「あなたにとってBESTビデオパートは?」 答えは世代によってさまざまでしょうが、自分のリストにランクインするのは『Video Days』のゴンズ、『Photosynthesis』のディル、そして『Mouse』のマリアーノ。ビデオパートにはそれぞれあまり知られていないトリビアがあるものです。たとえば『Video Days』のゴンズのパートの途中で出てくる時刻(ガソリンスタンドのダブルサイドカーブのシーン)はでたらめだったとか、『Photosynthesis』のディルのパートのイントロの電話の音声はこっそり録音されて切り貼りされたものだったとか…。
『Mouse』のマリアーノのパートにもトリビアがあることを知りました。それはこのパートを撮ったティム・ダウリングの撮影テクニックに関するもの。この人はラインを前から撮る手法を広めたフィルマーとして知られているのですが、このマリアーノのパートにはさまざまな趣向が凝らされていたのです。オープニングトリックを金網越しに撮影したり(代わり映えしない普通のスポットを特別な感じに魅せる)、LA Highのブリックバンクのスポットではカメラをできるだけ固定させてブレないようにしたり(レンガの模様が美しく流れていく)。どのように撮ればスケーターの魅力を引き出すだけでなくユニークな映像にできるか。それをつねに考えながら撮影していたといいます。
中でも一番驚いたのは、同じくLA Highの校内でのライン。これは日が照った明るい野外から暗い影の中に入っていくラインなのですが、撮影しながらアイリス(※露出補正の絞り)をイジって明るさを調整していたというのです。だからマリアーノがハンドレールに入る直前に突然画面が明るくなっています。当時のカメラはHi-8。撮影しながら映像を確認できる液晶モニターなんてもちろん付いていないため目線は被写体に集中する必要があり、さらには影の中に突入するためアイリスのメモリをとっさに目視で確認できない。そのためアイリスを回すメモリの数を覚え、指の感覚だけで明るさを調整していたというのだから驚き。
良質なビデオパートには素晴らしいスケーティングだけでなく、裏方の存在が大きく作用することを改めて実感しました。マリアーノのパート撮影にまつわる上記トリビアのシーンをGIFで貼り付けてありますのでチェックしてください。フィルマーに欠かせない創意工夫の大切さが伝わるはずです。
–MK