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スケート界の掟。裸の王様になる前に
──ABD

2013.06.10

 業界の大小を問わず、特定の人たちのみで共有される専門用語があるものです。スケート業界も例外ではなく、スケーターのみでわかり合える言葉がいくつも存在します。「スケッチー」「ライン」「スイッチ」とかそういった類いのモノです。そのほとんどが、スケート発祥の地アメリカより発信され、やがて世界のスケーターの共通語として定着してきました。そんな数あるスケート用語の中でも、わりと日本では定着していない言葉もあります。
 ズバリ言うわよ、それは「ABD(エー・ビー・ディ)」。Already Been Doneの略です。直訳すると「すでに完結したもの(メイクされたもの)」となります。例えば西新宿の有名Wセットで誰かがフェイキー・トレをメイクするとします。でもそれはすでにネイト・ジョーンズにより完全メイクされているので、「ABD」となります。すでに先人がメイクしているから、同じスポットで同じことやっても不毛、ということです。これはアメリカを始めスケート先進国ではすでにスケーター間で定着している暗黙の了解といいますか、紳士協定とでも言いましょうか。
 どんなに凄いトリックをメイクしたとしても、すでに同じスポットでメイクされているものをやってもプロップスを得られないということです。誰がどこで何を最初にメイクしたのかってことが重要視されているアメリカならではの強い意志が感じられる言葉でもあります。もちろん、どこで誰が何を決めようと勝手なのですが、写真や映像なんかでアウトプットされる、いわゆるプロ仕様の領域での話でありますが。
 少し厳しいんじゃないそれは。スケートは自由だし、関係ないっしょ! なんて声が聞こえてきそうですが、この「ABD」があることにより、最初にメイクしたスケーターが広い範囲で語り継がれる(リスペクトされる)ことにもなりますし、さらに上のトリックを狙う猛者や、限られた環境でクリエイティブなアプローチを模索することに繋がる、いわば競争心に火をともすことになるのです。「ABD」というひとつのルールが課されていることで、スケーターのポテンシャルを引き出すきっかけにもなっているし、それ以上に「このスポットで15年前に●●さんって人が●●をすでにメイクしたらしいぜ」なんて、世代を越えてスケーター同士が対話(セッション)することにもなっているなんて、なかなか粋なことなのではないでしょうか。
 このAKB、いや、「ABD」が日本でも定着するといろいろと便利になると思います。例えば誰かが何も知らずに(もしくは知りながら)西新宿のWセットでフェイキー・トレをメイクしたとして(凄いんだけどね)、欣喜雀躍な本人を尻目に「10年前にすでにメイクされたトリックいまさらやって勝ち誇ってんじゃねぇよ、カス、ボケェ!」って陰で罵倒されるかわりに、「ABD」って一刀両断されるだけになるのです。めでたし、めでたし。

--KE

 


注:本文とこの動画はなんの関係もありません。ポッポー

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