Interview by VHSMAG, Photos by Junpei Ishikawa
VHSMAG(以下V): まずはラッパーとして活動する以前の話からお聞きしたいのですが、実は元々アルペンスキーのオリンピック強化選手だったんですよね?
SHO(以下S): そうですね。内定ではなくて強化指定選手でした。2006年のトリノオリンピック前の話です。ヨーロッパカップとかには出場していたんですけど、オリンピックのさらに前の段階のワールドカップにも出ていないので…一応、日本代表ではありましたけどヨーロッパカップ止まりです。
V: スキー選手としてのキャリアが絶たれたのは怪我が原因だとお聞きしました。
S: オーストリアで股関節を脱臼して日本代表から外れました。ただ、怪我を治して日本代表に戻るために1年間復帰したんですよ。JAL CUPやFISのレースでは優勝していたんですけど、その年に日本代表に戻れなくて。経済的に裕福じゃなかったですし、先がないと思って諦めました。
V: スキーのシーンは厳しそうですね。
S: 厳しいですよ。ワールドカップに出ているくらいの位置じゃないと…。まあ、裕福でスキーを続けられる人もいると思いますけど、僕の場合はそういう状況じゃなかったんで…。高1で父を亡くして、それからは母を支えなければならなかった。
V: 活動をサポートしてくれるスポンサーはなかったんですか?
S: ありました。AlpenのJapanaがスポンサーで、ギアや遠征費を提供してもらっていました。ただ収入源がないんですよ。結果を残して賞金を稼がないとお金は入ってこないという状態でした。
V: それで怪我がひとつのきっかけとなってラッパーに転向したわけですが、スキーヤー時代からご自身の中にHip-Hopはあったんですか?
S: もちろん。父を亡くした高1の頃になけなしのお金を握ってCDショップに行ったんですよ。そこでたまたまTupacのCDを買いました。そうしたら、それがすごく良くて。当時は高校の寮に入っていて5畳に3人とかの生活で厳しかったんです。しかも父を亡くして精神的にすごく辛い時期で…。そんなときにTupacの音が精神安定剤みたいな役割を担ってくれました。だからHip-Hopで精神が強くなれたというのはあります。当時のHip-Hopってハングリーでポジティブなものが多かったじゃないですか? それが僕のハートに突き刺さった感じです。だからスキーヤーの頃からHip-Hopが好きでしたね。
V: ラップを始めたきっかけは何だったんですか?
S: 兄貴が趣味でターンテーブルを持っていたんですよ。スキーの遠征がないときに兄貴の部屋に入って、プレーヤーにカセットテープを入れて、近所の電気屋で買ってきたショボいマイクを使って1時間のフリースタイルを録ったのが始まりでしたね。スキーを21歳まで続けたんですけど、それはまだスキーをやっていた頃の話です。
V: 当時影響を受けたのはやはりTupacですか?
S: あとは50 Cent、Ja Rule、Nelly、T.I.とか。Young Jeezyとか南部の音とかも好きでした。もちろんNasとかBiggieとかも大好きでした。
V: 今ではYouTubeでの活動も相まってかラッパーとして広く認知されていると思いますが、これまで苦労した時代はありましたか?
S: まず自分の場合は誰かの下についたわけじゃないので、やり方がすべて独学だったんですよ。日本で結果を出されている人はすごいと思うし彼らにリスペクトを持った上での話ですけど、僕はアメリカのラッパーから入ったんで憧れは海外に向いていたんですよ。でも僕がイケてなくて結果なんてまったく出ない。2007年に1stアルバムを出して、2010年まで3枚のアルバムを出したんですよ。流通はかけたんですけど、主にストリートで手売りする状況でした。だから全然お客さんがついてこないし、ライブをしてもガラガラで曲も覚えてもらえない。海外に出てThe Gameと繋がって日本支部にはなったんですけど、日本では「ラップが下手だし、あいつ何なの?」みたいな反響で。手売りはしていたんで投資した分は返ってくるけど、そこからのプラスアルファがついてこない。ビジネスとして苦労しましたね。
V: ラッパーとしての転期は?
S: “薬物はやめろ”を作っていて『ビートたけしのTVタックル』で取り上げられたりもして少しは認知されるようにはなったんですけど、実はそれがヒットしたわけでもなかったんですよ。2010年に「どうすれば売れるんだろう?」と考えた末、365日フリースタイルを自撮りしてYouTubeにアップすることにしました。でも、ただラップをやっているだけでは届かないんで、もっとシンプルにする必要があると思ったんですよ。そこで、いつも手売りしている路上でのライフをYouTubeで発信していこうと思いました。その中で警察に職務質問されながら「ヤクブーツはやめろ」と歌った現場も自撮りで公開したんですよね。それをある女子高生が「お前がやめろ」ってコメント付きでTwitterに勝手にアップしたんですよ。するとそれが5000リツイートくらいされてすごい勢いで拡散されて…。それが2015年。だからそれが大きなきっかけでしたね。あとは『田村 淳の地上波ではダメ!絶対!』のタトゥー銭湯の企画に出させていただいたときに僕のストーリーを取り上げてくれたおかげで、より深くみんなに知ってもらえたというのもあります。
お前がやめろwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww pic.twitter.com/DHthe2uJK4
—
妹尾ユウカ (@yuka_seno) 2015年11月2日
V: そもそも“薬物はやめろ”はどういう経緯でできたんですか?
