Interview by VHSMAG, Special thanks: Blackline
VHSMAG(以下V): まず、パークビルダーを始めたきっかけからお聞かせください。
木村将人(以下K): そもそもMBMというのは“Masa Building Material”の略で、有限会社マサケンという土建会社が母体になっています。その会社を立ち上げたのが’93年。そして’98年にAxis Board Shopを始めてDIYでミニランプを作ってやっていたんですけど、当時は真新しかったから周りの子供たちが集まってきて手狭になっちゃって。つねにプラットフォームに20人くらい上がっている状態…。そんな頃に仲間とアメリカに行ったんですよ。カリフォルニア・エンシニータスのYMCAやカールスバッドのスケートパークで滑ったんですけど、えらく感動しちゃって。「これはすぐにパークを作るしかないだろう」ということで土地を借りて、ろくに許可も取らずに自分の土建会社の機械を入れて…。スケートやスノーをやっている従業員も何人かいたので一緒に作りました。下地の土を盛って、鉄筋を張ってスチールのコーピングを溶接して。コンクリートの吹付けだけは左官屋さんに頼みました。だから自分のAxis Skateboard Parkが最初に作ったものですね。2000年頃の話です。当時はまだ吉川のアクアパークもなかった時代で、役所の人間がパーク建設のアドバイスを求めにうちに来ていました。当時はパークビルドで商売しようなんて思ってもいませんでしたけどね。
V: パークビルドのノウハウはどこで学んだんでしょうか?
K: 基本は土建業ですから。平野に掘った穴の側面がアールになっているだけの話です。初めてパークを作ってから15年後、つまりリニューアルしたAxisのビルドの話になるんですけど、そのときに田中憲治の知り合いのアメリカ人ビルダーが日本に遊びに来て、ついでにいろいろ教わることになりました。ハワイからひとり、カリフォルニアからふたり。
渡辺雄士(以下W): 自分がシェイパーを担当しているんですけど、彼らから学んだのはコンクリートの打設方法です。あとは下地の丁張り、つまりリップの高さを出す木の枠やプールコーピングの設置の仕方。パークビルドに重要なことを細かく学びました。
V: パークビルドでこだわっていることはありますか?
K: 仕事の依頼があって施工するまでの段取りの中でのこだわりは、やはりスケーターのお客さんの要望通りにビルドするということです。いろんなタイプのスケーターがいて、いろんなパークの好みがあるわけだから、その人の意見を取り入れてなるべく忠実にビルドする。あとは金銭的な折り合いもあるので、お客さんのほうでDIYできるところはしてもらう。結局、できるだけ安くやってあげたいんですよね。だって’90年代から建設業をやっているわけで、それで食っていけないわけじゃないですから。パークビルドで大きな利益を出そうとも思っていないし。ただ、パークビルドで利益を上げようとしている人たちに食われないようにしたいとは思っています。たとえば、ポンプ車を持っていないところに依頼するとそれを頼むわけじゃないですか。そうすると「こういう仕事は特殊だから」って多額の費用を要求するバカがいるんですよ。だから自分でポンプ車を買って、自分たちで技術を磨いたわけです。そして絶対にぼったくらない。なぜならオレたちはスケーターで、仲間や同じ趣味の人間がそのフィールドを作ろうとしているわけだから、そうしてあげないと意味がない。そういう考えでオレたちはやっています。
W: 施工中のこだわりとしては、やはり無駄なスペースを作らないということですね。広い土地だったら無駄なスペースがあってもいいんですけど。デザインも込みで頼まれた場合はそうしています。
V: 今回のBlacklineのパークはデザインも依頼されたんですか?
K: そうですね。まずは案を出して、現場ですり合わせをして調整していった感じです。
V: ではこれまで手がけたパークで「ここは最高!」というパークはどこですか?
W: 個人的に好きなのは奈良県御所市のGSPですね。土地が広くて、外周にあるセクションも面白いし周りやすい。
V: 今後、スケートパークはどのようなものになっていくと思いますか?
