昨年、SKATE SHOP VIDEO AWARDSで爆(笑)賞に輝いた熊本のMOHI。腹ばいの特異なスタイルで笑いと感動を日本中のスケートコミュニティに届けてくださいました。かくいう自分もあの“FREEDOM”パートを観てから、スケートはこうあるべきという既成概念をぶっ壊した彼の存在が忘れられずにいました。頭のなかは疑問符だらけ。ということで、いろんな謎を解明すべくインタビューを敢行。それではどうぞ。熊本が輩出した腹ばいスケーター、MOHIの登場です。
—MK
VHSMAG(以下V): まずスケートを始めたのはいつ頃ですか?
MOHI(以下M): ちゃんと乗り出したのは5年くらい前ですね。
V: 始めた頃は立ってたんですか?
M: 最初はクルーザーに乗ってたんです。でもその前から周りにスケーターの知り合いがいてパークに連れて行ってもらったり。もともとスケートビデオが好きで観てたりもしてました。それで映像を撮ってるOPPってヤツがいたんで、一緒に動いてるうちに自分でも何かやりたいなと。その頃はオーリーもできないですし、ターンくらいしかできなくて。それでもセクションを使いたいと思うようになって、ふとアールの上に立ったときに「腹ばいならイケんじゃね?」って始まりました。
V: ではスケートを始めた初期の段階でもう腹ばいだったんですか?
M: すぐですね。あれしかやってないんで。いまだにオーリーとかやってないです。
V: すげぇ。ニューブリードですね、マジで。
M: 気づいたらああなって、ずっとあのままです。
V: ちなみにSkate Shop Video Awardsのジャッジを務めたFESNの森田氏は「腹ばい」のスタイルを「パドルスケーティング」と表現していました。MOHIさん的に正式な呼び方はあるんですか?
M: 冬のオリンピック競技にスケルトンってあるんですよね。顔面から腹ばいで滑るヤツ。何かああいう感じで呼んでました。「スケルトン」って。
V: そういう経緯でスケルトンでスケートを始めたわけですが、周りからしたらぶっちゃけ異質なわけじゃないですか。当時の周りの反響はどうだったんですか?
M: 当時から「マジこいつ何? バカじゃない、このオッサン」みたいな感じとか(笑)。
V: (笑)。でもそのスタイルを貫いてきたわけですよね。それで周りの見方も変わっていったんじゃないですか?
M: あれをやりながらドロップ…ドロップというかパークでアールの上から行ったりとか、スパインを越えたりとか。それでいろんなバンクを下りていったりする映像をインスタに上げていったんですよ。そしたら観たヤツが面白がって。そのうちにあのスタイルでいろんな大会に出るようになったんですよ。九州のローカルの大会とか、ショップの大会とか。全部あれで出て。そしたら周りが「あの人はまぁ、あれだからね」みたいな感じでわかってくれるようになって。
V: スケルトンのスタイルはこの5年の間に進化しましたか?
M: やっぱ、めちゃくちゃ手をケガするんですよ。僕の仕事は介護士なんですけど、毎日のように手を消毒するわけですよ。すごいしみるようになったんで、指先だけ出すグローブを角度のきついバンクでは着けるようになりました。手をすらないようにってことで。どうしても体重が後ろにあってノーズが上がってきやすいんで、着地のときは前を押さえるとか。
V: 腕力がハンパないんじゃないですか?
M: あぁ、なんか全身むち打ちみたいになります。めっちゃ怪我しますね。
V: ですよね。だって普通の人より断然地面に近いわけですもんね。顔面とか…。
M: 顔着はまだ1回しかないんですよ。
V: それがワーストスラムですか?
M: 肋を骨折したことが4回あります。さらにあれは着地のときに鼠径部にものすごく負担がかかるんですよね。それで3回脱腸してます。鼠径ヘルニア。やっぱ鼠径部に「ドーン!」と来るんで。お医者さんとも話したんですけど「原因はたぶんそれだろう」ってなってますね。
V: お医者さんはどういう反応するんですか? だって診察時にスケルトンについて話すわけですよね?
