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祖国ブラジルから日本、そしてアメリカへ拠点を移しゼロからのスタート。LAを拠点にPRIMITIVEの専属フィルマーとして活動する岩倉エリキの半生。
──ERIC IWAKURA

2020.07.09

[ JAPANESE / ENGLISH ]

Photos courtesy of Burny Diego

VHSMAG(以下V): ブラジル・サンパウロ出身なんだよね? スケートを始めたのもサンパウロ?

岩倉エリキ(以下E): そうです。スケートを始めたのは1998年、13歳のときです。当時住んでたマンションの下で同世代の子供たちがスケートをやってるのを見て興味を持ちました。それからハマりましたね。

V: 一時は名古屋のほうに住んでたよね。日本に移住したのは?

E: 19歳までブラジルでスケートしてたんですけど、当時はお父さんに結構な借金があったんです。僕はブラジル出身の日系人。日本は労働力として日系ブラジル人を受け入れてるんです。日本におじいちゃんとおばあちゃんがいるからビサも取りやすくて。日本に移住したのはお父さんの借金を返すための出稼ぎ。高校を卒業して日本に移りました。

V: 出稼ぎだったんだ? 日本では何の仕事をしてたの?

E: Sonyで働いてました。職場が岐阜だったので車で通って。その後は岐阜に住みながら名古屋でスケートしてましたね。日本人とブラジル人の友達がたくさんいました。

V: 中部地方にはブラジル人コミュニティがあるよね。そのエリアに住んだのはそれが理由?

E: そうですね。やっぱりブラジル人が多いほうが仕事がしやすいから。当時は日本語も全然わからなかったし。最初の頃はめっちゃ大変でした。本当に…日本語を覚えるのがマジで大変だった。今も日本語は片言だけど会話くらいはできるようになりました。

V: 文化の違いを感じたことは?

E: 文化の違いはめちゃくちゃ感じました。たとえばローカルのスケートパークに行くと、ブラジル人はスケーター同士で握手したりハグしたりするんですよ。挨拶が熱いのが当たり前。日本に住んで若宮スケートパークで滑るようになったんですけど、通ってるうちにローカルを顔を覚えるじゃないですか。それでブラジルのノリで挨拶したら引かれましたね。「ごめんなさい」って謝ろうにも日本語がわからないから変な空気になっちゃって(笑)。徐々に日本の文化に慣れていきました。

V: VHSMAGでPick Upパートを公開したのが2014年。もう6年前だね。

E: 懐かしいですね。あのときはメールでやり取りしたと思うんですけど、それもめちゃくちゃ大変だったんですよ。喋るのと書くのは全然違うから。敬語も難しいし。いろんな人にメールの書き方を聞いてました。ひとつのメールを書くのにめっちゃ時間かけてましたね(笑)。
 


 

V: 出稼ぎで日本に来てスケートしまくって、今はLA在住だよね。アメリカに移ったきっかけは?

E: ずっとスケートで生きていきたいから頑張ろうと思ったんです。日本に住んでいた頃はいろんな大会に出たりしたんですけどやっぱりスケートで食うのは難しかった。それで2011年に26歳で初めてアメリカに滑りに行ったときに「ここで何かできるんじゃないか」って思ったんですよね。年齢的にちょっと厳しいとは思ったんですけど、とりあえず住んでみようって。ブラジル国籍だと入国が大変なんですけどね。初めてアメリカに行ったときも観光ビザを2回も落とされましたし。でもやっとビザを取得してLAに行くと最高だったんですよ。どこにでもスケーターがいるし。だから日本に帰ったら仕事を頑張って、貯金してアメリカに住もうと思いました。それで2015年11月にアメリカに引っ越しました。

V: かなり計画的だね。

E: でも日本に住んだ頃からずっと大変でしたよ(笑)。仕事と日本語の勉強をしながらスケートをして。アメリカに住み始めたときも知り合いもいないし英語もわからないし。住む場所を探すのも大変だし。ゼロからのスタートなんです。日本にいたときは外の世界に出る理由がなかった。調子いい仕事があって給料も良かったし、スケートもできてたし。友達もいっぱいいたし、家族もいたし。でも僕にはアメリカに住みたいという夢があった。だから日本を離れてアメリカに住んだんです。

V: 大変な時期を経て今はPrimitiveの専属フィルマーとして活動してるよね。もともとフィルマーとして活動してたの?