K: 基本的にスケートパークは国内でものすごく増えていくと思います。ストリートっぽいパークが増えていくんじゃないですかね。バックヤードでボウルやプールを作る人は、常識的に考えて金を持っている大人じゃないですか。でも公共のパークは子供たちにやらせるという意味でストリートがメインになるのかもしれません。
W: 家にプールを作る人も増えるかもしれないですね。
K: バックヤードプール建設のオファーをもらうこともあるんですけど、最終的にダメになっちゃうのは近隣が原因。家にミニランプを作っても、大体スケート自体の音というよりは、「イエー!」とか叫ぶスケーターの声が結構ヤバいみたい(笑)。いくら近所と仲良くしていても、やっぱりスケートをしていない人からすれば迷惑なんですよ。「何がイエーだよ! うるせーよ」って(笑)。
V: スケーターが関わっているパークビルダーの利点は何でしょうか?
K: まずオレたちができることは、安く作ってあげられるということ。そして大きなパークでもスピーディに対応できること。早くできないと時間がかかってその分お金もかかってしまいますから。スケーターがパークビルドに関わることの大きな利点は、うちのスタッフを見ていて思うんですけど、アールの面を慣らしながら「早くこれを滑りてぇ!」って考えていることです。スケーター以外のオッサンならたぶん「仕事の後に何を飲もうか。娘を迎えに行かなくちゃ」とか考えているわけじゃないですか。いいものができるかできないかはその差じゃないですかね。普通の左官屋さんは、この面の上をウレタン製のウィールが滑って、足に伝わるその振動の気持ち良さのことなんて考えていないわけですから。
V: 現在の国内のパーク建設が抱える問題点は何ですか?
K: 役所ですね。まず立案する人間がいて、それを議会に通して、予算と設計を決めて施工するわけですけど、「スケーターが滑るわけだから彼らのためにこうしたほうがいい」ということを言っても聞き入れてくれない。「来年の予算にしてよ」って言われてしまう。設計屋がどんなパークを設計すればいいかオレたちにアドバイスを聞きに来るんじゃなくて、設計屋から「こういうデザインがあるんですけどいくらでできますか?」っていう連絡が来るわけですよ。誰が設計したかと聞くと自分たちだと言う。
W: そこがステアじゃなくてバンクだったら、すごくいろんな使い道があるのに…とか。そう考えながらイヤイヤ作らされたりとか(笑)。
K: 結局、完成したときに役所が来て図面を見ながらパークをチェックして出来高管理をするわけじゃないですか。そのときに図面と違っていたら問題になるんですよ。スケーターにとって良くない図面だからといって勝手に変えたらやり直しになってしまう。設計をする人、工事を発注する人、工事を管理する人、終わった工事を検査する人。全部、役所の中で部署が違うんですよ。解決策としてはスケーターが最初から関わるということになるんですけど、途中で小回りを利かせて変更できないからどうしても問題は出てきてしまう。役所ですからね。
V: スケートがオリンピック競技に決定して以降、何か影響はありましたか?
K: パークビルドの仕事は増えましたね。実は御所のパークを作ったときにポンプ車を新車で買ったんですよ。これを買った理由はスケートがオリンピックになったからじゃないんです。オリンピックが決まる前の話ですから。自分たちがポンプ車を持っていなかったばかりに、他の業者に頼んで莫大な費用をふっかけられたことがあったんです。それが悔しくてREED社のポンプ車を買ったんです。
V: そのポンプ車は日本で1台しかないと聞いたことがあるんですけど本当ですか?
K: そう。1台しかありません。アメリカのパークビルダーが使っているのはREED社のものが多いんです。それを仕入れました。一度使うだけで二度と使うことはないんじゃないかと言われましたし、オレ自身多少そう思っていました。「やべぇな。なんとかパーク以外の現場仕事で使えないかな」と考えていました(笑)。このポンプ車はコンクリートの吹付けに特化しているんです。つまりパークビルド以外の用途に向いていなくて多機能的じゃない。それでどうしたものかと考えていたときに、オリンピックが決まったんです。マジで「よかったー!」って思いましたね(笑)。
V: ではパークビルディングのやりがいは何ですか?
