.30

 僕自身、ストリートでスケートをしていて一番精神的に堪えるのはキックアウト。キックアウトという響きは、なんとなくおしゃれに聞こえるが、なんてことない、ただ「お前らこんなとこでスケボーなんかするな。なに考えてんだ? 大の大人が」という、世間からのごもっともなお叱りのこと。これが一番堪える。今までどれくらいキックアウトをくらったことか。警備員、住民、ホームレス、こわい兄ちゃん、警察などから、もう数えきれないほど。こんなにも頻繁に、知らない人からお叱りを受ける軍団はそうない。

 そうやって何度もキックアウトをくらった経験から、自分なりのキックアウト対処方がある。それは「ひたすら低姿勢で、謝りまくる」ということ。これが一番いい。キックアウトする側は怒りのMAX。とはいえ、やはりスケーターのような、いかにも柄の悪そうなヤツらが数人でいたら、怒る側もきっと勇気を振りしぼっているに違いない。そんな精神状態の時に、こちらが、超下手&軽い笑顔で「やっぱりこんなとこでスケボーしたらまずいですよね? ただ、なかなかこういう場所がなくて。そうですよね、今すぐ帰ります。本当にすみませんでした」というような具合にしたら、ほとんどの人が一瞬「あらっ?」っと拍子抜けする。そんな表情が見受けられたらもう大丈夫。「まあな、やるとこがあまりないのはわかるけど、もっと広いとこでやってくれ」ぐらいで許してくれる。親切な人なら「あっちの公園なら、たまにスケボーやってるヤツいるぞ」など情報提供までしてくれる。

 つい最近もキックアウトされた。現在、気の合う仲間と47都道府県フィルミングツアーをしている。その日は、滋賀のローカルに極上スポットへ案内してもらった。琵琶湖が一望できる広場の中に、石畳でできた大きな灯ろうがウォールになっているスポット。激タイプ。早速フィルミング開始。なかなかハードなスポットだったが、琵琶湖の壮大なシチュエーションが僕のテンションをガチ上げしたせいか、すんなりとメイク。ただ、その日写真カメラマンも同行していたので、写真用に再トライをしていた。数分経ったころ、犬の散歩をしていたおばちゃんに、いきなり大声で怒鳴られた。「あんたなにやってるの? この灯ろうは琵琶湖のシンボルなの。わかる? 前は別のところにあったのを、わざわざここに移したのよ」とガチ切れ。やばい、どうしよう。でも大丈夫、すかさずあの対処方。「あっそうだったんですか? なんかこの灯ろうがすごくきれいで、スケボーしてみたかったんです。人もあまりいないし、安全だと思ったので。本当すみませんでした」と。案の定おばちゃんは一瞬表情を緩ませ言った。「あんたたちどこからきたの?」。この瞬間がチャンス。「あの~僕ら今、全国旅していて、今日滋賀についたばかりなんです。滋賀は始めてであまりよくわからないんです」。そこからは、おばちゃんのマシンガントーク開幕。いかにこの琵琶湖がきれいか、この辺は食べ物屋があまりない、50代の息子がいる、などなど。とりあえず、話が止まらない。おばちゃんに圧倒されていたうちらに、とどめの一言。「滋賀の女は私みたいなのばかりよ。滋賀は女が強いの」。そりゃないだろ、みんなあなたみたいな女性だったら、滋賀は世界を征服できるよ。心の中でそう思ったが、そこは終始笑顔。おばちゃんは完全にうちらを気に入ってくれた様子で、もう怒りは消えていた。

 その後もしばらく、おばちゃんの奇抜な話に笑わせてもらった。おばちゃんも上機嫌になり、しまいには「あんたら、お腹空いてないの。なんかご馳走してあげるわ」。本当? たしかにお腹は空いていた。めっちゃくちゃ行きたい。しかし、もうすぐ日没。もう次のスポットに行かないと。「おばちゃんごめん。もういかないと。でもうれしいよ」。おばちゃんはとても残念そうにしながら、わざわざうちらを見送ってくれ、しかも「みんなこれで、美味しいもん食べな」と、五千円のお小遣いをくれた。別れ際、「今度滋賀で見かけたら声かけてな。その時はちゃんとご馳走させてよ~」というおばちゃんの声が、琵琶湖に響いた。おばちゃん本当にありがとう。ストリートは出会いの宝庫。こんなかたちのキックアウトなら、大歓迎である。

DESHI

旅とドトールと読書をこよなく愛する吟遊詩人。 “我以外はすべて師匠なり”が座右の銘。

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