Special columns written by skaters
スケート識者たちが執筆するスペシャルコラム
YOSHIHIRO “DESHI” OHMOTO

弟子の愛称で慕わられ、carharttのグローバルライダーとして活躍する大本芳大。 旅とドトールと読書をこよなく愛する吟遊詩人。 “我以外はすべて師匠なり”が座右の銘。

第3回 : 車内にて

 日本の土地柄、スポットの密集率の関係か、日本のスケーターは、スケートボードという移動できるものを持っているにもかかわらず、車での移動が一般的である。以前フィラデルフィアに行ったとき、1ブロック間隔に『Eastern Exposure 3』に出ているスポットがあってかなり震えたが、日本の大都市でもそこまでの都市はないように思う。やはり、車がないと1日にたくさんのスポットを廻ることは難しい。

 今まで大小含め、スケートトリップに数えきれないくらい行った、もちろん車で。極上スポットがあるという噂を耳にしたなら、車で数時間かかる場所でも、目をギラギラさせながら向かう。スポットのためなら、どこへでも行けてしまう。そんなことをもう何年も続けているが、たまに思うことがある。

「もしかしたら、スケートしている時間より、車に乗っている時間の方が圧倒的に長いのではないか?」と。

 そんなことを思うと「スケーターというのは、本当にバカだな」っとため息が出そうになる。お金と時間をかけ、極上スポットへ辿りついたにもかかわらず、瞬殺でキックアウトをくらってしまった日には…

「お母様申し訳ございません、私は人生を踏み外したのかもしれません」。
なんて思いが頭をよぎる。

 がしかし、そんな切ない日であっても、帰りの車内で仲間一同、どーんと暗い空気になることはない。むしろ、解散の場所に近づくにつれて、仲間との別れが寂しくなり「まだ時間あるし、ちょっと夜景でも見に行こうよ」なんて、訳のわからないことを言いそうになる。そう、スケート仲間との車内は、実は最高に楽しい空間であるのだ。

 年齢・出身が異なる、むさ苦しい野郎どもが、3~4畳のスペースでひしめき合い、バカ騒ぎしている。考えてみたら、スケーターの車内はとてつもなく異様な空間であるのかもしれない。しかも、飲み屋と違いみんなシラフ。

 そんな車内で繰り広げられる会話は、おそらくどの県のスケーターも、ほぼ同じと思われる。まず、もちろんのことスケートの話から火がつき始める。「最近の誰々のパートがやばかった」、「誰々があそこで何々をメイクした」、「誰々のスタイルがやばすぎる」といった具合に。かなりマニアックなスケーターが一緒になれば「411ヨーロッパのビデオで、マコ・ウラべが360フリップテールグラブを決めた後に、観客に向け手を振る顔がヤバい」というような、心からどうでもいい話をする輩も出てくる。ただ、そんな会話がめちゃくちゃ楽しい。気がついたら、何時間も経ってたりする。

 そして、一通りスケートの話が尽きてくると今度は「誰々が最近かわいい」、「AKB48の中だったら誰が1番いいか」、「何カップが1番いいか」などなど、いわゆる猥談のオンパレードが始まる。むしろ猥談というよりは、男の切ない夢、願望かもしれない。が、やはりこれまた盛り上がる。終いには

「あー!! 女の子と遊びてぇぇー!」
と、いきなり叫び出す輩が、高確率で出てくる。かなり切ない。

 これからも、スケートを続けていく限り、車での移動は避けられない。ということは、スケート仲間と一緒にスケートをするよりも、一緒に車内にいる時間の方が長くなる可能性が高いのである。おかしな話だ。でも全然かまわない。僕はスケーターと一緒にいる車内が大好きだから。

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