Interview by VHSMAG
VHSMAG(以下V): どういった経緯でKAONKAを立ち上げたのですか?
中村久史(以下H): 実はけっこう前からデッキカンパニーをやりたいなとは考えていました。10年程前から港北ニュータウンという街で5nutsというスケートショップを任されて、ローカルスケーターたちとスケートをして、彼らに独断と偏見(笑)でいろいろなスケートの面白さを伝えてきました。で、彼らの感性とこの街特有のスポットが織り交ざって、かなり独特で面白いスケートスタイルが構築されていったんです。その時に「みんなで何かやれば面白いことができるんじゃないかな」と考えるようになりました。それからは一緒に時間を過ごして、みんなが仲間としてまとまっていきました。で、2012年にWebに自分のフルパートを公開したんですけど、その中に新里孝明と水田 准にも1カットずつ出てもいました。で、「自分たちのスケートスタイルを表現するならデッキブランド以外はないだろ?」と思ってふたりに声を掛けました。それから去年の終わりにB.P. Tradingの『THIS CONTINUED』がリリースされて、KAONKAライダーのふたり、そして自分のパートがいろいろな人に観てもらえるいい機会になったので、そろそろ初めてみようということになったんです。
2007〜2012年に撮影された中村久史のフルパート。
『THIS CONTINUED』のトレーラー。
V: KAONKAというブランド名の由来は?
H: これはまったくの造語で、この言葉自体に意味はないんです。この言葉は「カ」、「オン」、「カ」という3つの音からできていて、それぞれの音に漢字を当てはめて考えると、自分たちのスケートを表現するいくつかの意味を持たせることができます。それ自体何も意味のないものが、人それぞれの解釈によって意味を持つ。これはスケートボードにも当てはまるんじゃないかな? と思うんです。使い手次第でそれが変化して意味を持ち、意味のないものが意味のあるものに変わるのは、スケートボードもKAONKAという言葉も同じじゃないかなと。
V: KAONKAのブランドコンセプトを聞かせてください。
H: 言葉で説明するのが難しいんですが……わかりやすく言うと“自分たちのスケートボード”です。なので、自分たちの滑りを見てもらった方がわかりやすいですかね? “日本独自”とか“世界初”とかの部分に特強いこだわりみたいのはないんですけど……、所詮スケートボードって遊びじゃないですか(笑)。昔、みんなでストリートのいろんな場所を滑ってくだらないことで笑って、時には挑戦してメイクして、みんなで盛り上がって、みたいな。そんなみんなが昔、ローカルの仲間たちと楽しんだようなスケートボードこそスケートボードだと思います。それが基本としてありますね。
KAONKAのイントロダクションビデオ。
V: デッキのデザインのコンセプトやデザイナーを教えてください。
H: デザインは基本、自分で行っています。自分で写真を撮っていて、その写真でコラージュを作ったりしていたんですよ。以前は作品展なんかも開催したことがあって。その流れで自分でデザインをしています。特に強いこだわりみたいなものはないのですが、身近なものをよく写真に撮るので、デザインのベースは写真が多くなっています。あと、少し古い昭和的なデザインに惹かれるので、自然と昔のアナログ感があるようなデザインになっているかもしれないです。でも自分ですべてをやろうとは思ってはいないので、他の人に頼むこともあるかもしれないです。頼むとしたら、信頼できるライダーやローカルスケーター、新旧深いつながりのある仲間たちだと思いますね。
V: 目標にしているスケートカンパニーや共感できるカンパニーを教えてください。
H: 目標と言うとまた話が別ですが、ブランドのあり方としてGirlとかChocolate、Lakaiは本当に素晴らしいと思います。スケーターが所有して、運営して、デザインしているブランドで、スケーターのことが理解できるから、ライダーとブランドがきちんと長い付き合いができている。そして何よりライダーがブランドを運営しているので、長い時間を過ごし同じような経験を共有しているライダーもブランドを支えたいと思う。これはスケートカンパニーのあり方として理想だと思います。後はグラント・ヤンスラとレイモンド・モリナーがやっているWKNDにも親近感があって、そのブランドの紹介文で読んだんですけど「かっこいいスケートカンパニーを作るのにトップライダーばかり必要ないことを証明したい」っていう考えは共感が持てますね。
V: ブランディングをしていく上で動画は最も重要な要素のひとつだと思いますが、KAONOKAの次回作の発表予定はありますか?