S: O.T. Genasisの“CoCo”のリミックスを作ったのがきっかけでした。「I’m in love with the coco」の部分を「ヤクブーツはやめろ」に変えたんですよ。それが『ビートたけしのTVタックル』で取り上げられて、「ヤバい、著作権侵害で訴えられる」と思ってオリジナルのビートを作り直して音程もリリックも変えました。
V: しかもリリックの内容も真逆になっていますもんね。
S: そうなんですよ。訴えられる要素はひとつもなくなったわけです。
V: 女子高生のリツイートもあって広く認知されるようになったわけですけど、それが故のトラブルやカオスはありませんでしたか?
S: 日常茶飯事です。僕は本当にもう…クソ性格悪いんですよ。こう見えてアスリートということもあって相当負けず嫌いだから2番手はイヤなんですよ。人と同じにされるのも絶対にイヤ。ぶっちゃけて言うと、性格的に愛想よく「ヘイ!」ってやるタイプじゃないんですよ。スキーをやっていた頃もひとりでヘッドホンをつけて「オレはラッパーだぜ」って感じだったし。The Gameとかもそうじゃないですか。でも、それだとストレスがたまりすぎちゃって…。あの曲に対してクラブでいろいろ言われることもありますし。でも、その度に「ウィードは自然なものだから身体には悪くないと言って、それを子供たちが真似して警察に捕まってしまったら保証できるのか?」 と僕が言ってしまったら、完全に相手と衝突してしまうじゃないですか。暴力の衝突は時間の無駄なんで、エンターテインメントにしてすべてを笑いに変えていますね。だからしっかりと分けています。唯一の救いはTupacが7重人格持っていると言っていて、僕もいろんな人格を持っていると思えるところです。シラフなのに薬物をやっているようなキャラもできれば、クールガイもできる。今日みたいにインタビューなのに敢えて金歯をつけて滑舌悪いキャラもできる。
V: なるほど(笑)。ちなみに最近、ラッパーが次々と捕まっています。“薬物はやめろ”を掲げるラッパーとしての見解を聞かせてください。
S: アメリカは州によっては合法ですけど、日本もアメリカに近づいてきたんじゃないかなと思いますね。どうなんですかね、捕まってもいいという覚悟があってショーとして見せているのなら、ラッパーのアプローチとしてアリなのかな…。ただ、僕自身は“薬物はやめろ”と訴えているので真逆ではありますけど、それぞれの生き方を尊重しています。捕まった後にどういう展開を考えているのか。そこは僕らには見えないところだし、そこに意味があるのかもしれないので。
V: ちなみに、SHOさんの言う“薬物”にウィードは含まれているんですか?
S: 自然なものなので、僕自身は“薬物”とは思っていないです。ただ、影響のある人間が雰囲気でウィードはかっこいいと推奨して、若者が軽い気持ちで真似して逮捕されるのは避けたほうがいいと思います。日本はその代償が大きいから。
V: ではYouTubeについて。先ほど愛想のいい性格じゃないと話していましたが、YouTubeを通してラッパー以外の顔をさらけ出すのは大変じゃありませんでしたか? もちろん全部は観れていないんですけど…。
S: そうですよね、1000以上ありますから。いや、大変でしたね。でも僕の目標はグラミー賞を取ることなんで。そのためには自分を180°変えなければならない。
V: 企画はどのように考えているのですか?
S: フリースタイルです。職質はライフの中で起きていることで、速攻でポッケからiPhoneを出して撮るスタイルなんで別ですけど。ただし、たまにアクセスが減ってきてヤバいと思うときは変態ネタで票を取りに行きますよ。
V: そのへんはバランスですね(笑)。ではこれまでのYouTube動画で一番印象的なエピソードはどれですか?
S: 警察から走って逃げたのは面白かったかな。今までは普通に職質を受けていたんですけど、「走って逃げたらどうなるんだろう」という検証をしたんですよ。あれは今年一番のヒットかもしれないですね。
V: スケーターも職質を受けることが多いんですけど、どういうときに警察に目をつけられるんですかね?
S: 僕の場合はライブや大事な打ち合わせの前に来ることが多いんですよ。勘弁してほしいですね。
V: それは気が張っているから目立つんですかね? 職質を回避するベストな方法は何だと思いますか?
S: 街に出ないことですよね。
V: それでも街に出ないとならないときはたくさんあるじゃないですか(笑)。最短で切り抜ける方法は何ですか?
