Special columns written by skaters
スケート識者たちが執筆するスペシャルコラム
LAURENCE KEEFE

エンゲル係数高すぎスネークスタイルで、世界の秘境をスケボー片手に渡り歩くザ・トラベラー。合言葉は「旅の恥はかき捨て」。
ローレンス流、地球の歩き方。

第9回:ローレンスはなぜオレの名前を覚られないんだ?

 その答えは、オレが“バカだから”もしくは“イヤなヤツだから”。実際の答えはこのどちらでもない。オレの謝罪、そして言い訳を聞いてほしい。5分ばかり時間をくれ。

以下は東京での典型的なやり取りだ:

オレ:はじめまして。
キミ:前に会ったことがあるよ。二度も。覚えてないの?
オレ:マジで? いつ?
キミ:2年前のパーティで/一緒にスケートをした/ファミマの前で会った……など。
オレ:ゴメンよ。酔っ払っていたみたいだ。名前なんだったっけ?
キミ:タナカ・アキラ。
(この段階で、キミは“ファッキン外人”と思いながら立ち去り、オレは“タキラ・アナカ”とがんばって覚えようとしている)

 これは日本在住の外国人にとって、とてもストレスを感じる状況だ。オレは1日あたり平均5〜10人と出会う。もう2年も日本に住んでいるので、合計およそ5,475人と出会ったことになる。

 まずは顔を覚えようと努力する。オレの母国であるイギリスは、石器時代から侵略され続け、争いを繰り返し、レイプされた結果、今や多くの移民で溢れかえっている。イギリスにはさまざまな民族が住んでいるため、肌の色や明るさ、髪や瞳の色、巨大な鼻、濃く1本につながった眉毛、アルビノ、そばかす……各民族の特徴などで容易く人の顔を見分け覚えることができるのである。ということはイギリスで地下鉄に乗ると、オレのような赤毛、青い瞳、ヒゲ面でやつれたアイルランド系バイキングのとなりには、でかい緑の瞳とアフロの黒いユダヤ人が座っているというケースもあり得るのだ。

 一方、鎖国で外界との窓を閉ざしてきた歴史のある日本は、世界中をみても、珍しいほど純粋な単一民族が住んでいる国だ。だからオレが今まで日本で出会ってきた5,475人のうち、おそらく5,400人がアジア人だ。似たような肌の色、特徴、黒髪、黒い瞳。しかも、そのほとんどがオレよりも背が低い。そして日本人は、友達同士で似たような格好をして街を歩くのが好きな民族だ。もっとわかりやすくしてくれよ!

 顔の次は、名前を覚えなくてはならない。まず言っておきたいのだが、日本の名前にはまったくピンと来ない。オレのような外国人には、ただの抽象的な音にしか聞こえないのだ。日本人はハリウッド俳優やミュージシャンといった欧米の名前に慣れているため、簡単に覚えることができるだろう。例えばマイケルに会えば、“M・ジャクソン、M・ジョーダン、M・J・フォックス、M・ムーア”を連想して覚えることができる。オレの名前である“ローレンス”だって、『漫画ローレンス』という劇画タッチのエロ雑誌のタイトルになっているではないか。日本人にとって、欧米の名前はとても身近な存在だ。だからキミの名前がヨーコ(オノ)でない限り、容易く覚えることはできないのである。

 さらに、日本の名前はすべて同じに聞こえる。ユリ、ユウリ、ユリエ、ユウシ、ユウジ、ヨウジ、ヨウコ、ユウト、ユウマ、ユナ、ユカ、ユウカ、ユウコ、ユウタ、ユウ、ユイ、ユズキ、ヨウタ、ユイト、ユウダイ、ユウシン、ユミ、アユミ、ユメ、ユキ、ユキナ、ヤキニク、ヨシノヤ……まだまだリストは続く。紛らわしい! 特に漢字が読めなければなおさらだ。

 この気持をわかってもらうには、マリといった西アフリカ諸国に1年ほど住み、現地の名前を覚えられるか試してもらうしかない。とりあえず、この1枚の写真を見てほしい。

african-family

写真左から、タンディウェ、ルンビザイ、オラミレカン、オラレワジュ、ルンギレ、メリシズウェ、イシンゴマ、イトゥメレン、ボンガミ、チディエベレ、グベミソラ、ムバリ、ランレ、セスンヤ、オンイェカチュクウー、ティティラヨ、ウナティ、タボ、ティトリット、オルフェミ、オルワトイン、クワク、グワンドヤ、イケンナ、ダダ、エケネディリチュクウォ。

 半年後にまたこの写真を見返し、名前をすべて記憶できているか試してみるがよい。ここにはたった26人しかいないぞ。オレは5,475人の名前を覚えようとしているんだ。

 ああ、そうだ。ここ日本では、オレが“他の外国人”に間違えられることもしばしばだ。こないだなんて、あのクソみたいなジャスティン・ビーバーに似ていると言われてしまった。オマエらマジか?

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