まったくプランを立てずに旅をする人がスケーターには多いような気がする。通常なら旅立つ前に泊まる場所を決め、“地球の歩き方”を読みながら目的地を想像しワクワクするのだろうが、スケーターの多くは違うように思える。
そう言う自分も例外ではなく、数年前のサンフランシスコひとり旅はまったくのノープランだった。泊まる場所が決まっていない僕は、現地にいる日本人の友人に泊めてくれるスケーターを紹介してもらったのだ。紹介されたスケーターは長身でハンサムな白人のエマニュエル。彼と少しスケートボードをした後「泊まるところ無いんだろう? うちに来なよ」と言ってくれた。
その日に出会ったばかりの英語も話せない東洋人をいきなり泊めてくれるなんてメチャクチャいいヤツ! と思ってついて行き、電車を降りるとこれまでいたSFの街中とは少し雰囲気が違っていた。勘ぐる暇もなく駅から少しプッシュして到着した先は、鍵が二重にかけられた工場だった。
「えっ? 何ここ?」と不安げな顔をした僕にエマニュエルは「オレはここで働いて、ここに住んでるから適当にゆっくりしてくれよ」と言ってくれた。とても疲れていた僕は、そのままソファの上で寝落ちした。
夜が明け、朝が来ると工場は稼働し始めた。昨夜は真っ暗でわからなかった内部を見渡すとたくさんの機械と働いているおじさんがいた。エマニュエルはそのおじさんをこの工場のオーナーだと紹介してくれた。
「泊めさせてもらってありがとうございます。何か手伝うことはあるでしょうか?」と拙い英語で話しかけると「じゃあ、これ洗っておいてくれ」と言われたので「OK」と返事をし、言われた通りに手伝いをすることになった。洗うものはというとシルクスクリーン用の枠だった。どうやらここはプリント工場らしい…。一通り洗い終えると「これもやっておいてくれ」とまた違うものを渡された。そのやりとりが数回あって気付いたら時間は午後4時前になっていた。
朝起きた時の「何か手伝いましょうか?」の一言は、結局普通の労働になっていた。その後、夕方からエマニュエルと一緒にスケボーしに街に繰り出し、その日に遭遇したスケーターに「今ウエストオークランドって場所のプリント工場で寝泊まりしてるんだ」と伝えると、彼の顔が曇った。そして彼は「そこは凄くゲットーだから、駅から泊まってる場所まで絶対に歩くな、プッシュしろ」というアドバイスをくれた。確かに思い返すと雰囲気は決していいとは言えず、終始重い空気が漂っている場所ではある。僕はすぐに「ウエストオークランド 治安」で検索すると、案の定僕の不安を煽る悪いことばかりが記載されていた。かといって他に泊まる場所があるわけでもないので、また工場へ戻ることに。すると駅から工場までの途中の道端に花束と風船とロウソクが置いてあるのに気がついた。その時は気にせず通り過ぎたのだが、後から気になり始めたのでウエストオークランドのスケーターに聞いてみた。そしたら「最近あそこで子供が銃で撃たれたんだ。多分子供同士の喧嘩だよ。ガキはバカだからさ」と冷静に言い放った。このとき、僕は日本じゃありえない環境に身を置いていることを実感した。
ある日の仕事終わりにオーナーが僕を呼び「サンキュー」と言って賃金をくれた。泊めさせてもらってる上に金がもらえるなんて思ってもいなかった僕は、うれしさと申し訳無い気持ちでその金の一部を使いみんなにビールを買って帰ると、エマニュエルとオーナーがBBQをしてくれた。ふたりがいったい何を話しているのかは分からなかったが、とても充実した楽しい時間を過ごすことができた。結局10日ほどそこに泊めさせてもらい、仕事を手伝うはめになったが全然嫌じゃなかった。むしろプリント工場の雑務は楽しかったし、良い人ばかりだった。
そこは確かに治安は悪いかもしれないけど、スケボーがあれば友達もできるし、スケボーしていれば観光客だと思われて危ないヤツに狙われる可能性も低い。だからスケーターは「スケートボードさえあれば、プランを立てなくてもなんとかなる」と思うのかもしれない。楽天主義というか、どうにかなるでしょ精神を持った人が多いような気がする。実際に僕の無計画な旅も、振り返るととてもいい経験となったし、普通ならできないようなことを体験することができた。
昔からこう思う。「スケートボーダーは遊びの天才で、スケートボードはいろんな場所に連れて行ってくれて人と人を繋げてくれる魔法の乗り物なのだ」と。
たまにはみなさんもスケートボードを片手に、ノープランで地元を抜け出してみてはいかがでしょうか?