Interview by VHSMAG, Photo courtesy of StraightSix Ltd.
VHSMAG(以下V): アートを始めたきっかけを教えてください。
ドン・ペンドルトン(以下P): 4歳か5歳の子どもの頃にクレヨン、マーカーペンやスケッチパッドを持っていたのを覚えている。1977か78年頃に父親がよく絵を描いていたから、オレも隣で一緒にキッチンのテーブルで絵を描いていた。それが一番初めのきっかけかな。
V: ではスケート業界で働き始めたきっかけは?
P: Alien Workshopが初めてボードグラフィックを担当したスケートカンパニーだった。1985年にスケートを始め、次第にスポンサーがついてインダストリーの知り合いもできるようになった。のちに新聞社で働いていたとき、Alien Workshopがアーティストを募集していたんだ。オンラインでその募集を見て作品のサンプルを郵送したら面接の日取りが決定した。車で6時間かけてオハイオ州に行って面接を受け、数日後に採用された感じだった。極めて昔ながらのプロセスだね。
V: あなたのアートのスタイルについて教えてください。どのようなものや人に影響を受けていますか?
P: まず、何よりも先にスケーターとしてマーク・ゴンザレス、ニール・ブレンダーやナタス・カウパスといったプロに影響を受けてきた。GSDやジョン・グリグリーもそうだね。青春時代に目にしたグラフィックやスケート誌に心を奪われたんだ。当時はウエストバージニアというカリフォルニアから遠く離れた場所に住んでいたから、雑誌が唯一スケートシーンと繋がりを感じられるものだった。次第にファインアートに出会い、ミロ、カンディンスキーやシャガールの存在を知るようになった。それにピカソ……。オレのアートはおそらく“オーガニックなキュビズム”と形容するのがベストかもしれない。伝統的なキュビズムではなく、もっと抽象的で様式的。現段階では物事を私的に解釈できていればいいと思う。
V: アーティストとしての転機について教えてください。
P: Alien Workshopで働き始めたのが転機だったと思う。本当にいろんなことをしていたからね。ボードグラフィックだけじゃなく、Tシャツのデザインやウェブサイトを手がけ、さらにはビーニーや財布、キャップやその他アパレルも手がけていた。当時は幅広い仕事をしていたけど、中でも一番注目を集めたのがボードグラフィックだったというわけ。だから多くの作業をひとつひとつ集中してこなし、生産性を保ちながら独自のスタイルを探求できたという意味ではAlien Workshopでの7年間がオレを進化させてくれたと思う。
V: 創作のインスピレーションはどこから来るのですか?
P: 周りに広がる世界……。あらゆる生き物、昆虫、動物、植物。人間の心の状態、内なる感情。読んでいる本、古いホラー映画(コンピューターのない時代の特殊効果)。人生のあらゆる側面がアートに反映されていればうれしいね。
V: 創作のモチベーションについて教えてください。
P: かつてのオレにとってのスケートと同じだね……。正気を保つために必要なんだよ。いろんなことを消化してストレスとうまく付き合う手段。オレにとっては対処メカニズムの一種であり、平静を保つ術なんだと思う。
V: スケート関連で手がけた作品で一番印象深いものは?
P: 印象深い作品はひとつに絞れないけど、ジェイソン・ディル、アンソニー・パッパラードとスティーブ・ベラのために制作したグラフィックはどれも気に入っている。2000年頃のDaydreamというシリーズと、当時のディルが話していた話し言葉を載せた限定モデルのボードグラフィックも印象深い。
V: 現在のスケートボードのアートワークについてどう思いますか?
P: どの業界でも同じことだよ。良いものもあれば悪いものもある。アーティストとしてユニークなスタイル、クリエイティビティと新しい発想が見たいと思う。どこかから拾ってきたものを使用していたり、ポップカルチャーやカートゥーンキャラクターのパロディのようなものを見るとガッカリしてしまう。そんなものは25年前にみんなやっていたことだから。どこかで見たことがあるようなグラフィックやスキャンされた画像より、独特なドローイングやアートを見るほうが好きだね。過去のものを掘り返すという繰り返しの作業には興味がない。
V: 現在もオハイオ州を拠点に活動しているのですか?
