ニューヨークを拠点とするアパレルブランド、CHRYSTIE NYCの記念すべき初フルレングス作品『CHAPTER ONE』がついに完成。この話題作を手がけ、ブランドのディレクションを行うペップ・キムとアーロン・ヘリントンのストーリー。
──CHRYSTIE NYC
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Photos courtesy of Pep Kim Special thanks: Kukunochi
VHSMAG(以下V): まずはペップから。韓国・ソウルからNYに移った経緯は?
ペップ・キム(以下P): NYに移ったのは9年前で、目的は写真を学ぶため。NYに住んでいるうちにソウルに戻りたくなくなったというのが正直なところ。ソウルに戻ってしまうと夢を諦めてしまったような気がして。
V: 一方でアーロンはオレゴン州の出身だよね。
アーロン・ヘリントン(以下A): その通り。ポートランドから南に1時間半ほど車を走らせたコーバリスの出身。小さな学生の街。NYに移ったのは2010年だった。当時はSFを拠点に仲間のフィルマーと撮影をしていたんだけど、ある夏にNYを訪れて心を奪われたんだ。翌年の夏にもNYに行ったんだけど、初日に足に大怪我を負ってしまって。それから居着いた感じかな。NYに住み着いた10年後、こうして取材を受けているってわけ。
V: NYに居続ける理由は?
P: 今は他のどこにも住みたいと思わないから。この街で娘ふたりを育てているし、子供たちにはNYでいろんなチャンスを与えたいと思っている。2年ほど前にChrystie NYCというブランドを始めたし。フォトグラファー/シネマトグラファーとしても間違いなくこの街が最適なんだ。
A: オレがNYに居続ける理由のひとつは、ヨーロッパが近いからかな。アメリカ大陸を横断することなく手軽にヨーロッパに行ける。カリフォルニアからだと10時間以上かかるから。だからイーストコーストを拠点にするメリットはヨーロッパにすぐ行けること。さらにNYにはオレが好むスポットが多い。オレが求めるスケートの美意識がこの街にある。この街のエネルギーそのものも魅力のひとつ。ペップのようにNYで家族を持とうとまでは思っていないけど、今のところはこの街に居続けたいと思っている。
V: ふたりはNYで出会ったんだよね?
P: そう。ワシントンスクエアパーク近くのサリバンストリートのスポットで出会ったんだ。当時はフォトグラファーとしてジョシュ・スチュワートの『Static IV/V』を手伝っていたんだけど、ある日、「アーロンと会って撮影したほうがいい」って連絡が来たんだ。今は忙しくてあまり時間がないから撮影するときは人を選ぶけど、当時はチャンスがあれば誰でも撮っていた。そうしてアーロンと出会って、ヤツのクレイジーなオーリーのトランスファーを撮ったんだ。
A: 職場の近くのスポットだったから毎日のようにチャリで通勤しながらチェックしていたんだ。つい先日そのスポットにスケートストッパーがついたばかりで、ジョシュ・スチュワートが昨日インスタでそれを投稿していた。ということで、それがペップとの出会い。ペップはよく覚えていたな…。正直オレはすっかり忘れていた。
P: 当時はアーロンにボードスポンサーがなくてMagentaのデッキに乗っていたんだけど、それから2ヵ月ほどしてPolarに加入したんだ。だから新しいスポンサーのデッキで同じトリックを撮り直す必要があった。そしてそのスポットの近所でも写真を撮って、それがPolarのウェルカムアドで使用された。それがすべての始まり。「こいつは自分がやりたいことをしっかりと理解している」と思った。
A: この街に住んで10年近くスケートしていると、ただ突発的にクルージングするってわけにはいかないんだ。スケートが仕事になったからってわけじゃないけど、ストリートスケートする時間を大切にしたいんだ。ただクルージングしていいスポットがあればヒットするというスタイルはNG。スポットを事前に調べて研究し、テンションを上げてヒットするという流れがベスト。初めてNYに来た頃はすべてが新鮮で魅力的だったからクルージングしながらスポットをヒットしていたけど、時間が経つにつれてブロンクスやクイーンズなどスポットシークの範囲を広めるようになった。人と違うスポットを攻めたいからね。特定のスポットでトリックを更新するのではなく、誰も滑っていないものをヒットしたいんだ。LAのスクールヤードの対極だね。
V: ではChrystieを始めたきっかけは?
