テキサス州サウスダラスを拠点にする非営利団体4DWN(フォーダウン)をフィーチャーしたドキュメンタリー作品がDICKIESのチャンネルで公開中。共同設立者のロブ・ケイヒルとマイク・クラムに、スケートから始まった地域社会の支援活動と同作に込めた思いを訊く。
──4DWN
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Photos courtesy of Lauren Todd
Special thanks_Dickies Japan
VHSMAG(以下V): ドキュメンタリーの公開、おめでとうございます。まず簡単な自己紹介からお願いします。
マイク・クラム(以下M): 1985年からスケートをしている。若い頃にスポンサーがついて16歳でVisionのプロになった。バートスケーターだね。その後、World Industriesや他のブランドでキャリアを積んできた。今でもバートで滑っているよ。
ロブ・ケイヒル(以下R): オレはクラムと同い年で、テキサス中、主に郊外の田舎で育った。スケートがあったからテキサスの田舎を抜け出すことができた。それで世界が広がったんだ。そこからファッション、エンターテインメント、映画、コマーシャルなど、ハリウッドの世界に誘われていった。貧しい子どもだったから、つねに金を稼ぎ、学校に通い、他のことや家族の要求とのバランスを取らなければならなかった。スケートはオレの世界を広げ、視野を広げ、いろんなチャンスを与えてくれた。視覚化、問題解決、学ぶ力など、一連のスキルを身につけるのに役立った。だから、4DWNでやっていることにはそのすべてが活かされているんだ。幸運なことに、スケートには現役の後のキャリアがある。オレたちは非営利団体というものがどのような形に発展していけるか開拓しているようなもの。今はそれを模索しているところなんだ。
V: 4DWNという名前については?
M: 短くていい感じの名前にしたかったんだ。4DWN、つまり4つのウィールを地面にしっかりつけていることを意味している。
R: そうだね。4つのウィールで着地すること。前進すること。
V: 4DWNはどうやってスタートしたの? 初めはスケートパークだったんだよね?
M: 最初はプライベートパークにしようと思っていたんだ。自分のバートランプが欲しかったから(笑)。だからまずはそこから始めたんだけど、オープンするとみんなもスケートパークを必要としていることに気づいたんだ。驚くかもしれないけど、ダラスにはちゃんとした公共のスケートパークがないんだ。だからオレたちはスケートコミュニティをできる限りサポートすることから始めた。そして子どもたちにはスケートだけでなく、もっと多くの支援が必要だと気づいたんだ。だから非営利団体として支援を始めた。物を売るのではなく、物を提供し、寄付やパートナーシップ、助成金を得るというもの。スケートから食料配給まで、オレらがやっていることはすべて無料。スケート以外の活動がたくさんあるけど、間違いなくスケートがその中心にある。商業化されていない、オレらの好きなスケートのあるべき形を提示しているんだ。
V: 拠点にしているサウスダラスはどんな場所?
R: オレたちは「掃き溜めの街」と呼んでいる。正直言ってひどい場所だよ。街で一番ひどい場所だから安く運営できるんだ。謙虚になり、自分の魂が生き生きとするような場所に身を置くことには多くの意味がある。コミュニティを支え、その一員となる機会があることに気づく。そしてコミュニティを支援する過程で、自分自身を助けることができる。それこそが4DWNなんだ。
M: 本当に荒れ果てた工業地帯だ。周りに営業している会社もなく、ボロボロの家が数軒あるだけでスーパーマーケットも何もない。オレたちが見つけた倉庫もひどいものだった。電気工事から配管工事、雨漏りの修理まですべて自分たちでやった。オレたちの力だけでこの場所を整備していったんだ。
R: オレたちは聖域、自分たちだけの教会を建てたようなものだ。避難場所だけでなく、自分たちのカルチャーのための聖域が必要なんだ。そして、スケート、アート、音楽、食事を提供し、仲間たちが集えるようになり、自分たちの好きなことをすべてできる場所を作ったら、自然と今の形に進化していった。自分たちの活動に対するニーズが非常に高く、自分たちの姿勢や価値観に共感してくれる人たちがたくさんいたからこそ、成長することができたんだ。
V: 4DWNの活動はスケートだけじゃなくコミュニティを支援しているということだけど、具体的にどのような活動を行っているの?