P: まだオハイオ州が拠点だね。人目につかない場所に自宅があるのが好きなんだ。季節もしっかりと感じることができる……。夏は本当に暑くて、冬は雪が降るほど寒い。邪魔されることなくひとりで仕事ができるし、家族や友人も近くにいるからね。
V: アートは拠点とする場所の影響を受けると思いますか?
P: 受けると思う。天候がその要因でもある。冬は太陽が顔を出さない状態が数ヵ月続く。心境が作品に反映されて天候が心境に影響を与えるから、1年を通してさまざまな感情を感じることができる。もし毎日のように太陽が出ていれば、生産性やクリエイティビティを保つのは難しいと思う。それに、オレはアートシーンに触れる機会がない……。オハイオにそんなシーンは存在しないんだ。アートショーにも行かないから、他人の作品に触れることが少ない。自分の頭の中と空間で生きている感じだね。
V: STANCEのデザインも手がけていますが、その経緯を教えてください。
P: 2011年にライアン・キングマンに声をかけられたのがきっかけだった。この5年間でソックスのデザインをいくつか手がけている。ここ最近はないけど、近々またデザインする機会があればいいね。
V: ソックスのデザインとボードグラフィック制作の違いとは?
P: 主に形と素材への配慮だね。スケートのデッキはプリントが載るスペースがはっきりと設けられているのに対し、ソックスは素材を気にしながらどのように足や足首部分がストレッチするかなどを考えなければならない。履いたときも履いていないときも、どの状態でも作品として成立してほしいと思う。だから、2次元のボードグラフィックとの違いとして、ソックスをキャンバスに3次元のデザインをしているといった感じかな。
V: STANCEの魅力を教えてください。
P: スタッフがみんな親切でよくしてくれている。これまでにオレのアートショーもサポートしてくれた。プロダクトも最高品質だ。最高のソックスとアンダーウェアを手がけていると思う。素材やプリントにしても、STANCEほど高品質なものはないと思う。
V: アーティストとして、これまでのキャリアの中で一番うれしかった出来事は?
P: 好きなことをして生活ができていることだと思う。旅ができて新しい人と出会うこともできる。面白いプロジェクトを通して最高のクライアントと仕事をして新しいことにも挑戦できる。Pearl Jamのアルバムカバーを手がけてグラミーを受賞したのも最高だったけど、やはりカリフォルニアやニューヨークから遠く離れたオハイオを拠点にしながら、自由に創作できていろんな経験ができるというのが一番うれしいね。
V: アーティストとしての目標は?
P: これはいつも思っていることだけど、誰かの下で働いて時間を無駄にしなくていいように、ただただ生産性を保ちながら生計を立てていくこと。そうして創作にすべての時間を充てることができればアーティストにとって本望だと思う。
V: では最後に、現在手がけているプロジェクトを教えてください。
P: 今年は忙しい1年だった。旅も多かったし、Volcomとのシグネチャーコレクションもあった。さらにはソロのアートショーも控えている。だからこの先は自分のファインアートに専念する予定。アーティストは、進化したり実験したりするために自分だけのオフの時間が必要なんだ……。アーティストにとって失敗は不可欠。でも、それは公の場ではなくプライベートな空間でのほうがいいからね。あとはPoster Child PrintsというLAの出版社から新しい作品がリリースされる。それ以外は特にないね。
ミニマルでオーガニックな作風で注目を集めるアーティスト。Alien Workshopの専属デザイナーとしてキャリアを開始し、これまでにElement、Volcom、STANCEなど、さまざまなクライアントとともにコラボプロジェクトを実現させてきている。
www.elephont.com