E: いや、してないです。日本でプロスケーターとして食っていこうと思ってましたから。でも29歳になって諦めたんです。そこで何か始めなきゃなって思って。ずっとカメラは好きだったんですよ。2005年に初めてビデオカメラを手にして周りの仲間を撮ってたんですけど、アメリカに住む1年くらい前から本格的に映像を撮るようになりました。アメリカに来たときもスケートをしながら撮影しようと思ったんですけど、フィルマーになることが目標ではなかったんです。でも撮影しながら友達を作っていきました。

V: まずはコネクションを作らないとだもんね。

E: JKwonっていうスポットがあるじゃないですか。当時あそこはかなりの人気スポットで日曜日は朝の7時から10時まで滑れるんですけど、毎週いろんな有名プロがいるんです。それである日、JKwonに行くとロドリゴ・ピーターセンがいて、お互いブラジル人だからポルトガル語で挨拶して。翌週もロドリゴが来ててちょっとずつ仲良くなっていって。ビデオカメラを持ってるから撮影に誘われるようになったんです。当時の彼はBoulevardのライダーで、ロブ・ゴンザレス、ダニー・モントヤ、カルロス・イクイがいつも一緒にいる面子。それでロドリゴを通してカルロス・リベイロとかティアゴ・レモスとも繋がっていきました。ティアゴはブラジルで会ったことがありましたけど。

V: アメリカでのキャリアが少しずつスタートした感じがするね。

E: そういえば2016年の終わりに岸 海がLAに来たんです。彼は日本にいた頃から仲が良かったんですけど、めっちゃ上手いから彼のビデオパートを作ろうって話になって。翌年にもLAに来て撮影したんですけど、そのときの映像がちょっと前にやっと公開されました。あれは2017年の映像なんです。
 


 

V: あれは結構前の映像だったんだね。Primitiveの専属フィルマーになった経緯はどんな感じだったの?

E: まずアメリカでのコネクションがどんどん増えていったんです。カルロス・リベイロ、ティアゴ・レモス、トレント・マクラングとか。そんなときにPrimitiveが新しいフィルマーを探してたんですよ。ちょうどVXでみんなを撮ってて、僕の名前も知ってもらえるようになった2018年の終わりくらい。そしたらフィルマーマネージメントのアラン(・ハノン)から声をかけられて。「JB・ジレットのウェルカムパートを作りたいから手伝ってくれないか?」って。OGスケーターだからVXで撮ろうってことになったんです。まずそれを手伝うことになりました。
 

今でも「Primitiveのフィルマーなんだ!」って信じられない

V: JBのウェルカムパートのフィルミングがきっかけだったんだね。

E: JBのパートは70%くらいを僕が撮りました。それからライダーたちが推薦してくれてPrimitiveの専属フィルマーの話を持ちかけられたんです。迷うことなく受けました。2019年の2月頃ですね。今でも「Primitiveのフィルマーなんだ!」って信じられない感じで朝起きることがあります(笑)。

V: やっぱそう思うんだ(笑)。世界のトップが名を連ねるブランドの専属だもんね。

E: みんなと仲良くなって今はようやく普通になってきたけど、ふと「あ、Primitiveのライダーたちと一緒に動いてるんだ。マジかよ!」って感じることがあります。だから毎日感謝してますよ。これまでめっちゃ大変だったから、このチャンスを無駄にしないで頑張ろうって気持ちになります。

V: それも出稼ぎで日本に移って、アメリカでゼロから始めて、朝からJKwonでコネクション作って…。そうしたことの積み重ねで掴んだチャンスだよね。

E: やっぱり人との繋がりが大切です。本当に少しずつでしたから。今でも話しながら泣きそうになります(笑)。

V: しかもボスがあのP・ロッドだしね。

E: まずPrimitiveに入る前にP・ロッドが僕の名前を知っててくれたらしいんです。それでPrimitiveに入って、自分のインスタにそのニュースを投稿したときに彼がフォローしてくれて、「Welcome to the family(ファミリーにようこそ)」ってコメントしてくれて。「ヤバい! マジか!」って思いましたね。そのコメントはスクリーンショットを撮って保存してます。P・ロッドから連絡が来るときは今でもビックリしますね(笑)。
 


 

V: それは記念すべき日だね。ちなみに『Encore』の撮影で忘れられない出来事は?

