「おおもっちゃん(弟子のこと)、知ってる? 昨日お父さんが言ってたんだけど、地球には宇宙人が人間になりすまして紛れ込んでるんだって。これからドンドン増えてくるらしいよ」。小学校4年生の夏、僕と毎日のように遊んでいたOくんが、凍った「あんず棒」をしゃぶりながら、突然そう言った。突然のOくんの言葉に、純粋無垢なデシ少年は戸惑った。「マジかよ? それちょーヤバいじゃん。クラスのやつにも紛れ込んでたら激ヤバだな」。しかし、そんな気持ちを抑え大人ぶり、冷静を装った。「あっそうなんだ。可能性はあるかもね。何しに地球にきてるんだろうね」。その話題はそれ以上発展することはなかった。そして、その後もOくんと一緒に、自動販売機の下を覗き歩き、小銭をひたすら集めて駄菓子屋へと向かった。
僕にとってOくんの話は衝撃だった。そのときこそ冷静を装ったが、その日以来、宇宙人のことをよく考えるようになった。「地球外生命体って本当にいるのかな? 怖いのかな? 優しいのかな? 僕も宇宙船に乗せてもらい、いろんな星に連れてってもらいたいな」。テレビの『宇宙人特番』らしきものは、食い入るように見るようになった。デシ少年は、Oくんの話を全面的に信じてしまったのだ。
去年、金沢に遊びに行ったときに、金沢スケーターSくんの車に同乗させてもらった。Sくんと僕のふたりは足湯に向かう途中だった。何気ない話を一通り終えると、Sくんがいきなり話はじめた。「デシくんってUFOって見たことあります?」 おっ、きたな。僕はこの手の話には目を輝せてしまう。そう、幼いころに聞いたOくんの話が、今もなお意識にがっつりと入りこんでいるからだ。ただ、問題がひとつ。僕はこの手の話が大好物にもかかわらず、実体験はゼロ。霊感などまったくないし、宇宙人はおろかUFOすら見たことない。僕がその手の話をするとなると、説得力はゼロ。ただ聞くだけ。でもそれでいいのだ。それだけで僕の心は高鳴る。「いや、見たことないよ、興味はあるけどね。っで見たことあるの?」 Sくんは話を続けた。そして僕は興味津々に彼の話を聞いた。しかし、なんてことない、ごく普通のUFO目撃談だった。UFOなる未確認飛行物体を目撃したという人は意外に多い。僕は何人もの人から目撃談を聞いている。おそらく、3人にひとりくらいは「UFOらしきものを見たことある」と答える。だから、そんじょそこらのUFO談ならビクともしない。宇宙船に乗せられ、インプラントされたことがある、というのなら質問攻めしまくるだろうが。だから、そのときのSくんの話も、申し訳ないが普通に聞き流した「へぇそうなんだ、オレもUFO見てみたいなぁ」。
S君もそんな僕の心情を察知したのか、次なる話をし始めた。「デシくん、僕ね、猫人間見たことあるんですよ」。うっっ、猫人間? UFO談は前フリだったのね。キミなかなかやるじゃないか。「何それ? 劇団四季の『キャッツ』を見に行った、とかそうゆうオチじゃないよね? ちょっと詳しく聞かせなさいよ」。
Sくんはニヤリと不敵な笑みを浮かべ、猫人間の話を開始した─。
続く…