なにが好きかって、ハンバーグとステーキとメキシカン(メキシコ料理ね)。味覚的なことはもちろん、ビジュアル的なところも好き。無口なカウボーイが訳ありのストレンジャーをもてなすような温かみがあるのではないかと、勝手に連想させてしまうところも憎い。ゴールドラッシュ、エル・ドラド、カウボーイ、エル・アミーゴとかそういったベタベタ(油もベタベタ)ネーミングもポイントのひとつなので、わりときちんとチェックしています。
HSM(ハンバーグ、ステーキ、メキシカンの略ね)の食べ時なんだけど、言うまでもなく普通に腹減ったときに食するのが美味しいのだけど、気の知れた仲間たちとスケートで完全燃焼したあとに食するときは格別。同じ1食でも、なにかを成し遂げた的なプチストーリーが伴うほうがありがたみも増すわけだ。熱々のハンバーグの上にのったチーズのとろけ具合を眺めていると、殺伐とした毎日がウソのようにハートウォーミングな気持ちにさせてくれる。
ワイ×2ガヤ×2しながらみんなでガッツクのがHSM系の醍醐味なんだけど、それとは逆の店が近所にあります。ここは、初老の店主がひとりで切り盛りするお店で、営業時間は18~24時まで。カウンター席が6つにテーブル席がひとつあるだけ。一見とても庶民的なお店なんだけど、中に入ると厳粛なムードが漂っている。それもそのはず、白髪の店主の放つオーラが半端ない。「いらっしゃいませ」とは決して口にしない。というかほとんどなにも話さない。オーダーを告げてから出来上がってくるまでのスピードが、ステーキってこんなに早く焼けるのか! ってぐらい早い。ステーキを出し終えると、奥に半身だけ引っ込めながら「あぁ~」とか「うぅ~」とか言ってうなだれている。BGMのジャズがほどよい音量で流れている。こ、この店主、でぇ、出来る…。
何度か通うようになって分かったことだが、この店には暗黙の掟が存在する。調理中に会計を促すべからず。女子同伴で行くべからず。黙って完食するべし。端数が出ないように会計するべし。定休日でもないのに、休みになることがある。ようするにこの店では、ステーキを楽しむというよりも、ステーキと向き合うことがコンセプトのようだ。当初は [どこのデクノボウがきやがったんだ、てやんでぇ]と言われているようだったが、どうやら自分もこの掟を悟ったことを店主が見ぬいてくれたようで、最近では [ガーリックよりもバターがオレ流だぜ] と静かに語りかけてくれているような気がする。肝心なお味のほうはというと、都内でも指折りの味を誇る。この味を一度覚えてしまったら、これなしの身体に戻れません。サイドでついてくるコンソメスープが絶妙に油加減を中和してくれます。てか、このコラムを書きながらすでに禁断症状が…。
そうです、このお店、超がつくほどに美味しんです。馴染みの客になっても(なったつもり)、店主がサンダース軍曹並に隙がない。うかつに具を残そうものなら、鬼の制裁が飛んできそうだ。
ある種の緊張感を伴いながらステーキをいただくのも、ありがたいことです。ひとつだけ気になってしかたがないのが、箸袋にプリントされているキャラと店名が、どうやっても店主のイメージと結びつかない。
--KE