M: はい、言ってもわからないんで動画見せるんですけど。
V: そっか(笑)。それがわかりやすいですよね。
M: さすがにこれは説明しといたほうがいいかなって思って(笑)。それで見せたら「絶対これですね。やめてください」って言われました。でも結局続けてるんですよね。
V: 周りにスケート仲間がいるじゃないですか。一緒に移動するときはどうしてるんですか?
M: 移動するときは普通にプッシュしてます。
V: ちょっと聞きたいことがいろいろありすぎて…。
M: いろんな人にいろんなこと聞かれます(笑)。「押される気分はどう?」とか。
V: そうそう。“FREEDOM”のクレジットにも「押す人」ってありましたもんね。やっぱ押し方というか、押す人との相性とかあります?
M: ありますね。やっぱり初めての人はなかなか押してくれないというか…押せないというか。怖いみたいです。人を捨てるあの感じが。ステア飛んだりもするんで「怖い」って言われますね。「ケガさせたくない」みたいな。
V: でもやっぱり思い切り押してほしいんですか?
M: そういうときは言います。「全然足りん」って。
V: ちなみにベスト押す人は誰ですか?
M: ユウマっていう25歳のスケーターがいるんですけど、彼はいいですね。遠慮があまりないんです。
V: でも遠慮なさすぎてヤバいときとかありませんか?
M: そういうときは、つま先でスピードを調整するんですよ。
V: なるほど。ちなみに得意技はありますか?
M: ステアはまだ1回もミスったことないですね。全部1発です。
V: おお(笑)。自分は観ててバンクを下りるのは理解できるんですよ。でもステアは…。あれはどういうきっかけで飛ぼうと思ったんですか? 確実に痛いじゃないですか?
M: めっちゃ痛いですね。毎回すごく痛いです。
V: でも飛ぶんですよね?
M: 熊本では毎年、忘年会みたいな感じでスケートビデオ上映会があるんですよ。それに出るときに「やっぱステアあったほうがいいよね」って思って。なかなか弾いて上に跳ぶっていうのは難しいんでロケット下りじゃないですけど、弾かずにそのまま行くっていう。ある程度の速度で押して、板がステアに当たらない高さまでだったらイケるなって感じでした。あとはもう気合いですかね。痛いのはもうわかってるんで。
V: 股間がちょうどテールのとこに来ません? めちゃ痛そうだと思って…。
M: 股間にテールを合わせてます。あそこが一番フィットするんですよ。でも股間よりもやっぱ鼠径部ですね。結局コンケーブが鼠径部に思い切り食い込んでくる感じなので。
V: なるほど。でもステアを飛んでるときのあのシルエットはいいですね。
M: ハッハッハ。あんなのあんま見ることないじゃないですか(笑)。
V: いろんな意味で衝撃でしたね。ちなみにMOHIさんには娘さんがいらっしゃって、スケルトンをあまり知られたくなかったって噂を聞いたんですけど。
M: そうです。もともと熊本の辛島公園がホームスポットだったんですけど、自宅からわりと近いんですよ。それでローカルスケーターのなかに娘と同じクラスの同級生とかがいて。やっぱ当時まだ娘が中学生で思春期だったんですよね。それで「これ見られたらオレ嫌われるんじゃねえかな」って(笑)。だから娘の同級生とかに「おまえマジで娘には言うなよ」って言ってました。
V: でも同じクラスの同級生がいたらバレるんじゃないですか?
M: 娘は父親がスケボーしてるのは知ってるんですけど、こういうやり方というのは知らなかったんで。だから「できるだけ言わんでくれ」と。
V: ちなみに情報提供者は長崎のJoblessのニッキーさんです。
M: ハッハッハ(笑)。
V: ニッキーさんからもうひとつ情報を入手したんですけど、MOHIさんはジャニオタなんですか?
M: そうです。
V: 推しアイドルはいます?
