Special columns written by skaters
スケート識者たちが執筆するスペシャルコラム
TAKUYA NAKAJIMA

2002年よりFESNの専属フィルマーとして活動後、
現在は都内の医療機関にて理学療法士として勤める
傍ら、某デジタル系会社に勤務するMr.魚眼レンズ。

第9回:憧れのスケーターとの撮影と失態 in LA(後編)

前編はこちら

 ジェイソン・ディル、最近のキッズスケーターにどう響くのかは分かりませんが、僕には特別な意味を持つスケーターのひとりです。その憧れの存在を目の前にして、撮影するチャンスがそこにはありました。ロングレンズで遠くから撮影するという選択肢もあったと思います。しかし、僕の心の中には憧れのスケーターを「フィッシュアイで追い撮りをする」という気持ちしかありませんでした。
 
 クイムの頼りない返事に後押しされ、彼に近づき「撮影させてくれるかな」と言い、「For japan」と付け加えてみました。僕の意図する意味は「日本に向けてキミの滑りを撮影させてくれ」といういう思いでしたが、いま思うとかなり勝手な解釈ですね。僕の容姿からアジア圏から来たことは一目瞭然。パウロ・ディアスやクイム・カルドナと謎の撮影を続けるフィルマー。彼がどう思ったかは分かりません。もしくは僕が考え過ぎなだけで、彼はただ単に「天気のいいロサンゼルスの昼下がり、潮風を浴びながら撮影でもするか」と思っただけかもしれません。

 あちら(アメリカ)のスケーターにとって撮影は日常的なことで、いいトリックとフィルマーがいれば、撮影するというのは当たり前のことかもしれません。けれど、僕にとっては憧れのスケーターの撮影、しかも場所は昔からよくスケートビデオで目にするサンドギャップ。緊張せずにはいられません。タイトルにもあるとおり、僕は失態を犯します。録画ボタンを押し忘れた。テープを入れ忘れた。カメラのレンズが汚い。考えられる失敗はすべて確認しました。ブローワーはいつもよりも念入りにレンズに吹きかけました。彼はトリックを僕に伝えませんでした。ギャップを飛んで、適当にみたいな感じです。

 彼のトリックはサンドギャップをFsシフト気味に飛んで後ろのトラックをフィーブルの形でハングさせたあとに、Fs 360 Ollieをするというラインでした。ファーストトライからフィーブルハングを成功させました。次のトリックである、Fs 360 Ollieにはとてもこだわりを持っていて、しっかりテールを叩いてオーリーしてからの360度回転。今まで見たことのない360 Ollieでした。10回程度トライして、FS 360 Ollieの乗り落ちという形でセッションは強制終了しました。

 多くのローカルスケーターがそのセッションを見ていました。彼の撮影が始まるとみんなが滑るのをやめて注目しました。彼の中でこの程度のトリックを10回トライしてメイクできないのならやめると思っていたのか、単純に飽きてしまったのかは分かりません。最後に僕はFESNの名刺を渡した気がします。そして何か話した気がしますが、とても気持ちが舞い上がっていて、曖昧な記憶しか残ってません。

 僕が犯した失態に気づいたのは日本に帰ってからです。FESNのボスに映像をチェックしてもらい、失態について指摘されました。明らかにすべてのアングルが遠いのです。完全にディルに萎縮しているのが映像から分かりました。距離があるためにギャップが小さく見え、フィーブルハングもトラックや板の見える位置が悪く、何のトリックをしているのか伝わりません。
 「映像を見れば、どういう気持ちで撮影しているのか、ライダーとの距離感がすぐに分かる」。その言葉は、憧れのスケーターとともにずっと僕の心の中に残っています。

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