S: とりあえず“#ヤクブーツはやめろ”のステッカーを見せれば渋谷圏内なら顔パスですね。でも普通は切り抜けようがないですね。断ったら逆に怪しまれますし…すんなり受けるのが時間的には一番短く済みます。でも本当に一番早いのは走って逃げることです。検証してわかったことなんですけど、その時は走っている途中でスピードをゆるめたんですよ。全力で走れば絶対に勝てます。スケーターなら100%勝てると思いますね。
V: なるほど(笑)。ではラップのスタイルについても聞かせてください。ひとつのフレーズを連呼するスタイルにはどのように辿り着いたのですか?
S: 「ヤクブーツはやめろ」が広がった頃にそのフレーズを叫んでばかりいたんですよ。1日に数百人からリクエストされていたんで…。それで頭がおかしくなったんでしょうね。
V: そうなんですか(笑)。
S: そして、頭がおかしくなりすぎて“ボウズにヒゲ”が生まれたんでしょうね。
V: あの曲は頭から離れませんね(笑)。
S: 同じフレーズを連呼する曲もありますけど、そうじゃない曲も僕の中では大事な部分ですね。
V: “ボウズにヒゲ”のYouTubeのコメント欄を見ると「笑える」という人と「イケてる」という人と分かれていますけど、そのバランスはご自身の中でどう考えているんですか?
S: “ボウズにヒゲ”に関して言えば、あの曲を作る4日前くらいにお母さんがこっちに来るということで上野の美術館に連れて行ったんですよ。そこでピカソの絵にインスパイアされました。僕は曲を作る上でアイデアが浮かんでも「これをやったらマズいんじゃないか」とかいうリミッターが自分の中にあった。でもピカソは完全にリミッターを外して周りの反応を気にせずにあのような絵を描いたと感じたんですよ。そこで僕は「ボウズ」と「ヒゲ」だけで言葉遊びをできればと思いました。みんな二言って言うけど、「ボウズにヒゲ、ボボボボウズにヒゲ」、「ボウ、ズズズズズズ、ボウズ」、「ヒ、ゲゲゲゲゲゲ、ボウズ」とか…言葉遊びをすごくしているんで。マジ、ガチで真剣にアートを作ろうと思ってやったことです。僕がラッパーとして表現したいことがこれだったということです。
V: それは“Louis Vuitton”や “BABABABALENCIAGA”もそうなんですか?
S: “ボウズにヒゲ”は完全にアートを作ろうと思いましたけど、ブランドものの曲に関してはビジネスモードですよね。日本人がブランドものについてひたすらラップしていれば海外で話題になるんじゃないか。そこは世界で話題になるチャンスかなと。
V: なるほど。わかりました。ではスケートについても少し聞かせてください。スケーターのイメージってどうですか?
S: 実はスケートボードを持っています。僕のスケーターのイメージは「マジ超かっこいい」なんですよ。スキーをやっていた頃はニュージーランドに毎年遠征していたんですけど、山にスケート用のハーフパイプがあるんですよ。スケートショップもありますし。高校のときに初めてデッキを買いました。スケートにはハマりましたけど、やっぱりスキーのために筋肉をつけなければならなかったんで…。周りはカラーコーンを縦で飛んでいましたけど、僕は横が限界で…。身体的に重いから大変でしたけど、かっこいいと思いますね。
V: スケートボードが2020年の東京オリンピックの種目に決まりましたけど、それに対して思うことはありますか?
S: 僕はスキーでピチパツの全身タイツを着ていたので…。スケーターのストリート感で、スケートの後に女の子と肩を組んでバーに行く外国人をよく見ていました。そういうのにも憧れていたことはありました。だから、オリンピック競技になることはすごくいいことなんでしょうけど、やっぱりストリート感を残してほしいと思いますね。そこがかっこいい部分だと思っているので。
V: 新作アルバム『365』がリリースされるんですよね?
S: CDが19曲、DVDが18曲の2枚組です。7月11日(水)発売です。曲作りとPV撮影が1セットなんでDVDも一緒に出ます。今まではコンセプトを大事にしていたんですけど、今回はツアーの合間に作った曲をまとめたものなので「自然」ですよね。「地球と共存」みたいな感じです。
SHO『365』
¥3,500
S.TIME STYLE RECORDS
V: アルバムがリリースされた後、ラッパーとしての目標を聞かせてください。
S: まずはグラミー賞ですね。スキーでオリンピックに出て金メダルを取るというのが僕の目標だったんで、やっぱり世界の頂点を狙うということが僕の活動の軸です。
V: では最後にスケーターにメッセージをお願いします。
S: いつまでもかっこいい、ストリート感があるスケーターでいてください。それが僕がガキの頃から憧れてきたスケーターです。
1982年6月19日生まれ、飛騨高山出身、元アルペンスキー日本代表。現在はラッパー/YouTuberとして精力的に活動中。代表作は“薬物はやめろ”、“ボウズにヒゲ”など。
www.sho-official.com