P: ただ単にブランドを始めたいわけじゃなかった。だってただ単にブランドをやりたければソウルでチャンスが山ほどあったから。業者のコネクションもあったから洋服でもソックスでも、出版物でも何でも作ることができた。ソウルの仲間の一割は自分たちでブランドを立ち上げて成功している。ちゃんとそれで金を作れているんだ。でも韓国人だけを相手にするドメスのブランドには興味がなかった。NYに移って時間を過ごすにつれて、この街で何かを始められるような気がしたんだ。ブランドである必要はなく、小さなプロジェクトでもよかった。ソウルでのコネクションを使ってNYを拠点にしたブランドを始めようと思った。そうしてストレスを溜めないように小さなブランドにすることにした。この街での生活には金がかかるから、モノを売ることができればと思ったんだ。
V: 当時はフォトグラファーとして活動していたんだよね?
P: フォトグラファーとしてもいい感じにやっていたんだけど、人生の大半をスケートに費やしてきたわけだからそれに関連したことをやりたかった。ある夜にアーロンとバーで飲んでいたときにスモールブランドの立ち上げについて話し合ったんだ。「クロージングブランドである必要はない。ソックスを作ろう」って。そうやってすべてが始まったんだ。ひとりで立ち上げることもできたけど、助言してくれるパートナーが必要だった。アーロンはプロスケーターで日々の大半をストリートで過ごしている。毎日オフィスに出勤することはできないけど、スケーターとしてのインプットを与えてくれているんだ。
A: オレはストリートの動向をつねに追っているから。わかるだろ? 日常的にスケーターと過ごしているから、スケーターの思考や仕組みを理解している。ペップが何もわかっていないと言っているわけじゃないけどね。ペップはブランドの運営を担当していて、オレはプロスケーターとしてのインダストリーとの関わり合い方を知っている。だからそういった意味でアドバイスができるんだ。インスタグラムでの言葉の使い方だったり。「こんな感じの言葉を使ったほうがいい。じゃないと意味を成さない」って感じでね。
V: ということは、ふたりともChrystieのオーナーということ?
P: そう。オレが生産、デザイン、ディレクションなどの担当。でも何をするにもまずアーロンにチェックしてもらうようにしている。
A: デザインが上がってきても、「これじゃ無理。スケーターには難しすぎて受け入れられない。ターゲット層が若すぎるから何から着想を得たか理解できない」ってこともある。
V: ブランド名の由来は?
P: ストリートの名前。女性的な名前がメンズウェアのブランド名に使われているのが気に入っている。さらにオレがプレイしているサッカー場があるんだけど、両方ともクリスティストリートに面しているんだ。だからクリスティという響きに親しみがあった。なぜか誰もこの名前の商標を取っていなかったから「やろう」ということになったんだ。
V: まずはソックスブランドとしてスタートしたんだよね? アパレルブランドに発展した経緯は?
P: 小さなブランドにしたかったからソックスを作り始めたんだけど、Tシャツも作るようになってそれが予想以上に売れたんだ。それからアパレルブランドと思われるようになっていった。
A: それに加えて、スポンサーしようとしたスケーターとの間に問題が生じ始めたんだ。というのも、ヤツらには他にアパレルのスポンサーがあった。オレらはソックスブランドとしてマーケティングしたわけだけど、次第にTシャツやフーディも作るようになっていった。それで周りが混乱したんだ。そうして当時のライダーが離れていった。それなら、「アパレルのスポンサーのない新しい才能でチームを構築しよう」ということになったんだ。現在のライダーは必ずしも有名なスケーターというわけではないけど、ビデオがリリースされたらヤツらの名前も広まると思う。
V: スケーター以外の人もChrystieのギアを身に着けている印象がある。たとえばベルギー出身のDJ、LeftoもChrystieを着ていたよね。
P: スケートがルーツのブランドだけど、スケーターだけを相手にしようとしているわけじゃないから。実はLeftoがどれだけ有名なのかは知らなかった。ヨーロッパ人だからサッカーが好きだったんだ。どうやってChrystieを知ったのかわからないけど、オンラインストアで山のように購入してくれたんだ。それで彼から連絡が届いた。ただでギアをくれっていう連絡じゃなく、「NYに行ったときに直接ギアを買えるか?」って。それで実際に会ったら、かなりイケてるヤツだったからいろいろ提供することにしたんだ。DJとしてもクールだよね。
V: いいね。ちなみにデザインの着想はどこから得ているの?
