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ELEMENT『PEACE』のディレクターを務めた映像作家のジョン・マイナーが作品に込めた思いを語る。全フィルマー/エディター必見の金言の数々
──JON MINER

2018.12.20

[ JAPANESE / ENGLISH ]

Photos courtesy of Element, Special thanks: Element Japan

VHSMAG(以下V): まずElementに惹かれた理由は?

ジョン・マイナー(以下M): Elementに惹かれたのは素晴らしい才能と仕事ができるから。ブランドン・ウエストゲートとは25年の付き合いだし、トーマス・キャンベルやフレンチ・フレッドも一緒に仕事をしたことがあった。Elementのフルレングス制作は大変そうだったけど、ライダーのラインナップを考えると断ることなんてできなかった。正直言ってEmericaを去るのは苦渋の決断だった。17年もいたんだからね。いろんな思い出が詰まっている。今もEmericaにはリスペクトしかない。

V: 映像制作にはVXやHDなどありますが、中でも一番使うものは?

M: プロジェクト次第かな。Elementのフルレングスの場合はカメラマンが多くてHDと言っても2Kや4Kが混ざっていた。ほとんどがPanasonic HPXで撮ったものだったから、自ずとそれがベースになった。VXにはスケートビデオ独特の質感があるけど特にそれに戻りたいとは思わない。壊れやすいしテープのデジタル化も面倒くさい。でもたまに音声を録るためにVXを持っていくこともある。VXのアナログの音質のほうがHDのものよりも断然いいから。

世界のどこであろうとクルーとそのシーンを垣間見ることができる

V: ではオンラインで動画が次々と公開される今の時代について思うことは?

M: 相当の時間と労力をかけた作品がサイバースペースに消えていくのは辛いというのはある。でも今のキッズは毎日のように新しい動画を観ることができる。オレも彼らの立場だったら楽しくてしょうがないと思う。次々と映像が公開されることによって感覚が麻痺するかどうかは正直わからないけどね。

V: ではそんな時代におけるフルレングスの重要性は?

M: チームのストーリーを伝えられること。それが小さな町でも大都市でも、世界のどこであろうとクルーとそのシーンを垣間見ることができること。もしチームが純粋な仲間同士だったら、作品を観るスケーターは自然とそれを感じて親近感を持つことができると思う。

V: 『PEACE』は今の世代にとっての『Questionable』だと言う人もいるけどそれについては?

M: それは光栄だけど個人的にはそうは思わない。スケートの進化という意味合いにおいて『Questionable』ほど記憶に残る作品はないから。

V: 今回の撮影で印象的だった出来事は?

M: エヴァン・スミスとの撮影。いつどこで何をするか予測できないから。ヤツと撮影するときはつねに準備していなければならない。紛れもなく世界最高の才能の持ち主。ヤツの凄さは映像だけでは伝えられない。

 

 

V: では一番大変だったことは?

M: フルレングス制作とはチーム全員と信頼関係を築くことでもある。信頼があるからこそ最高の化学反応が起きる。だから限られた時間で全員と信頼関係を築くのが一番大変だったかな。みんな5年ほど撮影を重ねていたけど、オレが参加したのは最後の1年だけだったから。

V: 各パートのオープニングショットも印象的だった。

M: Element所属のアーティストのビジョンを作品に盛り込むのもオレの仕事だった。Elementにはブライアン・ゲーバーマン、フレンチ・フレッド、ジェイク・ダーウェンといった最高のフォトグラファーがいる。オープニングショットの構図は彼らのもの。モノクロに加工したのはゲーバーマン。ネームタイトルやグラフィックを担当したのはアンディ・ジェンキンス。グラフィックアニメーションはヨハネス・ギャンブル。各パートの激しいスケートと対照的な静かなヴァイブスを作り出そうとしたんだ。

V: では一番うれしかったことは?

M: 完成したこと(笑)。暗いトンネルの中で出口が見えないような感覚に陥ることもあったけどね。特にナッシム・グアマズのパートが気に入っている。ヤツのハイスピードでスタイリッシュなスケーティングが好きなんだ。撮影期間が短かったにも関わらずトントン拍子で素晴らしいパートになった。編集が大変なスケーターもいるけどナッシムの場合はスムース。こんなことは珍しいんだ。すべてのパートにそれぞれの魅力があるけど、ナッシムのパートはクラシックだと思う。

V: ロケーションに関しては?

