今年の夏は例年になく雨が続き、多くのスケーターを悩ませた。そんな東京からのささやかな逃避行…というわけではないが、人生3度目となるニューヨークへ。目的は『Spirit Quest』の試写会に参加するため。以前から「このビデオの中でパートを持つことができたときには、どこであろうと試写会に駆けつける」と決めていたのだ。
このパートは、フィルマーのコリン・リードとNYで初めて会った時に撮影した映像と、2度にわたるコリンの日本滞在、それに後から彼に送った映像で構成されている。最初にコリンから「ヒロキのフルパートを作りたい」と聞かされた時、「なるべく日本での映像を使いたい」とわがままを言い彼を説得した。その方が自分らしい作品を作れると思ったし、海外に日本のスケートボードを少しでも発信できるのではないかと思ったからだ。コリンにとっては、僕を撮るために日本に来ないといけなくなるので大変だというのは分かっていたが、このコンセプトは僕の中ではとても重要なことだった。コリンは来日し、僕の家に泊まって撮影を繰り返した。喧嘩になったり怪我をしたり撮影中のキックアウトでコリンがキレたり…と苦楽の時間をともに過ごすことにより、ふたりの仲は深まっていった。
そして冒頭に戻るが、DVDを完成させたコリンからNYでの試写会のお呼びがかかったというわけ。今回の訪問は前回からすでに3年が経っていたため、NYにいるのがなんだか不思議な心境だった。ニューヨークに到着すると、ジェシー・ナーバエズがメキシコ料理を振る舞い歓迎パーティを開いてくれた。マンハッタンの街並みが見渡せる屋上でメキシカン料理を食べながらビールで乾杯。久々に会う友達と至福の時間を過ごすことができた。
夜は明け、試写会当日。早めに会場入りし、みんなで準備をしていると次第にスケーターが集まり、やがて会場には溢れんばかりの観客が押し寄せていた。中には有名スケーターも数多く来てくれたみたい。シアターでは立ち見客が出るほどの盛況ぶりだった。試写会中は歓声や拍手が止むことなく、僕のテンションも最高潮に。上映後にコリンがステージに立ち、作品の軸となるパートを担当したテイラー・ナロキ、マット・タウンと僕を呼びよせ、コリンとともに4人でステージに上がった。コリンが「彼らはこれでシグネチャーデッキを出し、プロに昇格したぜ!」(イギリスの試写会ではクリス・ジョーンズもプロに昇格)と僕たちを紹介してくれ、シアターを出た後もいろんなスケーターに祝福の声をかけてもらった。
興奮覚めやらぬ僕は「最高だったよ、作品!」とコリンに伝えると、彼はこう言った。「お前のパートを撮るのがこのビデオを作るきっかけだった。これはオレからのプレゼントだ」と。