「Skateboarding Is Punk Rock!」と叫ぶスケーターはこの世に少なくないと思います。私自身も本格的にスケートボードにのめり込むきっかけになったのはパンクロック、ハードコアパンクでした。今も時折スケートしている最中に、その時に合った曲が頭の中で勝手に鳴っていて自動的にテンションを上げていたりします。パンクだけに限らずスケートボードと音楽は切っても切り離せない関係だと自分は思います。
’80年代後半、アメリカンハードコアパンクがきっかけでスケートボードにのめり込んでいた自分にはスケートボードと、それにまつわる音楽の情報を2、3ヵ月遅れで日本に入荷するThrasher Mag、仲間からの口コミ情報、そして実際にレコードショップでDIGしたそれっぽいバンドのアナログ盤のジャケット写真やクレジットをヒントにひたすら集めていました。
スケートロックという言葉は今では珍しい響きではありませんが、元々アメリカンハードコアパンクシーンでスケートに傾倒するパンクたち、スケートパンクがスケートロックと呼ばれるようになり、自分の情報が正しければThrasher Magが’80年代にスケートロックという言葉をメジャーにしたと記憶しています。1983年にThrasherが『Skate Rock』というコンピレーションシリーズをリリースし始めました。アルバムによってさまざまですが、シリーズ全体の中身はパンクやハードコアパンクを中心に、それ以外のジャンルのアーティストも多く参加するというクロスオーバーした内容でした。このコンピレーションに参加するアーティストの基準は、スケーターがバンドやプロジェクトのメンバーにいることが基本条件だということをHigh Speed Productions(Thrasherを運営する会社)のJ.P.氏が何かの誌面で話していたのを覚えています。すごいと思うのは、現在もJ.P.氏自身がTNTと彼の奥さんと3ピースのBad Shitというバンドを組んでいて、2年程前にもSkate Rock Tourをアメリカ国内で行ったり、その前の年にはFelem Skatesが協力して日本国内ツアーも行っているということです。長島 亘氏(’80年代から現在も現役で活躍するスケーター)がヴォーカルをとるTsuchinokoもこのUSとJapanツアーに参加していました。個人的には『Skate Rock』コンピレーションは特にVol. 1からVol. 3がツボで、本当にカセットテープ(当時カセットテープでのリリースは当たり前でした)が伸びるまでよく聴きました。
Thrasherのコンピレーションアルバムもよく聴きましたが、スケートロックカルチャーの決め手となったのは1986年にThrasherよりリリースされたスケートロックビデオ『Blast From The Past And Present』でした。情報が乏しかった当時高校生の自分には、かなり衝撃的な内容の映像の連続で、そこにはブーツのかわりにスニーカーを履いて腰にネルシャツを巻いたスケートパンクが激しく自由気ままにスケートしている姿がありました。さらに驚いたのはダービーパークの映像の中で、普通にThe AccusedやVerbal Abuseなど(当時のアメリカンハードコアパンクシーンで活躍していたバンド)のメンバーが滑りに来てたまたまカメラに収まったような映像が収録されていることでした。しかも彼らはスケートボードを持っていて、実際に滑っている映像もありました。自分は’80年代当時の日本にスケートボードブームがあったこともあり、当時たくさんのポーザーを見ていたこともあったため「スケートロックと名乗るのはスケーター以外認めない!」的な考えがありました。このスケートロックの映像を観て「やっぱり滑ってるんだ!」という思いに期待は高まり、さらなる情報収集を続けたのでした。
今もスケーターが加わっているバンドは数多く存在します。プロスケーターや元プロスケーターが加わっているバンドも多く活動していて、それぞれ強烈な個性を放った音を作っていて興味深いです。最近のスケートロックと呼ばれるバンドの中ではThe Shrineが自分的に注目株です。音はハードコアではなくハードロックなのですが、センス、風貌ともにいい感じで、ギター、ベース、ドラムからなるトリオバンドでギター兼ヴォーカルのJoshは完全なスケーター。彼らがヴェニスビーチ出身のバンドだからといえばそうなのかもしれませんが、彼らの2ndアルバムのジャケットはどう見てもDog Town Skatesが’80年代にリリースしていたBorn Againのグラフィックを意識したものとしか思えないくらいにヴェニス・スケーター魂が伝わってきてとてもいいです。彼らが最初に来日した際には思わず前売りチケットを買い、当日は若い人たちに混ざってスラム&モッシュしていました。
スラッピーグラインドやボーンレスなどのオールドトリックはパンクなスケートトリックと思うのは自分だけでしょうか? ’80年代、下北沢にViolent Grindというスケートショップがありました。正規代理店のない入手困難なスケートブランドやハードコアパンクやスケートロックの音源を取り扱う、とても貴重なショップでした。当時自分にはViolent Grindの店名はスラッピーグラインドを連想させました。スラッピーグラインドはオーリーやノーリーで飛んでから縁石に入るのではなく、ダイレクトに縁石にトラックを当て込みグラインドする、強引で暴力的なトリックです。自分の中のViolent Grindのイメージはそんなスケートボードのバイオレントな面とスケートロックのバイオレントな面が交差していたこともあって、スラッピーグラインドはパンクなイメージが定着したのだと思います。ボーンレスも同じくパンクなスケートトリックのひとつだと思います。テールやノーズを弾いて飛ぶのではなく、自分自身が板と一緒に飛び、板自体に飛び乗ってしまうという、何とも強引でバイオレントなトリックです。’80年代にBoneless Onesという巨漢メンバーからなるパンクバンドも活動していたので、さらに自分の中でパンクなイメージが強くなったのかもしれません。決してパンク=暴力的ではありませんが、若い頃はパワフルで破天荒なハードコアパンクやパンクロックが自分の中では暴力的に映った部分もあったのでしょう。
Skateboarding Is Punk Rock! きっとこの図式は自分の中で一生崩れることは無いと思います。
Thrasherのスケートロックビデオ『Blast From The Past And Present』。当時このビデオに使用されている音源はほぼ全部集めたくらい好きで観まくりました。
当時どこで入手したか定かではないスケートロックのポスター、『Skate Rock Vol. 3』の販促ポスターだと思われます。
壁を蹴り板に飛び乗るバージョンのボーンレス。この当時着ていたExcelのTシャツは何処にいってしまったのだろうか?
The Accused “Take No Prisoners”
Thrasher Skate Rock Volume 3 『Wild Riders Of Boards』に収録されていた曲です。スケートロックシリーズの中でも特に聴いたアルバムがWild Riders Of Boardsです。日本のUK Edisonというレコード屋さんのレーベルから日本版のアナログが発売された時はかなり驚きました。