Special columns written by skaters
スケート識者たちが執筆するスペシャルコラム
LAURENCE KEEFE

エンゲル係数高すぎスネークスタイルで、世界の秘境をスケボー片手に渡り歩くザ・トラベラー。合言葉は「旅の恥はかき捨て」。
ローレンス流、地球の歩き方。

第17回:新たなキャリア

 このオレがどうして瀬尻 稜のようなコンテストキラーとタッグを組んで、スペインはビーゴへの無料の旅に出ることができたのか。残念なことに稜はスペイン語を話すことができないため、オレがコーディネーターと通訳を任されたのだ。このオレの役目は、稜のスペインの旅には不可欠だ。オレがいなければ、レストランやスーパーマーケットで「腹が減った」といくら稜が日本語で泣き叫ぼうともその旨は伝わらず、頭がおかしいと思われてエボラウイルスが蔓延しているようなボロボロの病院に送られて結果的に餓死してしまうだろう。そうなれば、稜が生存できる可能性は極めて低く、たとえ日本に帰国できたとしてもエボラウイルスを撒き散らして日本人スケーターが絶滅するという最悪の事態に陥ってしまう。

 というわけで、オレは「旅費は全部もってくれるのか?」と確認をしてからビーゴ行きのオファーを快諾した。もちろん、純粋に稜の力になりたいと思ったのもその理由のひとつである。稜との旅は、昨年VHSMAGで敢行した『関西万歳』が最後だったが、ヤツとの旅はいつでも歓迎だ。ヤツは行儀がよく、礼儀正しい青年でオレと真逆の性格だが、オレたちはいつもうまくやっている。そうして、稜はコンテストに出場してまたもや準優勝に輝くという偉業を達成した。しかも、エキゾチックなアジア人アスリート(稜のことね)と一緒に写真を撮ろうとネコのように競い合う何千ものヒステリックな女にクラブで酒をおごり、賞金を使い果たすような愚行にも走らない。ということで、オレは稜を寝かしつけ、ひとり夜の街へと繰り出して人との交流(a.k.a.パーティ)を図るしかなかった。

 日本人と一緒にヨーロッパにいると、オレのような白人が日本語を話している様を見て驚く周りの反応がおもしろくてしょうがない。スペインではいつもこんな感じだ。まず、オレが現地の新聞を読んでいるのを見て「外国人だと思っていたよ」と話しかけられ、「……外国人ですけど」と答える。まあ、Guiri(ギリ:スペインのスラングで外国人や観光客という意味)がスペイン語を話せるというのはそう珍しくないが、そいつがいきなり東洋人の友人とちんぷんかんぷんなアジア語を話し始めたら誰でもビックリするものだ。日本語(スペイン語ではChino、つまり中国語と勘違いされている)は、英語圏の人間が修得するもっとも難しい言語として知られている。そのため、日本語を話すオレのことを誰もが天才だと思ってしまうのだ。ただしそのような幻想は、後にクラブで泥酔してそこら辺の女が持っているビショビショのペニーボードでトレフリップをトライするオレの姿を見て払拭されるのだが。

 稜のためにハムやドリンクを注文したり、コンテストの開始時刻を確認したりしていないときは、自由に時間を使うことができた。旅の記録として写真を撮ろうとも思ったが、Hidden Championの松岡さんがいたのでその必要がなかったため、オレは新たなキャリアをスタートすべく映像を撮ることにした。あのパトリック・ウォールナーからずっと撮影や編集のテクニックを教わっていたため、すぐにカメラのファインダーを覗いて撮り始めた。稜のスーパースポンサーたちからブランドロゴの掲載費用として1円も引き出すことはできなかったものの、作品としてはそう悪くないと思っている。そして、何よりも稜のグローバルな活動を支えることができて光栄だ。

 結論。オレはこれから映像作家としてやっていく。映像関連のプロジェクトがあれば、是非ともこのオレに連絡をしていただきたい(スケートのプロモビデオ、ラップビデオ、ショートフィルム、自然のドキュメンタリー、低予算のホラー映画など、なんでもこい)。

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