Special columns written by skaters
スケート識者たちが執筆するスペシャルコラム
HIROKI MURAOKA

現在もっとも乗れている日本人スケーターのひとり。スケートのスキルに加え、ペインターとしても非凡な才能を持つ。

第19回:クアラルンプール体験記

 いま、マレーシアから日本へと帰国する飛行機の中にいる。この飛行機にはモニターが無い上、アルコールや機内食も有料のためビールを飲みながら映画を観るなんていう時間の潰し方ができない。当然Wi-Fiも無いからインターネットも使えない。しかも、ツアーメンバーとバラバラの席に着いているので、お喋りすらできない。ついでに言うと、隣の席は可愛い子ではなく、オッサンの典型ともいえる人で…。最強に暇です。

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 それでということだけではないが、記憶がフレッシュなうちに今回のコラムを書こうと思いついたというワケです。題材はもちろん、今回のマレーシアトリップについて。今回のトリップは、Pioneerのヘッドホンのイメージ映像の撮影のため、マレーシアの首都であるクアラルンプールで行われた。面子はMMMの重藤悠樹とVHSMAGのインターン、そして僕の3人だ。なぜ今回のツアーの目的地がクアラルンプールなのかは僕にはわからない。初めて行く国だけあって、現地へ行くまではスケートスポットがあるのかもわからない状態だったけど、細かいことは気にしないようにして、なんとかなるだろう…という思いでこのツアーに身を委ねてみることにした。

 羽田発の便に乗り、タイのバンコクでトランジットをしてクアラルンプールの空港に到着。期待を胸に空港から街に出た。その瞬間、大きな不安がよぎる。夜にもかかわらず、灼熱の暑さと高い湿度が身体を覆う。「こんな環境で日中にスケートできるのか?」 梅雨真っ最中の東京とは打って変わって、マレーシアはエルニーニョの影響でまったく雨が降らない毎日が続いていたのである。

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 翌日から撮影が始まったのだが、思った通り日中の撮影は過酷で、少しデッキに乗るだけで滝のように汗が吹き出してくる。これを毎日繰り返すのかと思うと…。しかしながら、そんな不安をよそにスケートスポットは極上で、ありえない形のオブジェやバンクやギャップが点在している。建築物も日本には無いような独創的なデザインのものが多く「これは映像になるとどこで滑っても絵になるな」と心が踊る。

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 そして、なによりスケーター的に一番驚いたのは、キックアウトがまったくと言っていいほど無いことだった(もちろん1、2回はあったがごく稀)。むしろ僕らがスケートしている姿を興味深く眺め、喜んでくれる人の方が多かったように思う。現地の人に聞いたのだが、この国のセキュリティは出稼ぎにきた外国人が多いため、無駄なトラブルを避けたいというか、自分の国のことではないのであまり気にしないのだそうだ(ある意味いい加減なんだけど)。連邦裁判所の前で滑っても、セキュリティは何も言わないどころか、目が合うとニコっと微笑んでくれて親指まで立ててくれた。行政地区以外のエリアのストリートの路面はボコボコの場所が多かったが、東京のストリートでの過酷な環境と比べると(キックアウトされるという意味で)、灼熱以外はスケート天国だったように思う。

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 撮影も順調に進んでいたのだが、2日目の夜、同行した重藤くんが撮影中にレールの上に脇腹から落ちてしまい、肋骨を痛めてしまった。彼は残りの数日間、痛み止めを飲みながら撮影に挑んでいた。こんなハプニングもあったが、最後までやりきりツアーは終わった。

 このコラムがアップされて間もなくすると、今回のトリップの動画がVHSMAGのコンテンツとして公開されるのだけど、これを見たらまたマレーシアに行きたくなると思う。そしてこれをきっかけに、マレーシアにスケートをしに行く人が増えればうれしい。特に海外は現地に足を運ばないとわからないことが山ほどあるから、積極的に足を運んで現地のヴァイブスを体感してもらいたい。今回のツアー映像を通して、現地の熱いヴァイブスと、そこで生活する人々の暖かい眼差しなどが感じ取ってもらえれば幸いです。

 最後に、現地でガイドをしていただいたマレーシア・マガジンというウェブサイトを運営している中村さんファミリーに感謝の気持を伝えたい。本当にありがとうございました。

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