P: アートのムーブメントの影響が多いかな。たとえばオランダのデ・ステイルという運動。何か特定のものを探しているわけじゃないけど、マッシーモ・ヴィグネリのようなアーティストも好き。NYのサブウェイマップやインフォーメーションのデザインを手がけた人だよ。だから昨年、彼のアイコン的なスタイルにインスパイアされてロゴのひとつを展開したのは自然の流れだった。そうやっていろんなものの側面に影響を受けながらアウトプットしている感じ。デザインに関して特定のものから着想を得ているわけじゃないけど、ひとつ言えることは、典型的なスケーターチックなデザインは作りたくなかったということ。
V: ChrystieのCMのセンスもいい感じだった。
P: ありがとう。アーロンで1本、そしてベルリン出身のカイオ・ヒレブランドでもう1本作った。Super 8といった昔の映像手法が好きなんだ。現代には相応しくないかもしれないけど。今はすべてが速すぎて、質より量という感じになってるような気がするから。無意識にね。でも最終的には質が勝ると思うんだ。ブランド自体が若いし、オレ自身プロの映像作家とは言えないからこんなことを語るのもおかしな話だけど。でもとにかく最近はSuper 8に興味がある。
V: 音楽も良かったね。ではチームについて聞かせて。
P: 自然の流れで集まったスケーターで構成されている。アーロンとアレクシス・サブローンがプロ。そしてカウエ・コッサ、ジョン・バラグワナス、シェーン・ファーバー、ブレット・ワインスタイン、カイオ・ヒレブランド、ジョニー・パーセル。三本木 心にもソックスを提供している。心は先月行ったスペインツアーにも参加している。
V: 女性のプロがいるのがいいね。
P: 実はアレクシスはオンラインストアでソックスとTシャツを購入しようとしたんだ。オーダーを見ると“アレクシス・サブローン”って書いてある。すぐに彼女にメッセージを送ったよ。「何してんだよ。何も買わなくていい。欲しいものがあれば直接連絡をくれ」って。そうしたら彼女は「いや、ギアが好きなんだ。だからブランドを支えたい」って。そうしてオフィスに呼んで、ソックスかアパレルでサポートしたいって伝えたんだ。そうやって彼女はチームに加入したんだよ。
V: いい話だね。そして、記念すべきChrystieの初フルレングス『Chapter One』が完成。本作について聞かせてもらえる?
P: 昨年4月にライダーをNYに呼び始めたんだ。何ができるかわからなかったけど、わずか5日間ほどでシェーンがフッテージを量産したんだ。かなり感心して、15分くらいのプロモビデオなら現実的に作れるんじゃないかって思い始めた。そして、結果的に24分の強烈な作品を完成させることができた。
V: 撮影時の印象的な出来事は?
A: ブロンクスとか遠くに出かけた撮影すべてかな。クラックをボンドで埋めたり、ほとんどのスポットが何かしらの手直しが必要だったからそれも印象的だった。Polarのパートでスラムしたスポットも今回のビデオでリベンジすることができた。あれはうれしかった。誕生日にフッテージを量産できたのもいい思い出。かなり生産的な誕生日だった。
P: そうだね。オレらのやり方で作品を作ることができた。アーロンはどんなプロジェクトでも自分でスポットを見つけてくるんだ。オレはオフィスでアーロンからの「いいスポットを見つけた。行こうぜ」という連絡を待つだけ。完璧なスポットを探してくれるアーロンには感謝の気持ちしかないね。
V: やはり相応しいスポットやトリックを見極められることがいいスケーターの条件だと思う?
