Special columns written by skaters
スケート識者たちが執筆するスペシャルコラム
HIROKI MURAOKA

現在もっとも乗れている日本人スケーターのひとり。スケートのスキルに加え、ペインターとしても非凡な才能を持つ。

第4回 : ピーポくん

 これは僕が藤沢に住んでいた時の話。
 5年程前、高校を卒業し、上京して最初に住んだのが神奈川県の藤沢だった。仕事の関係でここに住むこととなった。
 海と山が近く、スポット豊富、ChattyChattyクルーの地元だったため、スケートシーンも盛り上がっていてとても気持ちのいい場所だった。毎日、新しい刺激が多く充実していた。
そんなある日、いつも通り仕事が終わりいつも滑っている広場にスケートしに行くと見慣れないスケーターがいた。
 「こんにちは」と挨拶を交わし、一緒に滑り、仲良くなった。
 彼といろいろ話すうちに仕事の話になった。
 「仕事は何をしているのですか?」と聞くと、彼は言い辛そうに「警察官です」と答えた。

 今までそれなりに長い間スケボーをしてきていろいろな人に出会って来たが、スケーターで警察官というのは初めてだった。
 そこから彼は諦めがついたのか面白い話を語り始めた。

 まず、どこに住んでいるのかというのを教えてくれた。住んでいる場所はなんと警察の寮で、スケボーに行く際はデッキをスケートバッグに忍ばせ、同僚や先輩には「釣りに行ってきます」と言って寮を出て行くらしい。そこまでするのだから、かなりのスケート愛好家であることが分かる。僕が見た限りだが、彼はキックフリップも乗れるくらいのスキルがあり、ある程度やりこんでいるというのがすぐに分かった。ちなみに同僚や先輩には「ホントにお前は釣りが好きだな~」と言われるのだとか(笑)。
 もちろん、彼はごく真面目に警察官の業務をこなしている人なので、通報が入れば現場に駆けつけなくてはならない。
 ある日、夜中に巡回をしていると通報が入り、その通報が「スケートボードを道端でやっている人がいる」というものだった。内心「行くの嫌だな…」と思っていたがこれも命令、現場に駆けつけると数人のスケーターがいた。仕方なく注意すると、なんとその中に彼がよく行くスケートショップの店員さんも居たようで互いにかなり気まずいムードになり、注意の仕方もかなりぎこちなくなったと話してくれた。
 その後、そのスケートショップにはなかなか行くことが出来なかったそうだ(笑)。

 そしてもうひとつ。
 この話は少し過激ではあるが面白いと思ったので紹介しようと思う。
 彼自身、結構コアなスケーターであるからスケボー仲間もたくさん居るようだ。
 滑った後にみんなでスケート仲間の家に行くことになり、酒を買ってスケートビデオを見ながら飲んでいると友人のひとりがおもむろに何かを巻き始めた。
 「ん? あれはタバコでもないし…」。
 そう、友人は彼を警察官だと知りながらもハーブを巻き、吸い出したようだ。

 それをみんなでまわし吸いしていたみたいだが、もちろん彼は吸わなかったと言っていた。
 その話を聞き、僕が唖然としていると彼は、こう言い放った。
 「その時、オレは制服を着ていなかったから注意しただけで終わったけど、もし制服を着ていたら友達であろうと任務を果たしていたよ」。
 その言葉が今もなお、頭にこびりついている。

 その後、僕は藤沢を離れ、東京の池袋に移り住んだので彼とは会っていない。
 そんな彼は今どうしているのだろうか。
 そのままスケボーやりながら警察官なのか、スケボー辞めたのか、警察官を辞めたのか?
 どうなったのか分からないが、彼と出会えたことがとてもいい経験になった。

 ありがとう●●くん。
 今を楽しく過ごしていることを願う。

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