Special columns written by skaters
スケート識者たちが執筆するスペシャルコラム
HIROKI MURAOKA

現在もっとも乗れている日本人スケーターのひとり。スケートのスキルに加え、ペインターとしても非凡な才能を持つ。

第18回:KING OF STREET

 自分のなかで「King of Street」と言えば真っ先にリッキー・オヨラが思い浮かぶ。そもそもストリートスケートと言うカテゴリーの中で、なぜリッキー・オヨラがKing of Streetなのか、という話を今回はしたい思う。
 先月まで、僕はアメリカへ3ヵ月間のひとり旅に出ていた。最初に到着したSF、LAの滞在を経た後、自分は東海岸はニューヨークへと向かった。そしてかねてから連絡をとりあっていたリッキー・オヨラとNYで合流することとなった。
 待ち合わせの場所に行くと、パット・スタイナーとフィルマーのジョシュ・スチュワートとともに、リッキーは朝食のサンドイッチとコーヒーを楽しんでいた。彼らとの久しぶりの再開を果たし、しばらくの間近況報告や雑談などを行っているとZoo Yorkのライダーのブランドン・ウエストゲートも合流。自然と「みんなでマンハッタンのストリートに出かけよう」ということになった。
 リッキーは「久しぶりに滑るなぁ」とつぶやきつつもプッシュを始める。リッキーがデッキに乗った途端に、なにか雰囲気が変わるのに気がついた。東京では何度か一緒に滑ったことがあったが、そんな風に感じたのはこの時が初めてだった。言葉で説明するのはとても難しいが、パワーと重量感があり、周りを飲み込むようなオーラに感じられた。
 やがて、ジョシュが「いいスポットがある」と言うので、そちらに移動することに。ジョシュの言うスポットまでは10ブロック程。プッシュで街中を駆け抜けていくのだが、さすがにNYの中心地であるマンハッタンだけあり人と車の量が尋常ではない。観光客やビジネスマンが足早に通り過ぎ、イエローキャブはあちらこちらでけたたましいクラクションを鳴らし続ける…。そんな喧騒の中をプッシュで駆けていく時、僕は信じられない光景を目の当たりにした。
 な、なんとリッキーは一度も止まらなかったのだ。どれだけ人や車が来ていようと、網の目を縫うように進んで行く。僕も街中を流すのには慣れている方だとは思うが、リッキーについていくことができない。至るところで危険を察知して、身体が反射的に止まってしまうのだ。スピードが早いので知られているウエストゲートですらもリッキーから引き離されてしまう。これには度肝を抜かれた…。
 もし石にでもひっかかりして転倒すれば、交通事故を招いて最悪のケースという危険性も十分にある。そんな僕の心配をよそに、リッキーはひたすら目的地までプッシュで駆け巡る。目的地に到着したときには、僕は興奮していた。そして悟った。「彼の移動はトリックなのだ」と。
 こんなスケートボーダーは、今まで見たことがなかった。その後、1日中マンハッタンをまわったが、リッキーはプッシュの途中で一度も止まらなかった。
 そんなリッキーに「止まらないのヤバいね!」と話すと、彼は一言「I don’t like to stop」と言い放った。
 それからあれこれ自分なりに、結局のところストリートスケートってなんなんだろうかと考えたところ、トリックやスピードとか以前に、ストリートスケートの究極は”移動” なんだと教えられたような気がした。そしてそのことを気づかせてくれたリッキー・オヨラこそが、僕にとってのKing of Streetなのだと。

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