GRAVISのスケートプログラムが7年の沈黙を破り復活。踏襲される当時のブランドイメージが新たなアイデアと融合する。新生GRAVISについて、ライダー兼チームマネージャーを務めるオッケンこと奥野健也に話を聞いた。
──KENYA OKUNO / 奥野健也
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Photos_Iseki
Special thanks_ABC-MART
VHSMAG(以下V): まず最近の活動はどう? GRAVISだけじゃなく、宮城県でのスケートパーク建設に尽力するとか、スケートコミュニティを支える活動をしているよね?
奥野健也(以下O): そうですね。年齢も33歳になってプレーヤーとしての限界も感じてきているので、裏方で今後どうシーンに貢献できるかというのは考えていて。そのひとつがGRAVISのチームマネージャーとしての仕事と、もうひとつが復興プロジェクト内でのスケートパークの設計やイベントの企画だったり。どう地域に貢献して業界に繋げていけるかということを考えながらやっています。
V: やっぱりスケートコミュニティに貢献したいという気持ちが強かった?
O: 強かったですね。自分がスポンサーを受けたりしている環境のなかで「ちょっとこれは…」と思うこともありましたし、「このまま日本のスケートシーンが続いていくのはどうなんだろう」と考えることもあったので。自分が関わることによって少しでもいい方向に持っていって後の世代に繋げることができればと思ってやらせてもらっています。プレーヤーとしての経験をどう生かしていけるかというところで、まずは成果を出せればいいなと思っています。
V: GRAVISを復活させようと思ったきっかけは? 元々、オッケンくんはGRAVISのOGメンバーだよね。
O: そうですね。魅力的でブランドヒストリーもあるブランドなのにスケートチームがなくなるのはもったいないとずっと思っていて。僕だけの力で復活させるわけじゃないですけど、すごくタイミングが良かったんですよ。ABC-MARTがBurtonからライセンスを受け継いでGRAVISのスニーカーラインを販売していくなかで、やっぱりカルチャーにしっかりフォーカスしていかないといけないという話になっていたタイミングで。双方で動こうとしていたときにプレゼンをして意見が合致しました。タイミング的にミラクルが起きたっぽいですね。
V: オッケンくんにとってGRAVISの魅力は?
O: シューズはもちろん、ライダー、映像作品、カタログまで、今振り返ってもあんな洗練されたシューズブランドはないと思います。フォーマルさも魅力ではあるんですけど、スケートだけじゃなくスタイルをすごく大事にするブランドですね。スケートのスポーツの面がフォーカスされつつある今の時代にはそういうかっこよさはさらに必要だし、流行は周期で回るので、ちょうどまたそういう洗練されたかっこよさが求められる時代が来ているのかなと思っています。
V: 以前のGRAVISに所属していたときの印象的な出来事は? 故ディラン・リーダーが来日したこともあったよね。
O: 日本に来て暴れていましたもんね。パークでもホテルでも。あれは衝撃的でした(笑)。僕がまだGRAVISに入ったばかりでしたけど、あのタイミングでツアーに同行出来て良かったですね。その後ですけど、アメリカのGRAVISがなくなってジャパンチームで動いているときに祥ちゃん(山崎祥太)とLAに撮影に行って、ライアン・アラン(元GRAVISのフォトグラファー)に撮ってもらったんです。そういう経験は今となってはすごくいい思い出ですね。全然準備していないのに写真がめっちゃかっこいい。こんなに違うんだって思いました。
V: GRAVIS復活までのプロセスはどうだったの? 宮城県のスケートパーク建設もそうだと思うけど、スケートコミュニティ以外の人と仕事をするときに大切だと思うことは?
O: まずはいろいろ話をして、スケーターはこういうセンスを重視しているとかこういう動きが支持されるとか、スケーターやシーンの常識を理解してもらうことから始めることが多いです。認識合わせというか。あとは、こちらからプレゼンした方がいいんだなというのは前から気づき始めていたので、まずは説明資料を作って、「ここが問題だからこういう解決策があります」という提案をどんどんやろうと思っていました。スケーター独自の目線をわかりやすく落とし込んで説明するだけでも全然違うと思います。元々スケーターはめちゃめちゃ格好いい、そこにプライドを持ってあとはそれをどうわかりやすく、それがどう解決につながるのかを伝えるというのが大事かなと思います。
V: GRAVISでのオッケンくんの肩書きは?