H: 今、忙しく撮影と編集を同時進行しています。これも自分自身のフッテージ撮影以外はデザイン同様ほぼ自分でやっているので、いろいろ大変です。近日中にライダーのフッテージをまとめた短い動画をウェブで発表したいと思っています。自分で写真も撮るし、みんなで動画も撮り合うのでショートクリップや写真を使った作品などを作って、ウェブでいろいろと紹介していきたいと思っています。DVDとしての映像作品はいつの日か作ってみたいと考えていますが、まだスタートしたばかりなので少し先の話になりそうです。
V: KAONKAをビジネスとして拡げていくための戦略とか展望があれば教えてください。
H: いろいろ考えてはいますが、これは秘密ですかね(笑)。というか、戦略なんて大それたものはないですよ。とりあえず売れなきゃ続かないし、ビジネスとして継続してくことがとりあえずの目標です。あくまで仲間たちと共感できるスケート感をKAONKAを通して表現することが第一で、それをより多くの人に伝わるように工夫していきたいです。また自分たちのブランドだから、自分たちの意見をストレートに反映できるしクイックにも動けますからね。これは海外のブランドにライダーとしてサポートされている状態だとなかなか難しい部分でもあるとも思うんです。だから、こういう面も最大に生かして、いろんなことに挑戦してみたいですね。
V: KAONKAのふたりのライダーについて教えてください。ふたりのライダーの魅力はなんですか?
H: 新里孝明と水田 准のふたりは港北ニュータウンで育ったスケーターです。この街の独特なストリートで育った、生粋のストリートスケーター。ともに20代ですが、古いイーストコーストのスケートボードに影響を受けています。ふたりとも自分の見せ方を知っていて、それを表現するスポットも持っている。つねに作品を作る意欲が高く、年齢にそぐわない滑り方やトリックチョイス、そしてどことなく古めかしいスケートスタイルが魅力ですね。彼らと自分のスケートはB.P. Tradingの『THIS CONTINUED』でチェックできるので、是非ともたくさんの人に観てもらいたいです。
『THIS CONTINUED』より新里孝明のパート。
V: そのふたりをライダーにした理由は?
H: ふたりとも港北ニュータウンのローカルスケーターで、仲間で、ファミリーなんです。スケートボードはそういう部分がすごく大事だと思っていて、GirlとかChocolate、Lakaiなんかは本質的にそういうブランドですよね。要はライダーとの信頼関係です。またライダーたちが、自分たちのスケートの表現に貪欲でストイックな面をきちんと持ち合わせていることも重要だと思います。これは作品を作って表現していくうえで欠かせない部分だと思いますし、ふたりともこの部分を持ち合わせているのでまさに適材ですね。港北ニュータウンのローカルが絶対条件というわけではなくて、ちゃんと信頼し合える仲間という部分がすごく大切なんだと思います。もちろんライダー以外にもたくさんの仲間たちに協力してもらって、いろいろと助けてもらっています。
DAGARCIより水田 准のパート。
V: では今後の展開、活動予定など教えてください。
H: KAONKAはデッキブランドなので、 今後はデッキを定期的にリリースしていければと思っています。それに合わせて、自分たちが面白いと思えるものも作って、いろいろと発信していきたいです。そして、さまざまな場所に足を運んで多くのスケーターとスケートの時間を共有したいと思っています。自分たちをどこかで見てもらえて、聞いてもらえて、そして実際に会って一緒に滑る。それ以上のスケートの醍醐味はないですよね。さらにそれがストリートでくだらないことを言ったり撮影したりしながら、ギャーギャーとスケートできるなら最高です。それで自分たちのような小さなブランドもやっていけることが証明できれば、それを見て他にもドメスティックでいろいろなスケートブランドが始まるきっかけにもなると思うので、そうなれば日本のスケートシーンもきっともっと面白くなるんじゃないかな、と思っています。
スケートショップ5nutsの店長としてローカルシーンを支えるストリートスケーター。自身のスケートカンパニー、KAONKAを立ち上げ、今後の動向に注目が集まっている。代表作は『skate archives』、『THIS CONTINUED』など。9月下旬にはKAONKAのニューデッキとTが発売予定。