W: 自分たちで作ったパークを滑ることができること。あとはパークは作っていて楽しいですね。ワクワクします。作業員もみんなスケーターなんで、みんなで飯食うだけでも楽しいし。スケートに関わる仕事なんでみんな真面目ですね。
V: これまでのパーク建設で印象的な出来事はありますか?
W: やっぱりポンプ車が初めて来たときですかね。使い方を教えてくれる外国人もいたんですけど、最初は日本のコンクリートと相性が悪くて…。何回ポンプが詰まったかわからないくらいです。
K: その場にいたら、本当に大変ですよ。
V: どういうことですか?
K: 物を投げつけたり…。その外国人がちょっと日本語ができる人だったんですけど、ポンプが詰まってガムテープで留めなければならなかったときに「早くガムテープガムテープ!」って言うから頭にきてぶん投げたり(笑)。
W: ポンプ車の直し方もすごく原始的なんですよ。詰まると、ホースを叩いて中の詰まりを砕きながら手で出すという…。ホースを丸めながら人力で押し出すという大変な作業になってしまうんですよ。
K: 詰まるギリギリの生コンのほうが面に張り付くんですけど、詰まらないようにユルくすると吹き付けられない。生コンとひとくくりに言っても、セメントのメーカーとか砂や砂利の原産地や性質によっても違う。アメリカでは10mmの玉砂利を使うんですけど、日本にはそんなものなかなかないし。アメリカ人は「玉砂利を頼め」と言うんですけど、「うるせぇ! ねぇものはしょうがねぇじゃねぇかよ」って言い合いになったり。あるものでどうにかする気はないのかと思いましたね(笑)。
V: では理想的なスケートパークは?
K: 施主がスケートボードが大好きで、スケートボードを食いものにするんじゃなく、滑っている子供たちが見たいからパークを作りたいという人と一緒に作るパークですね。「市長選があるから、子供たちの心を掴んで票を集めるためにスケボーのパークを作るか!」といったパークじゃなくて、「いつまでもスケートボードをやりたいけど、いい歳こいて公園で怒られちゃうのも恥ずかしいから家の裏にパークを作りたいんだ」という人とかのパークを作りたいですね。
W: 自分はやっぱり工事をする側なんで、自分たちで話し合いながらデザインを考えて、現場でスケーターの作業員とアールの角度とかを話し合いながら作るパークが理想ですね。お客さんには申し訳ないですけど、やっぱり自分たちで滑りたいんで(笑)。
V: では今回のBlacklineパークの完成後、パークビルドのスケジュールはどうなっていますか?
K: 東京の品川にコンクリートパークを作る予定がありますね。だから次はそれです。
V: パークビルドするときは、いつも現場を渡り歩きながら作業員と住み込みで働いている感じですか? 今回のBlacklineも1ヵ月ほどこの地に住んでいるとお聞きしましたけど。
K: そうです。それもね、結局スケーターじゃないとできないんですよ。好きじゃないと続かない。そんなに多勢ではないのであっちもこっちもというわけにはいかないですけど、少しでも多くパークを作りたいと思っています。
V: では、最後に実現したいプロジェクトを教えてください。
K: 確実にオリンピックです。「日本にMBMあり」ということを世界に伝えたい。オレたちが作ったアールを堀米雄斗たちに滑ってもらいたいです。
茨城県を拠点とする、作業員が全員スケーターのスケートパーク専門の建設会社。日本に1台しかないREED社製のポンプ車を導入し、国内で最先端の技術を駆使したパークビルドを実施。これまでにAxisはもちろんのこと、奈良県御所のGSP、静岡県の東静岡アート&スポーツ/ヒロバ、愛知県常滑市のBlacklineなどを手がけている。
@mbm_parkbuilders