「スケートショップとか代理店で働く気ある?」
ある日、一緒に滑っていた友達にこう聞かれたことがある。スケボーの上に座り、アスファルトに落ちる額の汗を肩で拭いながら考えた。もの凄く暑い日で取り過ぎた水分がお腹に溜まっていて、頭の中はぼんやりしていたが、答えはハッキリと浮かんでいた。
「YES」
友達はそっか、と言って含み笑いをしたままスケートに戻った。そのあと、それに続く会話はなかったけれど、僕はたまにその言葉を思い出す。
推測するとその友達の含み笑いの意味はこうだと思う。「オレはスケートショップや代理店で働く気なんてサラサラない、スケート1本でやっていこうと思っているから」。僕たちは大志を抱きスケボーの上で大半の時間を過ごしていた若者だったということを忘れないで欲しい。
鼻で笑ってしまうような内容かもしれないが、僕たちは本気だった。「一生これで食べていく、食べていけないわけはない」と思っていた。もっと言うならその頃は、先のなり振りのことすら考えずに、毎日スケートだけしていた。どうやってスケートの時間を作るか、誰とどこでスケートするかが最優先事項だった。今となって思い返すと、なんて無計画な日々だったのだろうと思ってしまうが、たぶん何十年後に今を思い返すことになれば、同じような境遇になっているに違いないが。僕たちは少しずつ年を重ねているから、その他に考えなくてはならないことは増えてくる。若者という特権が自由な時間を与えてくれるし、誰もそれを奪ったりはしない。みんなが通るべき道だから。
その友達は僕よりも遥かにスケボーが上手かったし、当時いくつかのスポンサーもついていた。僕は小馬鹿にされたような気もしたが、その言葉が僕を正気に戻してくれたのかもしれない。ずっとその言葉が引っかかっていた。僕はどんな形でもいいからスケボーに関われる仕事がしたいと強く思うようになった。それが代理店でもスケートショップの店員でも良かった。もちろんフィルマーでも。
前置き長くて申し訳ないが、そもそも何故フィルマーになろうと思ったのか?
もともと映像に興味があったとか、その他にもたくさんの理由はあったかもしれないが、“代理店やスケートショップよりアスファルトに近い”というのが一番の理由だ。それに代理店やスケートショップで働くよりたくさんスケートができる。友達の言葉が僕の将来をより鮮明にしてくれた。頭にくる言葉でも、耳を傾けることで新しい何か見えてくるのかもしれない。とくに熱くなりすぎている時には。
Takuya Nakajima
2002年よりFESNの専属フィルマーとして活動後、現在は都内の医療機関にて理学療法士として勤める傍ら、某デジタル系会社に勤務するMr.魚眼レンズ。