撮影するのが一番楽だったスケーターは誰か? もちろんメイク率が良くて沢山の映像が撮影できれば、フィルマー冥利に尽きるのは間違いない。だけど何も撮れない日でもずっしりと重く残る思い出があり、何かの予感を感じさせる時間を共有することができる。“楽(らく)”と“楽しい(たのしい)”は同じ漢字である。順位をつけるのは難しいが、ひとり思い浮かんだスケーターとひとつの小さなエピソードを紹介したい。
その当時は大阪の若手スケーター。時は過ぎ、いまでは若手と言うより中堅どころと表現した方がいいかもしれない。TBPRを切り盛りする上野伸平である。それはまだ知り合って2回目の撮影の時だったと記憶している。僕も伸平も何かを撮影したくてしかたがなかった。その日はいくつのかスポットを回ったが不発に終わり、苦肉の策として胸ぐらいの高さがあるステージに工事用の高いレールを置いてBsスミスをすることにした。正直、心の底から撮影したという気分の高揚感はなかったが、お互いの信頼関係をつくるためにはまずはセッションが必要だった。人通りの多い場所だったので、伸平の相棒である小椋慎吾(以下オグ)がレールの近くに立って合図を出していた。僕はまずはロングレンズで様子を見ようと思って少し離れた場所から撮影していた。何度かレールの滑り具合をチェックするためにトラックを当ててワックスを塗った。長さのあるレールだったので、テールを弾いたらもう逃げる訳にはいかない。真剣な表情がファインダーを通して伝わってきた。何度も尻込みするのは彼の性分に合わなかったのだろう。「次行きます」とは言わずとも目がそう語っていた。意を決してテールを叩いた瞬間に、フレームに飛び込んできたのは自転車に乗った、いかにも大阪風のパーマ(パンチのゆるんだ感じ)のオバちゃんだった。突然、フレームにオバちゃんが飛び込んできただけでも爆笑だったが、逃げ切れなかった伸平はレールに股間から串刺しになった。悶える伸平と、なんと声を掛けていいか分からずうろたえるオグ。どちらを見ても笑いをこらえるのに必死だった。もちろん伸平は痛みをこらえながらオグにぶち切れた。もう撮影するのは難しそうな雰囲気だったし、それぐらいのスラムだった。伸平とスケートしたことがある人なら分かってくれると思うが、伸平は期待を裏切らず僕たちの大事な時間を有意義なものにしてくれた。そして何よりも僕が不思議に思うのは、通行人をチェックしていたオグは、一体どこを見ていたのだろうか?
受け売りのスケートスタイルからひとつ抜け出した形を確立することは、スケーターにとって大きな壁であり越えなくてはいけないハードルとなるだろう。これはもちろんフィルマーにとっても同じことである。初めて会った時の彼は、もちろんそんなハードルの手前にいるスケーターであった。だけど当時の彼には“勢いと気合い”があった。若者だけが背負うことが許されるスタイルのひとつ。今日紹介した出来事がそれを物語っている。そこから次のステップへの進化が問われる『LENZ2』が楽しみだ。TBPRの回し者みたいなコラムになってしまったが、同じフィルマーとして新しい映像作品への期待を込めて!!