O: 肩書きは難しいんですけどね。一応、チームマネージャー兼ライダーです。あと商品開発とか営業とか、その他わからないことは担当者の話を聞きながら一緒にやっているのでそれはもうディレクターだという人もいます。
V: Shake Junziもブランドに関わっているんだよね?
O: そうですね。最初から僕ひとりだとこの仕事は無理だと思っていて。僕に足りないのは特にアートのところなので、クリエイターとしてJunziくんに入ってもらっています。GRAVISはスケート、ファッション、ライフスタイルというコンセプトでやっています。スケートチームを作って撮影するのが大前提なんですけど、ファッションもすごく大事にしているので。アートもそうですけど、Junziくんはハイファッションブランドとの繋がりがあるので適任だと思います。仲が良くて一緒に動きやすいというのもありますけど。
V: やっぱりふたりのケミストリーがいい感じなんだ?
O: ある人に「岡田 晋とチョッパーみたいだね」って言われましたけど(笑)。Junziくんは「オレが岡田 晋くん?」って聞いていましたね。「いや、絶対違うでしょ」って(笑)。それは冗談で、ふたりで上手くやっています。ああ見えてJunziくんは真面目なんで。
V: (笑)。ではチーム構成を聞かせてください。
O: 最初に佐々木真那が入って、田中晶悟と西宮ジョシュアが続きました。それと僕を入れて合計4名、少数精鋭のチームです。これからアマも加入するかもしれないですけど、まずはスケーターの価値を上げたいので。契約するライダーにはしっかりお金を出したいということで、少数でスタートすることにしました。
V: みんなそれぞれ色があってバランスがいいチームだよね。
O: そうですね。スキルだけではなくスタイルもある人を選んでいます。佐々木真那はスタイリッシュなスケートをするので、ディランっぽい役割を担えるのかなというのは思っていて、GRAVISを履くことでよりかっこよくなると確信していました。晶悟は元々GRAVISにいたのと、彼のスタイルは今でもGRAVISにぴったりだと思ってOGとして声を掛けました。ジョシュアは元々注目していたスケーターでした。彼が加入したことでライダーの幅が大きく広がったと感じています。GRAVISって結構ディランの印象が強いと思うんですが、バーサタイルというか、パンツが太めの人でもかっこよく履きこなせるんだよって見本にもなってくれたらと思っています。
V: かなりソリッドなチームだけど、それぞれのライダーの魅力は?
O: かなり魅力的なメンバーですよ。佐々木真那は手足の長さを十分に生かしてシンプルなトリックでも魅せられる、そしてどのスポットにも対応できるオールラウンダーですね。田中晶悟は見た目からは想像できないほどアブレッシブなライディングをします、どんなに大きいスポットでも迷わず突っ込んで行くのでチームのモチベーションを上げて引っ張っていってくれていますね。西宮ジョシュアはバネの高さが桁違い、モデルもやってるだけあって滑ってるだけで絵になります。GRAVISチームは実力はもちろんオシャレが軸にあって、そこからそれぞれスタイルが違って、幅も広い。こんなスキルフルでファッショナブルなシューズブランドのチームはないと思っています。
V: シューズはどんなモデルがリリースされるの?
O: まずはFilterというモデルが復活します。人気のあった定番モデルの復刻です。当時はアートとかディランとか名前がついたシグネチャーモデルもあったんですけど、まずはFilter。スリッポンも開発中ですけど、これはまたのタイミングでリリース予定です。今回はFilterの5色展開でのローンチになります。
V: どこで販売していく予定なの?
O: スニーカーショップやセレクトショップではなく、まずはプロショップに置いてもらいます。
V: ローンチに合わせて映像作品“BIJYU”が公開を控えているんだよね?
O: そうですね。クリエイターとしては、写真は井関(信雄)くんが撮ってくれていて、映像は武内将尚というCG編集やモーショングラフィックができる人。畑は違かったのですが、一緒にレベルを上げてきた感じです。最近は撮るのもかなり上手くなっています。ロケーションに関してはシティっぽいイメージを打ち出したいので都内をメインに動きました、ただ都内の撮影は厳しいので、夜中とか朝イチに撮ったり。撮れなさそうなのは地方に行ったりとか。北海道にも行きましたね。あとは単独でLAとか台湾に行ったフッテージも収録されています。
V: 元々海外でスタートしたブランドを日本で復活させるわけだけど、その反響はどんな感じだったの?