M: さっきも言ったようにオレが撮影した期間は短かったけど、バルセロナ、リヨン、ハンブルク、ボストン、SF、そしてその他はほぼ南カリフォルニア。もっと時間があれば各ライダーのホームタウンで撮影したかった。

V: チームの中で撮影が楽しかったスケーターは?

M: ブランドン・ウエストゲート、ジュリアン・デイビッドソン、メイソン・シルヴァ、ナッシム・グアマズ、マダース・アプス、エヴァン・スミス。エヴァンは怪我しちゃったから最後のほうはあまり撮影できなかったけど。あとはヤッコ・オヤネンもヤバかった。ヤツとは2週間しか撮影していないけど、パートの半分ほどをその期間で撮れたから。最高のパートだけど、もっと時間があればこの世のものとは思えないものにできたと思う。

V: 一緒に撮影したいと思えるスケーターのタイプは?

M: ハイスピードなスケーター。

 

 

撮影そのものよりもそれにまつわるすべての経験が好き

V: 撮影する以外で大切なフィルマーの役割は?

M: やっぱりライダーと信頼関係を築くこと。信頼と根気。経験上、ライダーと撮れている映像に関する打ち合わせをしてしっかりとコミュニケーションを取ることも大切。そうしないとライダーがトリックを重複して撮ってしまうことがあるから。

V: フィッシュアイとロングレンズ。自身の中での使い分けは?

M: バランス良くという感じかな。正直言うと、オレは撮影そのものよりもそれにまつわるすべての経験が好きなんだ。チームと一緒にストリートに出る感覚。スキルに見合ったスポットを探し出してワクワクする感覚。一番の醍醐味はライダーのポテンシャルを最大限に引き出すこと。

V: 撮影時に心掛けることは?

M: 編集を考えていろんなアングルで撮ること。大体自分以外にふたりくらいフィルマーがいるから、現場で彼らと連携を取るようにしている。たとえば、現場で自分しかいなければトリックを記録することだけに集中する。もし他にもフィルマーがいれば彼らの得意な撮り方で確実にトリックを記録して、オレは実験的な撮影を試す。フィルムで撮るのが好きだから、トリックにまつわる素材を撮影するのも楽しい。

V: ではディレクションで大切なことは?

M: 根気強く、みんなそれぞれの事情を抱えていることを理解すること。コミュニケーションが本当に大切なんだ。ライダーの可能性を引き出して作品に役立てること。エゴを捨てること。ライダーが誇り高く自信を持てるように振る舞うこと。

V: では選曲についてライダーの意見を取り入れることは?

M: もちろんある。音楽の好みが強いライダーもいるから。たとえばニック・ガルシアは自分で曲を選んだんだ。音楽のセンスがいいからヤツの意見は取り入れるようにしている。

V: 過去のスケートビデオで使用されたOperation Ivyの曲をブランドン・ウエストゲートのパートで使ったのは?

M: ブランドンは音楽のセレクションに興味がないんだ。この12年間でヤツのパートを3本編集してきたけど、新しくて新鮮な曲を見つけるのが毎回大変だった。ラップやレゲエなどいろんなジャンルを探したけどどれも面白くなくて、有名なバンドとなるとライセンシングが難しかったり予算と合わなかったりする。『PEACE』ではブランドンがオープニングパートを飾ることになると思ったからアップビートな曲がいいと思った。そこでハードコア、パンクやレゲエがいい路線だと感じたんだけど、どうしてもしっくり来ない。当時は古いH-Street、LifeやPlanet Earthの作品を観ていた。ガキの頃のインスピレーションの欠片を集めていたんだ。Operation Ivyはパンクとスカを融合させた好きなバンドだった。オレは北カリフォルニアで育ったんだけど、ベイエリアで人気のバンドだった。姉にその存在を教えてもらって、友達が初期の7インチを持っていた。オレのスポンサー・ミー・ビデオで使った曲も彼らの初7インチ“Hectic”に収録されたものだった。Life『Soldier's Story』やPlanet Earth『Now n Later』よりもっと前の話。

