パチンコ、競馬などのいわゆるギャンブルはやらない。二十歳くらいの時に、バイト先の先輩に一度パチンコに連れていってもらったが、1万円の軍資金が1時間も経たないうちに消えてしまい、かなり焦った。「これは、足を踏み入れてはいけない世界だ」と、少ないバイトの給料が1時間で消えた悲しみと同時に強くそう思った。もしあの時、万が一ビギナーズラックで大金を当ててしまっていたら、僕の性格からして、その快感に酔いしれてその世界にどっぷりはまっていたにちがいない。競馬も一度だけやったことがある。これまたバイト先の馬好きの先輩に競馬場まで連れていってもらった。競馬は面白かった。場内にたくさんのオヤジたちが群がり、自分たちの賭けた馬に「行けっ! 差せっぇ! 差せぇ!!」っと叫んでいた。初めて目にした異様な光景がとても刺激的だった。また、僕は間違えて買った馬券がたまたま当たってしまい大興奮した。「やべぇ、競馬けっこう楽しいじゃん」。そう思ったが、一緒に来た馬好きの先輩は、2~3万を平気で賭け、ハズしていた。その先輩が馬より鼻息荒くなり、呆然としている姿を見て悲しくなった。「やっぱり、ハマるとこうなるんだな…危険危険」と思った。
ただ、そんな僕も宝くじはたまに買う。まあ、ギャンブルと言えるかどうかしらないが、なんちゃらジャンボとかロト6とかは年に数回思いつきで買っている。
昨年末、僕は家の近くを散歩していて、たまたま小さなカレー屋をみつけた。「へぇ、こんなとこにカレー屋あったんだ」。思わず入ってしまった。カウンターとみっつほどのテーブル席がある小さな店だった。おばちゃんひとりで店を回しているみたい。客は僕しかおらず、カウンターに座りとりあえずカレーを頼んだ。美味しいカレーを黙々と食べていたら、そのお店のおばちゃんがいきなり話かけてきた。
「どこで買っても同じじゃない?」
びっくりしておばちゃんを見ると、カウンターの上にあるテレビを見ていた。夕方のニュース番組が流れていた。「年末ジャンボ宝くじの発売が開始し、銀座の人気宝くじ売り場では長蛇の列になっている」という毎年この時期に流れるニュースだった。
あっ、そういうことね…おばちゃんの言葉の意味を理解した。
「どうなんですかね。まあ、買う人が多い場所なら、その場所で当たる数は自然と増えますよね。だから、『この場所で、1等が出ました』ってなって、みんなそこで買いたくなるんじゃないですか? ただ、当たる確率はどこで買っても同じですよね?」
おばちゃんは、僕の見解にはなにも答えず。
「お兄ちゃんは、宝くじとか買うの?」
「えぇ。まあ、たまに買いますよ」。
「じゃあ、もし1等が当たったら、何しようかとか、何買おうとか考えてるの?」
う~ん…確かに考えている。やはり、買う以上は大金を手にしたい。僕は高級車や高級腕時計が欲しいとか、立派な家が欲しいとか、そんな物欲はあまりないが、やりたいことはたくさんある。いろんなとこを旅したいし、自分で店も持ちたいし、学びたいこともあるから行きたい学校もある。
「まあ、一応考えちゃいますね。まあ、一応ね」。そう答えると、おばちゃんに
「じゃあ、あなたは宝くじ当たらないわね」と、笑いながら言われた。
えっ!? 僕はポカ~んとしてしまい、言葉が出なかった。何で!?
「こういうのはね、きっと欲が出るとだめなのよ」。
ほ~う…オレが好きそうな話じゃないか。カレーはとうに食べ尽くしていたが、他の客もいなかったし、その後もおばちゃんの話に聞き入った。
どうやら、おばちゃんの知り会いの主婦に、宝くじで大金を手にした人がいるらしい。その人はある日、自宅にある洋服を整理していたら、旦那さんのスボンのポケットから小銭が出てきたそう。そして、その人はその小銭でなぜか宝くじを1枚買った。普段から宝くじを買う人ではないのに。そしたら、そのたった1枚の宝くじが、数千万になってしまった。当たったのだ。
「その人ね、別にお金に困ってる人じゃないのよ。むしろ、わりと裕福な人なの。そういう人が当たるのよ。求めすぎたらダメなのよ、きっと…。あとね、周りに感謝してたら宝くじなんか当たらなくたって自然といいことが起こるの」。
僕はおばちゃんの話に、妙に納得してしまった。いや、たったそのひとつの事例だけで、おばちゃんの考えが正しいとは思わない。が、正しいとか間違っているとかはどうでもよく、ただそんなおばちゃんの考え方がいいな、と思った。
最近は宝くじを買っていない。今日はこれからロト6を買いに行こうと思っている。
少し瞑想して心を落ち着かせ、無欲で行ってみよう。そしたら、おばちゃんが言ってたように、大金を手にすることができるかもしれない。
そしたら、やりたいことがいくらでもできる。まずはキャンピングカーを買って、日本を旅しよう。各地で美味しいものを食べ、夜の遊びでもしてみようか。
あっ…いかんいかん。
おばちゃん。こんな考えじゃ、一生当たらないよね。
DESHI
旅とドトールと読書をこよなく愛する吟遊詩人。 “我以外はすべて師匠なり”が座右の銘。