スケートボードは運動競技ではないと自分は考えています。基本的に運動競技にはルールがあります。しかしスケートボードにルールはありません。特に決まったことがなく、人それぞれが思いのままにスケートボードに乗って楽しむものだと考えています。

　スケートボードがオリンピック種目に決まって一部では競技化が進んでいます。ルールを決めることで本来の自由さはなくなりますが、誰にでも理解できて楽しむことができる運動競技になります。コンテストやオリンピック競技にとってはルールや種目分けも重要なポイントだと思いますが、自分は自由なスケートボードが好きなので競技としてのそれには興味がありません。しかし進化していく技術面には興味があります。

　スケートボードはその人の好みによってフラット、ストリート、トランジション、ダウンヒル、スラロームなど、さまざまなスケートスタイルを楽しむことができます。どれも奥が深く、みんなそのどれかを追求することが多いのですが、中にはひとつのスタイルにとらわれずオールラウンドに滑るスケートボーダーも存在します。自分はトニー・アルヴァが’80年代後半に率いていたTeam Alva（Alva Posse）に夢中でした。プールスケーターとしてのイメージが強いトニー・アルヴァですが、当時のAlva Posseにはオールラウンダーが所属していました。中でもビル・ダンフォースは唯一無二のスタイルで、バート、プール、ストリートを滑っていましたし、’89年にAlvaからWorld Industries（SMA）に移籍してしまったジェフ・ハートセルも本当に何でもスタイリッシュにこなすオールラウンドスケーターでした（J・ハートセルは今も現役で洗練された滑りを見せてくれています）。Alva Posseはロングヘア、ドレッドロックス、スキンヘッドにショーツとライダースジャケットを合わせ、ロッカーズ、パンクス、ラスタ、スケーターのいずれにもカテゴライズできない出で立ちで、自由の象徴的な集団でした。そんな垣根のないところもスケートボードの魅力だと思います。

　では運動競技ではないと言うのなら、スケートボードは何なのでしょうか？　“SKATEBOARDING IS NOT A CRIME.”、“SKATEBOARDING IS ART.”、“SKATEBOARDING IS PUNK ROCK.” などさまざまな表現がありますが、自分はスケートボードは自由の象徴で、人生の一部だと思っています。「スケートボードは裏切らない」という話を多くの人から聞いたことがあります。特に自分のような50歳前後のスケートボーダーから多く聞きます。若い頃にのめり込んだ経験がある人は、一度離れてしまっても再び戻ってくるのはそういう理由からだと思います。スケートボードは目標を定めて達成できれば充実した気分を与えてくれます。時には思いがけない失敗で怪我をしてしまうこともありますが、同じスケートボーダーの仲間たちと一緒に高揚する瞬間を与えてくれたりもします。ですが基本的にはつねに自分と向き合うことが必要な個人アクティビティです。ルールがなく自分が好きなように目標を設定することができ、身体を動かすことでフィジカルな満足感を得ることもできます。スケートボードに乗ることで心身が解放され、精神的な支えになり日常生活の中で何か辛いことがあってもモチベーションを保つことができます。“LIVE TO SKATE. SKATE TO LIVE.” （生きるためにスケートする。スケートするために生きる）。’80年代に10代を過ごしたスケートボーダーはこのフレーズを一度は耳にしたことがあると思います。かのUKハードコアパンクの大御所、Chaos UKギタリストのGabbaもインタビューで「10代のときにスケートボードが心の支えになり、厳しい環境を乗り越えることができて今がある」とインタビューで話していたことがあります。

　スケートボードは運動競技ではないと考えている人たちは世界中にいると思います。これまでも運動競技のひとつにならなかった理由は、たくさんの人たちが何事にも縛られない自由なスケートボードを愛してきたからです。そしてこれからもその人たちのスタンスは変わることはありません。スケートボードは永遠に自由の象徴なのだと自分は思っています。SKATEBOARDING IS NOT A SPORT!