O: かなり反響がありましたね。やっぱり、あの時を知っている根強いファンがたくさんいるんだと感じました。あとは予想以上に海外からもかなり連絡が来ましたね。いつどこで販売するんだとか、何のモデルが販売されるんだとか。代理店やらせてくれっていう連絡も何ヵ国からも来ています(笑)。無理を言ってとりあえずワールドワイドシッピングの対応をしてもらうことになりました。
V: GRAVISに所属していたからこのブランドの魅力や価値を熟知していると思うけど、復活させるにあたってプレッシャーを感じることは?
O: あのGRAVISですよ、かなりあります。僕が一度勉強に集中したいと全てのスポンサーを辞めて引退宣言をした時があったのですが、GRAVISの方からはずっとサポートは続けたいというお話はもらっていました。僕はスケートに戻る気がなかったのと、そんな状態では申し訳ないのでお断りしたんです。その後いろんな事情があってブランドが消滅してしまった。世界のスケート業界に衝撃を与えたあんなにかっこいい、唯一無二のブランドがなんでという悲しい気持ちでいっぱいだったのを覚えています。そんなGRAVISの再建に携わらせてもらっているんです、凄くやりがいと責任を感じていますね。まずはみんなが抱いているGRAVISのブランドイメージをしっかりと踏襲したい、でもそのまま踏襲するだけじゃ面白くないし自分たちがやる意味がない。まずはしっかりと踏襲しつつ、僕らが生み出した新しいものを目指そうという方向で考えています。元々のGRAVISを知っているのは内部には僕しかいなくて、そこで意見の相違が出てくることもありました。たとえばJunziくんはきれいなハイファッションの方向性を提案してくれるんですけど、「まずはAnalogっぽいやつを作った方がいい」とか。ブランドイメージを踏襲する前に先へ行っちゃう感じがしたので、それを引き戻したり。このブランドの強さはコアなファンがいるところでもあると思うので。まずはそこをしっかりと巻き込んで次のステージに行きたいと思っています。
V: では新生GRAVISをどんなブランドにしていきたい?
O: スケートだけじゃなくハイファッションの部分も大事にしていきながら、日本である程度基盤を築いたら海外に持っていきたいと思っています。逆輸入ですね。昔チームマネージャーだったマーク・オブローとは連絡を取っているんですよ。「早めにそっちに持って行けるようにはするよ」みたいな話はしているんですけど、「元のGRAVISじゃなくなっていったらイヤだよ」って言われています。そこも悩ましいところですね(笑)。
V: ちなみにブランドロゴは4つのドットを踏襲しているけど、元のデザインと比べて少し縦長になっているんだよね?
O: そうですね。踏襲とその先という意味があります。再始動するのでまったく同じだとつまらないし、完全に違うデザインにするとイメージが変わっちゃうんで。ロゴの書体も元は丸みを帯びていたんですけど、もう少しシャープでスタイリッシュに、ソリッドにした感じです。
V: GRAVISのDNAを踏襲しながら進化させていくわけだね。では最後に今後の活動予定を。
O: まず4月21日(金)に渋谷のSPACE ODDでシューズのローンチと併せて“BIJYU”のプレミアをします。シューズは4月21日(金)午前0時に発売開始するのですが、ビデオの公開はもうしばらく後になります。なので、是非会場で映像は見て欲しいと思っています。今後は他のスケートシューズブランドがやっていないようなことをやります。もういろいろ仕込んでいるんですが、まぁ例えばハイファッションブランドとコラボ商品を出したり、周りから憧れられる人に履いてもらったり。今まで手の届かなかったところにアプローチして、実現させたい気持ちはあります。GRAVISなら実現できちゃうと思うんです。後は地に足をつけてスケートの活動を続けながら、ライダーたちにもミーティングに参加してもらったりしながら裏方の仕事を学んでもらおうと思っています。裏ミッションとして、現役が終わった後もセカンドキャリアとして仕事に繋げることができればいいですね。
Kenya Okuno
@kenyask8 / @gravis_skateboarding
1989年生まれ。東京都出身。新生GRAVISではライダーとチームマネージャーの二役を担当。チームには佐々木真那、田中晶悟、西宮ジョシュアが所属。デビュー作“BIJYU”も近日公開。