こんな話を聞いて驚いたことがある。アメリカの子供たちの、将来なりたい職業のランキング上位に、なんと「プロスケートボーダー」というのがランクインしているらしい。しかも、プロ野球選手よりもランクが上だという。こういった話は、人づてを繰り返し、話がでかくなりがちなので、本当のところはどうかわからない。ただ僕自身、何度か海外に行き、自分の目で、あちらのスケートシーンを少しは垣間見たことがあることから、あながちデタラメな情報ではないように思う。
アメリカには、いたるところにスケートパークがある。初めて西海岸に行ったとき、そのパークの多さにかなりテンションがあがった。そして、それらのスケートパークでは、必ず多くのキッズスケーターたち(中学生くらいも含む)が、大人たちと一緒に切磋琢磨していた。そんなアメリカのキッズスケーターたちが、アメリカのプロスケーターに憧れ夢見るのは、ごく自然な状況ともいえる。
一方、日本ではどうだろう。ここ近年、日本でも続々とパークが増えている。10年ほど前に、三鷹や吉川にコンクリートパークができかなりの話題になったが、それからというもの、日本全国いたるところにパークができてきているようだ。
横浜にスケートショップを経営している、スケート歴20年以上の長老スケーターがいる。先日、その長老に20年前のスケートシーンについて話を聞かせてもらった。
「オレらがスケート始めたころは、アメリカにパークがバンバンできてたんだよね。そのころ、オレらは頑張ってジャンプランプ。しかも超小ちゃいやつ。もう、雲泥の差だよね。そんな時代を知ってるから言えるけど、今日本でも当たり前のようにパークがあるじゃん? もう、考えられないよ。やばいよねぇ~、やばいよねぇ~」と、満面の笑みで、幸せそうに話してくれた。
そんな日本のパークへ僕もたまに滑りに行くことがあるのだが、そこで目にするのは、キッズスケーター。そう、パークが増えるのと比例して、この日本でもキッズスケーターが急増してるようなのだ。なかには、親子が一緒になってスケートしてることも珍しくない。とても微笑ましい光景だ。日本全国、いたるところでキッズスケートスクールというのも行われている。
そんな日本のキッズスケーターたちは、将来何を目指しているのだろう。今、これだけのキッズスケーターが増えているということは、その中には、とてつもない野望を持った子もいるかもしれない。
学校での三者面談なんかでも、
「ひろきくん。キミも来年は高校受験となるわけだが、今日はお母さんも含め、3人で進路について話合いたいと思う。どうだい? 自分なりに、考えてることあるのかい?」
「先生、母さん、今日は本音を伝えるよ。実はオレ…プロのスケートボーダーになりたいんだ」。
「ひ、ひ、ひろき! あんた何を寝ぼけたこと言ってるの? 本気なの? あんなのは、子どものお遊びよ。冗談言うんじゃないわよ!」
「オレ、決めたんだ。本気なんだよ」。
「そんなの認めません! あなたは、お父さんの病院を継ぐの! いい高校に進学し、国立の大学に行かないとだめなのよ。先生も言ってあげてください!」
「ひろきくん、ちょっと先生の話を聞いてくれるかな。実は先生、キミくらいの年のころ、ローラースケーターだったんだ。もう勉強もろくにせず、毎日どっぷりハマっていたんだ。自分で言うのもなんだが、ジーンズにジャンバーにバンダナなんかして、当時はかなり先をいっていたんだよ。まあ、それはいいか…で、両親にも伝えたよ。『オレにはローラースケートしかない、将来はこれで生活する』ってね。そしたら言われた。家族はもちろん、親戚、友人、周りの皆から、『そんなの絶対ムリ』ってね」。
「そうだったんだ…で、その夢、諦めちゃったの?」
「そうだよ。現に今こうやって、先生やってるからね。当時、ある芸能プロダクションから誘いがあったんだけど、先生はそれを断ってしまった。周りの人の言葉に惑わされてしまったんだ。自分でも、これでいいんだ、なんて思ってたよ。もちろん今は、この仕事に誇りを持ってる。だがね、こうやって先生をやりはじめて数年経ったとき、光GENJIというグループが一世を風靡したんだ。先生は心の底から悔やんだよ。泣いて泣いて泣き崩れたよ。悔しかった。そして自分を責めたよ。やっぱり、諦めきれてなかったんだ。それからしばらくは、立ち直ることができなかった。だから先生は、自分のような思いを、ひろきくんには味わってもらいたくない。キミの気持ちはすごくわかる。たとえその夢が叶わなくてもいい。そんなことはどうでもいいんだ。とことんやってみることに意味があるんだ。ひろきくん、大志を抱け!!!」
「先生まで何を言ってるんです!? この子は医者になるんです! しかもあなたに今まで、どれだけのお金かけてると思ってるの? 毎月の塾、お稽古の費用、いくらか知ってるの? ちゃんと考えなさい!」
「母さん本当にごめんよ。でも、もう世間のモノサシに振り回されるのは嫌だよ。高校には進学しない。バイトして、海外に挑戦しに行く。そして、スケーターオブザイヤーに輝くんだ」ってな感じの会話が、交わされている可能性も充分にあり得るのではないだろうか。
うん、あり得る。この日本のどこかで、きっと。