M: 結局ずっとやっぱりKinKi Kidsが一番ですね。
V: おー(笑)。古いな。’90年代ですよね。
M: KinKiは’97年デビューですね。中学校のときです。でもKinKiはデビュー前からずっとドラマとか出てたんで。
V: 『人間・失格』とか。赤井英和が父親役で。
M: そうです。もともとSMAPのバックダンサーとかやってて。僕はそこからなんです。もともと幼稚園のときに光GENJIが好きになって、その流れでSMAP、TOKIOとかだったんで。ジャニオタのなかではジュニアの子たちを見るような、当時そういうのがあったんですよ。「今度のMステは誰々くんがバックで付くよ」みたいな感じで。
V: ちなみに推しスケーターっています?
M: プッシュが一番好きなのは荒木 塁ですね。荒木 塁は本当に好きです。
V: では今回の“FREEDOM”パートについて聞かせてください。撮影期間はどんな感じでした?
M: Olliのジュリーさんから話をいただいたときに右のすねをケガしてて、それが結構ひどいケガだったんですよね。ちょうど滑れない時期だったんで新しく作るのは難しいかもって。でも今まで結構いろいろ映像を出してきてるんで、「熊本の映像だけまとめて出しなよ」って言ってくれたんです。でも最後のハンドレールはギリギリになって撮りました。
V: あのエンダーは時間かかりました?
M: 20分くらいですかね。
V: 早いですね。
M: もう何て言うか…途中キャンセルが基本できないので。行くしかないんですよね(笑)。とりあえず押してくれたヤツには「もっと速く押してくれ。あとはオレがどうにかするわ」って言って。
V: 落差も結構エグいですよね。
M: 結構高いですね。腰くらいですかね。
V: やっぱりスポット選びの目線も他と違いますよね?
M: スポットはめちゃくちゃ見てますね。とりあえず寝たまま入れるかってところですね。
V: そうですよね(笑)。
M: あとは個人的な好みとして、絵面が汚いところとかザラザラしてるところとかが好きなので。やっぱり誰もやってないところとか。そういうのは考えますね。
V: ガードレールをくぐるやつはMOHIさんならではですよね。いや、あのパートは衝撃的でした。
M: ありがとうございます。でも九州の人間は僕を見慣れてみんなバグっちゃってるんですよ。だから今回はいろんな人から反応してもらえてすごく新鮮でした。
V: 曲もユニークでしたね。鶴屋って熊本のデパートなんですか?
M: はい。曲を作ってくれたのは逆流っていうDJでGrapevineのカズっていうライダーなんですよね。ローカルのCMとかで曲を作るヤツなんでお願いしました。
V: では今後の予定とか狙っているトリックとかがあれば。
M: Joy and Sorrowのユリユリっているじゃないですか。フィルマーの。彼女が去年熊本に来たときにワンカット撮ってもらってるんです。そのときの撮影ですねの大怪我をしたんですけど…それが個人的に今まで撮れたベストのカットなんですよ。
V: メイクしたということですか?
M: メイクしました。内容はまだ言えないですけど、それが今度のビデオに使われるんじゃないかなと思います。
V: なるほど、じゃあ楽しみですね。
M: あれはもうしたくないです(笑)。メイクしたその日から10日間くらいの入院生活だったんで。すねの肉がベロンって剥がれて骨が出てました。だからまだ右足の脛の感覚がちょっとおかしいですね。
V: めっちゃ体張ってますね。それでもやめないわけですよね。
M: やっぱふざけてると思われがちなので「これやるんだったら真剣に攻めんとやっとる意味ないな」って思って。なんでやっぱできるだけ攻めようかなとは思ってます。あとはもうちょっと角度がキツめのダウンレールとか入りたいなと思ってます。
V: まだまだ進化の余地があるということですね。
M: なんとなく頭の中に浮かんでいるのは何個かあるので。
V: 今後もいろいろ楽しみにしてます。では最後にメッセージを。
M: 自分はこういう乗り方で、たぶん他にこれをやってる人はいないじゃないですか。どっちかと言えば始めたての小さい子がふざけてやるようなことなんですけど…。でもこれを受け入れてくれたスケートの環境、特に熊本、九州の環境にはものすごい感謝ですね。いきなり現れた30過ぎのオッサンが今40近くになってまだあれをやってて、それをみんな喜んで笑ってくれるんで。本当にスケボーやってよかったなぁって思ってます。自由だなって。それが本当に最高だなって思ってます。