V: '90年代のスケーターはみんな好きなバンドだよね。

M: これを話すのは、オレがこのバンドと深い繋がりを感じているということを知ってもらいたいから。『Soldier's Story』のドンガーとジョン・リーヴスのパートが好きだった。ジョン・リーヴスがピクニックテーブルでノーズグラインドをしてカメラが顔に寄り、ネームタイトルが出てくる。マジで最高。ドンガーのスタイル、Chuck Taylorを履いてトラックもグラグラ。タイムレスな映像だ。ジャンプランプの時代に育ったから、彼らのようにオーリーからメソッドをやりたかった。

 

 

V: Life『Soldier's Story』にはパワフルなスケーターがたくさん出ていたよね。

M: これまでにもブランドンのパートにOperation Ivyを使おうと思ったことがあったけど、Emericaの作品には合わない感じがして…。ブランドンのスケーティングはドンガー、ジョン・リーヴズ、ショーン・シェフィのスピードとパワーを彷彿とさせる。だから彼らへのオマージュとして同じ曲を使ったんだ。インスタでLifeのビデオに出ていたバンクtoフェンスが投稿されていて、もう30年も経つのにあのスポットがまだあることに驚いた。そこでブランドンと一緒にそのスポットに行ってみたんだ。フェンスが高くてバンクに近いからかなり難しいスポットだった。ずっと誰もヒットしなかったわけがわかったような気がした。まずはオーリーをしてキックフリップをメイク。ガキの頃に戻ったような感覚で興奮した。スケート史が詰まった場所だから。ドンガーのキックフリップグラブと同じアングルで敢えて撮影してオマージュであることを表現した。スポットもOperation Ivyもずっとスケートビデオで使われていないという共通点があった。それでルールを破って同じ曲を使ったんだ。不快に感じる人もいれば、当時の思い出を懐かしむ人もいるだろう。新しい世代のスケーターにOperation Ivyを知ってもらいたいという思いもあった。そういった経緯であの曲を使ったんだよ。

V: なるほど。では『PEACE』というタイトルについては?

M: 何案か出ていて、最初はまったく気に入っていなかった。'60年代のラブ&ピースのヒッピーな感じがしたから。辞書で“PEACE”の意味を調べたら、結局のところそれはひとつの感情であり、儚いひとときであることを理解したんだ。スケートもそれと同じだし、スケーターはつねにそれを求めている。時間をかけてトリックをメイクすると、そこには安堵の感情がある。静かで平和な感情。それにElementのチームは実に多様な個性で構成されている。トレンドを追ったり周りに迎合するスケーターはひとりもいない。無理をしていないから心の中が平和な連中ばかりなんだよ。世界のどこ出身であろうと互いに支え合っている。撮れた映像を見返していると、トリックをメイクする度にみんなが喜んでハグし合っている。こんな国際的な繋がりは他に見たことがない。これも平和の象徴だ。オレはポジティブなメッセージを込めた作品を作るのが好きだ。ただし、メッセージを押し付けるようなことはしたくない。敢えて言うならば、ジョン・レノンが言うように「Give Peace a Chance(※我らに平和を)」ということ(笑)。

 



 

V: では若いフィルマーやエディターにアドバイスを。

M: ポジティブと根気良さがカギ。スケーターのサポートをすること。わからないことがあれば聞くこと。批判ばかりしないこと。エゴを捨てて学ぶ機会を逃さないこと。初めてフッテージを買い取ってもらうときは融通を利かすこと。大切なのは名前を売ること。一緒に仕事をするのが面倒くさいと思われたら終わり。

V: では最後に今後の予定を。

M: ヤッコ・オヤネン絡みのエキサイティングなプロジェクトが控えている。今後は若い撮影チームを築きたい。次世代の映像作家を導ける立場になることが目標だね。

 



ジョン・マイナー
@jon_miner

『This is Skateboarding』や『Stay Gold』などEmericaの諸作品を手掛け、現在はElementに所属して同ブランドの新作『PEACE』のディレクションを担当。'90年代に活動したスケーターでもある。

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