実生活の中で、1年の区切りをどこに設定するかは、人それぞれ。学生のころは新学期が始まる4月、社会人になってからは年度のスタートが2月、というのが一般的な日本人の感覚なのかなと。
就職、転職、上京、起業と、学業にせよ、仕事にせよ、さまざまなオケージョンでの“お初(デビュー)”に対面する人たちが最も多い時期。いくつになっても、得意な分野であっても、お初というのは不安や緊張が伴うもの。とかく、閉鎖的な風潮が残る日本社会においては。
何年も前に週刊誌のコラムで読んで、心に色濃く残っているエピソードがあります。それはラジオパーソナリティのTWさんの体験談。
1980年代後半。TWさんはその日、仕事で訪れたニューヨークでタクシーに乗っていたそうです。新しく始める仕事のことで頭がいっぱいで、テンション低め。マイノリティらしき運転手さんは、そんなTWさんの雰囲気を無視するかのようにテンション高めであれこれ話しかけてきたそうです。
「あんた見かけない顔だけど、どっからきたんだ?」(運転手)
「日本からです」(TWさん)
「ということは日本人か!? ゲイシャ、ハラキリ、ウタマロ!」(運転手)
「…、えぇ、そうですけど」(TWさん)
「てかあんたテンション低めだね、ヴァイブス上げていこうよポォッポォ~!」(運転手)
「……」(TWさん)
「そういえば、何年か前にね、おかしな髪型した日本人のニイちゃんたちを乗せたんだけど、そいつらからデモテープをもらったんだ。なにやら日本に戻ったらデビューするとかでさ」(運転手)
カセットテープが無秩序にぶち込まれたシューズボックスから、陽気な運ちゃんが1本のテープを取り出し、カーステレオに乱暴に挿し込む。内心どうでもいいと思いつつも、とりあえず流れてくる音にTWさんは耳を傾けた。その歌声とメロディを聴いて、全身に鳥肌が立ったという。それもそのはず、予想に反して流れてきたのは、日本で大ヒット中のThe Blue Heartsだったからだ。
もう何年も前に耳にしたこちらのエピソードを、いまのタイミングで不意に思い出したのも、他の多くの人たちがそうであるように、新しい試みにトライしている新参者だから。
最後に先のエピソードに勝手に色付けすると、NYのタクシー内で流れていたナンバーは、ファーストアルバムのファーストソングであったに違いない。少なくても自分は、そうなふうに想像しています。
--KE