R: 今は人と地球のための持続可能な解決策を追求するまでに進化している。オレたちはたまたま、この街で最も手頃な価格の地域にいるわけだけど、それはここが最も魅力のない地域だから。それはなぜか? それは世代を超えて制度化された格差があるからだ。つまり、この場所はレクリエーションの砂漠であり、インフラの砂漠であり、食の砂漠であり、子育て支援の砂漠ということ。街の地域と地域との間には大きな格差があり、どこにチャンスがあってどこにチャンスがないかは一目瞭然。だからオレたちの活動は、コミュニティの人たちにチャンスを与え、目に見える多くの格差を克服しようとするものなんだ。古い格言にあるように、腹を空かせている人に魚を与えるのはいいこと。でも長い目で見れば魚の釣り方を教えたほうがいい。何かを与えるだけでは持続可能ではない。自給自足の方法を教える必要があるんだよ。
M: 40フィート(※約12m)のコンテナを冷蔵倉庫に改装したんだ。平日は地元の農家やWhole Foodsなどのスーパーマーケットから食料が送られてくる。そして毎週日曜日には4DWNのフードレスキューを行っている。これは食料配給でボランティアが集まってくるんだ。健康的な食品をパッケージにして各家庭に配るんだ。毎週、数百世帯に食事を提供しているよ。
R: 4人が4日間生活するのに十分な食料。そう考えるとかなりの量だ。そして重要なのは、新鮮で健康的な食品を手に入れることができない家庭に食料を供給しているということ。これは包装された食品でもなく、缶詰でもなく、箱詰めもされていない。加工されていない食品だ。そうやって配給することで埋立地での廃棄を防ぐこともできる。食品が埋立地で腐敗するとメタンが発生する。これは非常に強力な温室効果ガスなんだ。それに加えて、包装材やプラスチック、段ボールもすべて廃棄物となってしまう。オレたちは包装材をリサイクルし、悪くなった食品をコンポスト化し、良い食品を配給しているんだ。
V: スケートのコミュニティ以外にも多くの人が関わっているよね。どうやってその人たちを巻き込んだの?
M: パンデミックの間はスケートのためにオープンすることができなかったから、スペースを貸していたんだ。それを通して素晴らしい人たちに出会うことができた。その頃から格差やあらゆることを学び始めたんだ。そして、そこからコミュニティを支えるためにできる限りのことをするようになった。食料配給の現場に飛び込んで、できる限りの支援を始めた。素晴らしい人たちと一緒に動けるようになった。そうやってスケートコミュニティ以外からも、オレらと一緒に働いてくれる素晴らしい団体や人たちが集まってきたんだ。
R: パンデミックの間に気づいたことは、オレたちにはスケートの価値観や考え方に基づいて築かれた文化やコミュニティがあるということ。スケーターは行動を起こす。オレたちは独創性に惹かれる。NBDを重視する。スケートコミュニティはインクルーシブであるという点で、メインストリームカルチャーの先を行ってきた。オレたちは反抗的で、何事にも疑問を持ち、支配的な文化に馴染めないことをまったく気にしない。スケーターはつねに自分のやり方を見つける。それが必要なことであれば、ルールを破ることも気にしない。例えばアーティストやシェフ、農家、起業家、その他のリーダーや活動家、組織などがオレたちスケーターの姿勢に感化され、新たな価値観を確立していった。4DWNはそれを基盤に成長し続けているのだと思う。
M: そして素晴らしいのは、スケートを通して周りが協力してくれるようになったこと。ただ滑るためやスケートレッスンを受けるために子どもが来たとしても、スケート以上のことを学ぶことができるんだ。
R: スケートには心を開く何かがあるからね。スケーターやスケートファミリーの多くがボランティアになり、ボランティアの多くがスケートを学ぼうとしている。ある意味クロスオーバーしているんだ。
V: 素晴らしい。そしてその活動がドキュメンタリー映画になったわけだけど、その経緯は?
