4〜5年ほど前、僕はスケートの意欲が急になくなってしまい、1ヵ月、いや長い時は2ヵ月くらいに1〜2日しかスケートをしない時期があった。そんな日が1年以上続いたことがある。
それまでは、土日はもちろん、平日もバイトが終わりすぐに撮影をしにいく、という日々を過ごしていた。
そのころは、『Night Prowler』、『Skate Archive』、『JAG』での、ありがたい自身のパート制作に闘志を燃やしていた。寝る間も惜しみ、つねにスケートに力を注ぎこんでいた記憶しかない。
そんな撮影が一段落ついたころ、僕は突如としてスケートから離れてしまった。
「ちょっとスケートと距離を置きたい…」。
そんな気持ちになってしまったのだ。まったくスケートをしなくなったわけではないのだが、それまではの日々と比較したら、離れたっといっていいくらいスケートをしなくなってしまった。スケート倦怠期である。
仕事が終わってから、ドトールに立ち寄りずっと読書をしたり、ただひたすらボーッとする。休みの日も、自分の興味のある著名人の講演会にいったり、なんちゃらセミナーとか、スケートとは関係ない自分の興味あることに、たくさんの時間を費やしていた。
そんなある日、僕が大好きな旅行作家のファンたちが集まる会があるという情報をゲットし、興味本意で参加してみた。
会といっても、そんな大それたものではなく、場所もちょっとおしゃれな居酒屋。参加者も10人程度だった。
とはいえ、その会は年に何回か行われてるようで、僕以外の参加者はみんな知り合いのようだ。完全に僕ひとりアウェーのオーラを放ちまくり、かなり動揺してしまった。他の参加者は、
「あら! 久しぶり~元気してた? ちょっと痩せたんじゃない! ますますキレイになっちゃって」とか「もう最近仕事忙しいっすよ! ただ、今日だけはちゃんと空けときましたから」などと、それぞれみんな最初から和気藹々と盛り上がり始めている。しかも、さっきから気になっていたのだが、誰ひとり、その僕の好きな旅行作家の話をしていない。
「これって、ただの仲間どうしの忘年会じゃん…畜生‼ やばいぜ…完全に間違えた」。僕はこれから2時間どうすればいいのだ。かなり焦った。
とりあえず会費分は元をとろう。僕は目の前にある、美味しいそうな料理にかぶりつき、酔いでこの状況を打破しようと、隅の席でひたすら酒を呑んでいた。「キャー! お願いだからこんな僕ちんを誰か助けてくれ…」。
そんな僕の状況を察知してくれたのか、ひとりの紳士が僕の隣に座り話かけてくれた。
「始めまして。Wです。この会を主催しているものです。今日はご参加ありがとうございます」。
同時に名刺を渡された。どうやら、とある健康食品会社の社長を務めているらしい。どおりで…立ち振る舞いが他の人と違う。
「あっ! 始めまして…ぼっぼっ僕、名刺とかそんなのなくてすみません。大本と申します。今日はありがとうございます」。
「いえいえ。ところで、普段は何されてるんですか?」。
僕はそんな紳士、Wさんの気遣いに嬉しくなり、いろいろと自分のことを話し始めた。普段の仕事のこと、中学生からスケートボードをしていること、好きな本、作家のこと。
それら、僕みたいなただのガキの話を「うんうん。そうなんですね」っと、あたたかく聞いてくれ、またWさんも自身の話をたくさんしてくれた。
Wさんは会社の社長さんである立派な紳士なので、ある程度僕の話に合わせてくれたのかもしれない。とはいえWさんとは話が合った。ずっと隣にいてくれた。
そして、Wさんがいきなりとんでもない話をし始めた。
「大本さんて超能力って信じます?」。
ん!
たしかに興味はある。小さいころから、超能力の特番や、透視や不思議現象のテレビ番組は食い入るように見てきた。ただ、それらのことが本当にあるのか? ただのインチキ話ではないのか? 今まで、鈍感な自分が身をもって経験したことないから、ただただ興味がある程度だった。
「え?? まあ、興味はありますけど?」
「あのですね。先日とても不思議なことがあったんです。信じてもらえるかわかりませんが、かなり怪しい話です。聞いてもらえますか?」
アッチョンブリケ! 僕は唾をのんで、答えた。
「ぜ、ぜひ聞かせてください…」。
続く。