A: Chrystieのチームに関して言えば、それぞれに違った魅力があると思う。みんなそれぞれの意味でユニークなんだ。スポットに関しては、シカゴ出身のブレット・ワインスタインが独特の鑑識眼を持っている。シェーンもそう。心、ジョンもそう。みんなパワフルな側面を持っている。カウエはどんなスポットでも攻略できる。シェーンも同じ。みんなピュアなスケーターなんだ。無駄にかっこつけるヤツなんてひとりもいない。「次のトライでメイクしたらシックスパック。その次は牡蠣20個もしくは$20」って感じ。最高の時間を過ごすことができているし、チーム内でみんな上手くやっているからすべてがスムース。
P: そう。先月のスペインツアーで初めてチーム全員が揃ったんだけど、正直言うと少し心配だったんだ。誰かが自己中心的で特定のスポットに固執しすぎて他のライダーの時間を無駄にするといった悪夢もあり得るから。でもそんなことは一度もなく、チームの絆を固めることができた。期待以上に最高なツアーになった。
A: そうだね。すべてスムース。みんなミッションをコンプリートしたから最高だった。でもペップはバンを壊したんだ。
P: ああ、そう。バンをダメにしてしまった。だって15年以上もマニュアル車なんて運転していないし、ヨーロッパの車はマニュアルばかりなんだ。全員で9名もいたからグランカナリア島でレンタカーをしたんだ。そしたら、糞マニュアルのバンだった。マニュアルの運転なんかできない。最後に運転したのは17年前。だから空港のレンタカー屋からairbnbまでの間に自力でマニュアルの運転の仕方を思い出すしかなかった。そして、その夜に壊れたんだ。
A: 怖すぎて手が汗でビショビショになったからね。手のひらの皮が剥けるくらい。
V: そりゃ大変だ。ちょうどツアー中のカオスな出来事について聞こうと思っていたところだった。
A: いや、本当にヤバかった。バンに乗っているときはずっとカオス。
V: ではChrystieの目標は?
A: 月面着陸。
P: Chrystieを始めた頃は手探りの状態だった。ブランドの立ち上げでもプロジェクトの始動でも、世の中には2種類のタイプがいると思うんだ。ひとつは完璧なプランを立てて、じっくりと時間をかけて理想のアイデンティティを構築しようとする。そしてビデオや写真といったプロモーション素材をしっかり揃えてから、ようやくブランドをスタートさせるタイプ。たとえば、TOA傘下のDial Tone Wheelsは納得できるウィールを作るのに4年もかけている。TOAのパット・スタイナー、ジョシュ・スチュワートといったスケートインダストリーで経験のある連中でもそんなに時間をかけているんだ。でもオレの場合、アーロンとブランドを始めようと話した日…今でも覚えているけど、あれは2016年2月だった。それから4月か5月に韓国に飛んで2週間でソックスの生産業者を見つけた。それで生産したプロダクツをアメリカにこっそり持ち帰ったんだ。そうしてウェブサイトを開設し、ショップに営業をかけていった。オレは何を始めるにもすぐに行動するタイプ。すべての条件が揃うまで待てないんだ。待ちすぎると情熱が薄れてしまうから。
A: そう。インスピレーションが死んでしまう。
P: ノウハウはやりながら学べばいいじゃないか。どこへ向かっているのかはっきりと把握しているとは言えないかもしれないけど、デザインとターゲットに関しては明確なヴィジョンがある。最終的な目標が何かはまだ見えていないけど、今言えることは最高のチームを作ること。そしてその目標は達成間近。
A: 今回のプロモビデオをみんなが観てどうなるかが楽しみだね。これまではブランドの信頼性を証明するスケートのコンテンツがなかったから。でもこのビデオがあればみんな「OK、このブランドには実際にスキルのあるスケーターが関わっている。いい感じじゃないか」ってことになるだろう。そしてオレたちの活動を理解してもらえると同時に、ブランドの方向性も明確になると思う。そうやって一歩ずつ、これからも確実に前に進んでいく感じだね。
CHRYSTIE NYC
@chrystienyc
ペップ・キムとアーロン・ヘリントンによってNYCで設立。ソックスブランドとしてスタートしたが、現在はアパレルブランドにまで成長。1stビデオ『Chapter One』リリース後の動向に注目が集まっている。