だいぶ前の話になる。当時、Carhartt WIPのヨーロッパ・スケボー部隊を率いていたフォトグラファー、ベルトランドとのやりとり。2010年制作(2011年発行)のSbでdiaspora(ディアスポラ。宗教用語のひとつ。離散した者たちがひとつのことで繋がっている事象。ちなみに、その後に興るドメスブランドのそれよりずっと前の企画と号なのであしからず)号でのことだ。オレはテーマにちなんで、世界中に散り散りになった人々をスケートボードを共通アイコンにして集めていた。要は世界中のスケボー写真、それもスケート的メッカな場所だけでなく、「え? そんなところにもスケボーが、スケーターが?」っていう写真。アフガニスタンにもリビアにもルワンダにもスケーターが存在していた。
Carhartt WIPチームとともに世界中でシャッターを切っていたベルトランドから届いたのは、国土の70パーセント以上がスケボーの天敵(?)である草原というモンゴルのスケボー写真。大草原大国の小さなスケボーコミュニティを発見した写真。それはとても美しく、かつて見たことがないものだった。スポットの先にはゲルが点在し、羊たちが群れをなしている。まさにノマドな1枚だった。このときからだ。スケボーはツアーがよく組まれるが、スポットや面白いパークやコミュニティをシークしながら転々としていく感じは、ツアーというよりノマド(流浪)に近い部分があると強く思ったのは。ということで、ベルトランドによる、見たこともなかったノマドな写真によってオレのCarhartt WIPのイメージはワークウェアというより、旅するスケートボードという感じだった。この頃からあるブランドのビジュアル・アイデンティティは、今なお受け継がれている気がする。美しいとか、ひと味違った見せ方とか。スケボー界隈では個性的なビジュアルがデフォルトのようなところがあるけれど、Carhartt WIPはそこに(いい意味で)所在無さげなノマド的、抽象的なイメージが漂っている。タフでガシガシ着たおしていいワークウェアなのに、ラフというよりファインという感じなのだ。
そしてついこないだの話になる。Sbのリニューアル1発目の号がリリースされたとき、Carhartt WIPはジョアクイム・ベイルによるチームフィルム『PRECIOUS』をローンチ。街から街へ、スポットからスポットへと旅団のごとく移動していく。その雰囲気にはやっぱり惹かれてしまう。そういう中で、ついに現在発売中のSbリニューアル2号目にはCarhartt WIPのビジュアルイメージがグラビアとなった。スケート写真がちゃんとありながら、モンタージュされたレイアウトは、そのトリックをメイクしたバックグランドや旅先の雰囲気まで伝えてくれる。それがそのままブランドの世界観を構成している。やっぱり旅だよな。日常と非日常をいとも簡単に行ったり来たりすることができるスケートボードにはそれが一番のビタミンかもしれない。そういうビジュアルパーツを集めていくのが、Sbは好きだったりする。広告ビジュアルって、グラビア写真のひとつだとずっと思ってきたから。スケボーマガジンを立ち上げた30年以上前から、数多ある洋物マガジンの中でも、群を抜いて斬新でイケてて美しく毒々しかったのがスケボーマガジンの広告たち。それを見て育ってきた者たちにとって、イメージこそ最も大切な部分だ。だから、Carhartt WIPのスケート・ノマドなグラビアなんかが1冊の中にあったら、シビれてしまうのだ。次の旅の準備を自分もしたくなる。
─Senichiro Ozawa(Sb Skateboard Journal)