E: いっぱいあります、撮影のためにいろんな場所に行ったから。ウェイド・デザルモやJBとパリやバルセロナでフィルミングしたのはいい思い出です。それがPrimitiveのフィルマーとして初めての海外ツアーでしたから。当たり前だけどPrimitiveが渡航費とか全部払ってくれるんですよ。めちゃいいホテルだし。まずそれに驚きましたね。「マジかよ!」って。

V: やっぱ高級ホテルなんだ。

E: あとはカルロス・リベイロのパートの最後から2個目のトリックの撮影。あのノーリーBs 180ヒールのSs 5-0。あのスポットはLAから車で3時間かかるんですけど、初日はメイクできなくて。3ヵ月後にまた行って、3時間くらいトライしたんですけどまたできなくて。それでビデオがリリースされる1週間前にまた行くことになったんです。ラストチャンスですよね。それで最後の最後で、めちゃ時間かかったけどメイクできたんですよ。カルロスがかなり頑張ってたから忘れられないですね。クリップを観ただけだと簡単にメイクしたって思いがちじゃないですか。でもみんながどれだけ頑張ってるかって、舞台裏の映像を観ないとわからないものなんですよね。
 







 

V: 3秒のフッテージを何ヵ月もかけて撮影する世界だよね。

E: そうなんですよ。あとはティアゴとNYに3週間滞在して撮影したことも思い出深いです。ティアゴのラストトリックのノーリーからのストレートインの50-50もヤバかった。でもあれは全然時間かかってないんです。ティアゴは生で見るとマジでヤバい。ゴリラなみのパワーだよね(笑)。
 

Primitiveに入って学んだのは、つねにチャレンジすること

V: Primitiveの専属になって撮影の仕方とか変わった?

E: 変わりましたね。ルールではないけど、Primitiveの作品には特定の機材や撮り方があるんです。最初はその撮り方を覚えるのがちょっと大変でした。Primitiveに入って学んだのは、つねにチャレンジすること。自分の限界を超えようとする努力が大切なんですよ。だからPrimitiveに入っていろいろ勉強になってます。

V: そういえば『Encore』の舞台裏をフィーチャーした“Behind the Missions”シリースでジョヴァンニ・ヴィアナに「ジャパ」って呼ばれてたよね。

E: そうですね。みんなから「ジャパ」って呼ばれてます。ブラジル人だけどジャパニーズの顔だから「ジャパ」。ブラジル人の仲間がそう呼び始めたんですけど、アメリカ人は「ジャップ」って差別用語じゃないかと心配してましたけどね(笑)。

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V: 数年前から日本は「ネクスト・ブラジル」って言われてるでしょ? ブラジル、日本、アメリカを知ってるからこそ日本のスケートシーンについて思うことはある?

E: まずブラジル人はスケート業界のルールを守らない人が多い。ブラジル人から見ると、日本人はルールを守りすぎてるような気がします。固いというか。段階を踏まなければダメという意識があるような気がします。あとブラジル人は基本的にアメリカにひとりで来るけど、日本人は友達と一緒に来ることが多い。団体だと気を使い合って動きたいように動けないんです。でも成功してる日本人スケーターもいるから一概には言えないですけどね。良いとか悪いとかじゃなくて、考えすぎずに自由にやればいいと思います。

V: では最後に今後の予定は?

E: 次のビデオを年内に出したいという話があります。フルレングスまではいかないけど、5人のパートを収録したそれなりのボリュームがある作品。本当にPrimitiveはノンストップです。止まらないんですよ。新型コロナの影響があるから確定とは言えないけど今はそんな感じですね。

 

Eric Iwakura
@eric_iwakura

1985年生まれ、ブラジル・サンパウロ出身。テクニカルトリックに定評のある日系ブラジル人スケーター。現在はLAでPrimitiveの専属フィルマーとして活動中。

 

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