都心の深夜、スケーターとクルーズしながらの撮影が一番、心弾みます。何が起こるか分からない、漠然としたスポットのイメージを抱いてストリートフィルミングは最高です。しかし、深夜のストリートをガラガラと騒音を鳴らしながらの移動は、良く思う人もいれば不快に感じる人もいます。そんなストリートフィルミングは時として不思議な出会いに導いてくれます。
僕もそんな深夜のストリートフィルミングで不思議な経験をしたことがあります。それはあるスケーターと2人で新宿から渋谷にかけてフィルミングできるスポットを探しながらクルーズしていた時のことです。都心のスケーターなら分かると思いますが、深夜の新宿から渋谷までのストリートには沢山のスポットが凝縮されています。新宿は人通りが少ないビル街を、代々木から原宿は坂が多い街並を楽しみ、渋谷は行き場を失った若者が街をたむろしていてワクワクします。
その日はどこのスポットに行ってもセキュリティーが現れたり、スポットとトリックのイメージが合わなかったりと、何をしても上手くいかず、いたずらに時間だけが過ぎて行くだけでした。終電もなくなり、10月にしては肌寒い夜でした。今でも場所は詳しく覚えていますが、とあるスポットを攻めていると、ひとりのおばあちゃんが出てきました。僕は夜中に起こしてしまったかと思い「すいません、直ぐに移動します」と言いました。しかし、おばあちゃんは「どうせ寝れないからね…」と、少し寂しいそうでした。
正直、僕ももうひとりのスケーターも疲れきっており、その日の撮影は終わりかなと思っていました。なので、そのおばあちゃんとの世間話に花を咲かせていました。あの辺りに住んでいるおばあちゃんなので、少し小綺麗な容姿でした。戦後からずっとあの辺りに住んでおり、夫には先立たれ、子供は自立していて、ひとり暮らしとのことです。おばあちゃんは僕たちにとても興味を持ち、家でお茶を飲んでいかないかと進めてきたのです。これもなにかの縁ということで、お言葉に甘えてお邪魔することにしました。
ひとりで住むには広過ぎる家でした。豪華とは言いませんが、昔ながらのしっかりした家です。はじめは日本茶と和菓子が出てきました。深夜3時過ぎ、日本茶と和菓子をこれほど美味しいと思ったことはありません。久しぶりに人と話したのか、その後もおばあちゃんの話はつきません。そして、僕たちは地方の出身で、都内でひとり暮らしをしていることを知り、いつもなにを食べているのかという話題になりました。コンビニや外食? そんな僕たちを不憫に思ったのか、今度はご飯を食べていくように勧められました。
ここまで話題が盛り上がると後には引けません。そこからが大変でした。少し待ってなさいとおばあちゃんは奥に消えました。ジュージューという音が聞こえてきます。おばあちゃんが次に出してきたのは、唐揚げです。夜中3時過ぎの唐揚げ定食、これほど胃もたれしたことはありません。唐揚げ定食を夢中で食べていると、ソファーに座っていたおはあちゃんがスヤスヤと寝ているのです。どうしてもお礼が言いたかったのですが、僕たちは寝付きの悪いおばあちゃんを起こさずに近くにあったブランケットを掛けて、「ありがとうございます。とても美味しかったです。スケーターより」とのメモ書きを残して家を後にしました。
その日は何もフィルミングできませんでしたが、お腹一杯なストリートフィルミングでした。この季節になるとそのおばあちゃんの唐揚げ定食が懐かしくて仕方ありません。
Takuya Nakajima
2002年よりFESNの専属フィルマーとして活動後、現在は都内の医療機関にて理学療法士として勤める傍ら、某デジタル系会社に勤務するMr.魚眼レンズ。