M: あるイベントを開催したとき、映画会社のスタッフのひとりがこの場所に惚れ込んでくれたんだ。ロブが彼にこの場所を案内してオレたちの活動を説明したのがきっかけだった。
R: いつも数年ごとにパークをデザインし直すんだけど、クラムがパークを作り直したとき、ちょうどある映画会社がステイシー・ペラルタの作品を上映するために街を訪れていた時期と重なったんだ。パークの再オープンのイベントにステイシーを連れてくると、彼はすぐにクラムに熱意を示してオレたちの活動を気に入ってくれた。EarthX Filmという映画会社だったんだけど、彼らは環境問題やそのような活動にとても関心があった。だからその場ですぐに、オレたちと一緒に何かやろうということになったんだ。そしてオリンピックの金メダリストであるキーガン・パーマーやみんなが集まって映像作品を上映する大規模なイベントを開催することになった。そうしてオレたちの映画を制作するための資金が集まっていった。この映画はちょうど1年前に撮影されたんだ。彼らは3日間だけ来て撮影した。監督もプロデューサーも、みんな本当に素晴らしい人たちだ。彼らがオレたちを見つけてくれて、映画を作ろうと決めてくれたのは幸運だった。資金調達もプロデュースも全部してくれたから。
M: ある意味、Dickiesと提携したときと似ているね。実は2019年にオレたちのパークでZumiezのBest Foot Forwardの決勝を行ったんだ。彼らはテキサスを回って開催できる場所を探していたんだけど、最初に作ったオレたちのインドアスペースは狭すぎた。そこで彼らを裏に案内して「ここを整備すればコースを作ることができる」と言ってみたんだ。そんな経緯で大規模なイベントを開催したんだけど、そのときの大きなスポンサーがDickesだったってわけ。あのイベントを通じてDickiesと繋がることができて、彼らもこの場所に惚れ込んでくれたんだ。
R: Dickiesには感謝しかない。というのも彼らがオレたちをサポートしようと決めたのはちょうどパンデミックが始まった頃で、オレたちが持っていたのはひどい状態の駐車場と「こうしたい」というビジョン、そしてスケートコミュニティでまだ誰もやったことのないアイデアだけだった。でもそれはすべてDickieの核となる価値観に関わるものだった。行動すること、独創的であること、コミュニティと協力すること。DIYの精神。Dickiesとの偶然の出会いで大きな転機が訪れたんだ。
M: まずDickiesはバートランプのスポンサーになってくれた。それでついに新品の木材で最高のバートランプを作ることができた。Dickiesバートランプと呼んでいるよ。そこから中庭や菜園を作っていった。Best Foot Forwardで使用した木材を使って、デッキエリアのステージも作った。大変だったけど、2019年からブランドやパートナーとの協業が本格的に始まったんだ。
R: 何が最高かって、この国で唯一のプロ仕様のバートランプが無料で誰でも利用できるようになったこと。だって、誰でもふらっとトニー・ホークのランプに行って滑れるわけじゃないから。
M: ほとんどのバートランプは特殊なものだから、どこかの倉庫やボブ・バーンクイストの裏庭のような場所にしかないんだ。でもオレたちのバートランプは誰でも滑りに来ることができる。新しい世代にはバートランプを見たことすらないスケーターが多い。だから4DWNに来て最初に目にするのは間違いなくこのランプだね。ストリートコースもあるけど、Dickiesバートランプが4DWNの中心にあるから。
R: Dickiesバーチカルランプの建設は、パンデミックの間にオレたちが物事を成し遂げることにコミットし、大勢のスケーターがこの巨大な建造物を建設できるということを示す象徴的なジェスチャーだったと思う。そして今、オレたちは世界初で唯一のバートランプ菜園を完成させようとしている。
V: それについても聞きたかったんだけど、バートランプ菜園って何なの?
R: バートランプの下という特殊な菜園スペースで、世界で初めて素晴らしい野菜を栽培する予定なんだ。
M: プラットフォームの下のスペースは通常閉ざされている。でもオレたちはクロスブレーシングをすべて上部に施し、奥行き10フィート、長さ50フィートのオープンスペースを確保した。そこに素晴らしい野菜を栽培する空間を設けたんだ。
V: 斬新だね。この映画はザイオン・カーという少年を主人公にしているけど、本作の撮影中に彼はいろいろ抱えていたらしいね。
R: 時間が足りなくて映画で取り上げることはできなかったけど、ザイオンは全国ネットの生放送で証言台に立つことになっていたんだ。彼は3年前、寝室で一緒にビデオゲームをして遊んでいた叔母アタティアナ・ジェファーソン殺害事件の唯一の目撃者だった。2020年の夏といえば、ジョージ・フロイドやブリオナ・テイラーの事件が起きた年だ。当時のテキサスはこのようなひどい事件が起きる場所で、事件を起こした警察には説明責任もなかった。ここはまだ旧南部の一部なんだよ。南北戦争中に奴隷制をめぐって分裂した国の一部なんだ。正直なところ、制度化された人種差別がまだ残っている。ということで、この少年は撮影の約2週間後に証言台に立つことになり見事にやり遂げた。彼の証言に基づいてアーロン・ディーン巡査は有罪判決を受けた。テキサス州、あるいはアメリカ南部全域で、このような判決は非常に稀なんだ。これを読んでいるみんなには、ザイオン・カーと彼の叔母であるアタティアナ・ジェファーソンについて調べてほしい。Atatiana Project (www.instagram.com/atatiana_project/)を通じて彼らを支援することができる。これはオレたちが協力している団体でもあるんだ。
V: すごい話だね。
R: ザイオンは弟のゼイデンと一緒に4DWNでスケートをしている少年で、オレたちはこの話を知っていた。彼らの叔母が自分の寝室でビデオゲームをしているところを撃たれ、ザイオンの目の前で亡くなった。裁判を行うために大変なコミュニティの活動が必要だった。だから撮影中はみんなこのことを知っていた。さらに母親であるアンバー・カーも心不全で入院中で、彼女が助かる見込みが低いこともみんな知っていた。オレたちは彼女と映画について、そしてザイオンが出演する可能性について話していた。彼女はこう言ったよ。「ロブ、この映画が公開されるとき、私はたぶんいないと思う。出演は彼らにとって素晴らしい経験になると思うし、もしかしたら私も一緒に参加できるかもしれない」って。だからザイオンとゼイデンが入院中の母親と話しているシーンは実際の出来事なんだ。現実。彼女は病院の集中治療室での闘病の末、残念ながら亡くなってしまったけど、陪審員が警官を有罪にするのを見届けることができた。オレたちは彼女を愛しているし、とても感謝している。幸運なことに、今は彼女の姉がザイオンとゼイデンの世話に人生を捧げてくれている。彼らは今も4DWNで元気にやっているよ。
V: 4DWNが彼らや支援を必要とするすべての人にとっていかに重要であるかを物語っているね。ちなみに映画公開を記念して寄付を募っているけど、Dickiesも集まった金額と同額を寄付することになっているんだよね?
M: そう。10万ドルを上限に1ドル単位でDickiesが同額を寄付する。だから寄付された額が2倍になる。とても感謝しているよ。
V: 素晴らしいシステムだね。では4DWNでの活動を続ける原動力はどこから来るの?
M: オレたちの活動のすべてが正しいと感じられるから。全力で活動しているし、この場所を作るのを手伝ってくれた人たち、そしてそこに集う人みんながサポートしてくれている。4DWNのコミュニティは素晴らしく、より良い人間になりたいと思わせてくれる。いい気分にさせてくれる。ある意味、すべてのコミュニティがそうあるべきだ。いろんな人がいて、いろんな人種がいる。老いも若きも、黒人も白人も関係ない。ただ良い人たちが一緒に働いているだけなんだ。
R: クラムらしい答えだ。こいつのハートはいつでも温かい。今のアメリカは本当に奇妙だ。両極化している。その反動として、オレたちの活動は人がどのように団結し、自分自身を助け、同時にコミュニティを支えることができるかを示そうとしているんだと思う。
M: お互いのことを学び、さまざまな人がどこから来て、どんな経験をして、どうすれば支えられるのかを知ることが大切。ひとつに限定されることなく、さまざまな人と出会いいろんな形の人生を知ること。それこそスケートの魅力だと思う。
V: スケートから始まって、いろんなことに広がっていくのは本当に素晴らしいと思う。
R: スケートの原動力と同じだよ。スケートのトリックに関して言えば、よりクオリティを高く、より大きく、より遠く、より速くしたいと思っている。それがスケートの価値観であり、姿勢であり、在り方なんだ。それが今でも原動力になっている。年齢を重ねるにつれて、昔ほど滑らなくなったかもしれない。でも、オレたちの活動にはそのエネルギーが活かされているんだ。
V: この映画を通して感じてもらいたいものは?
M: 人と協力して他の人のバックグラウンドやニーズに心を開くことで、変化をもたらし、人を助けることができるということを知ること。「どうしてこんなにタイプの違う人たちが一緒にいるんだろう」と思う人もいるかもしれない。でもそれは彼らがみんな良い人たちだから。世界はそうあるべきなんだ。
R: 特に今のアメリカでは、信念が違えば協力するのは悪いことだと考える人が多い。オレたちが伝えたいのは、「いや、食料を捨てるよりも人に供給する方がいいじゃないか。こんなに単純なことなんだから協力し合おう」ということ。すべてに同意する必要はない。ただ、まずはそこから始めることができる。そうすれば無数の可能性が生まれる。オレたちは共通の価値観に基づいてブランドや人と仕事をする。肌の色が同じである必要はないし、出身地が同じである必要もない。価値観のレベルで繋がることができれば、表面的な見た目なんてどうでもいいんだ。
寄付はこちらのリンクから: https://donorbox.org/4dwn-documentary
4DWN
@4dwn_org
ロブ・ケイヒルとマイク・クラムによって設立された非営利団体。サウスダラスのスケートパークを拠点に、スケートを通して食料配給を始めとする地域支援を行う。彼らの活動を収録したドキュメンタリー作品はDickies JapanのYouTubeチャンネルで日本語字幕付きで公開中。