女性スケートシーンを牽引する中心人物のひとりであるリジー・アーマント。不屈のハートで時代を手繰り寄せ、掴んだ成功のバックストーリー。
──LIZZIE ARMANTO
[ JAPANESE / ENGLISH ]
Photos courtesy of Vans
Special thanks_Vans Japan
VHSMAG(以下V): まずスケートを始めたのは?
リジー・アーマント(以下L): スケートを始めたのは14歳で弟がスケートに興味を持ったのがきっかけ。それで母親が私たちを自宅から1.5キロほど離れたスケートパークに連れて行ってくれるようになって。それ以来、学校が終わると毎日のようにパークでスケート。アールが多いパークだったから、自然とトランジションを滑るようになった感じ。
V: 当時、憧れたり影響を受けたスケーターは?
L: ローカルパークはサンタモニカのThe Coveっていうんだけど、昔からいろんなスケーターが滑ってた。当時はパット・ノーホーとバーニー・オダウドと一緒に滑ってたのを覚えてる。スティーブ・オルソンが滑りに来たこともあった。今思えば他のパークよりはるかにレベルが高かったけど、当時はそれが普通だと思ってた。
V: 当時から女性のスケーターは多かったの?
L: ローカルパークではSMAのライダーだったメリッサって人がいたけど、一緒に滑るって感じではなかったかな。ただ見てた感じ。弟がケガをしてスケートをしなくなったこともあって近所の女の子と滑るようになったこともあった。弟は転んで歯が欠けちゃったんだよね。その後はアリーシャ・バーガードと一緒に滑るようになったんだけど、彼女がめちゃくちゃ上手くて。だからアリーシャからの影響は大きいと思う。今もヤバいし。
V: リジー的にイケてるスケーター像とは?
L: 何をやっても簡単そうに見えるスケーター。テクニック重視で難しいトリックができるスケーターもたくさんいるけど、フロウを大切にして何でも軽々とやってのけるタイプもいる。そういうタイプこそスタイルを極めたスケーターだと思う。とはいえいろんなやり方があるし、すべてはスケーター次第だけどね。
V: ちなみにクリス・ミラーが好きなんだよね?
L: そうね。あの人のトリックセレクションとスタイルが好きで。年をとってもヤバいし、今でも色褪せてないから。
V: 2018年には女性として初めてループをメイク。あのときはどんな感じだったの?
L: トニー・ホークから「ループをやりたいか」って聞かれたことがきっかけだったんだけど、正直やりたいかどうかわからなくて。かなり危険だし。だけどトニーに聞かれたら中途半端に答えることなんてできない。だから「ループを一度見てから考えてみる」って答えたんだけど…。するとVRの会社の企画でループを建てることになって。そしてそのイベントに呼ばれて前日の練習でとりあえず滑ってみたんだけど、何度トライしても感覚がつかめない。それで本番の日になって、観客を入れてカメラが設置されて。私以外にもループをトライするスケーターがたくさんいたんだけど、なかにはかなりびびってる人もいたりしてなかなか集中できなかった。結局、イベントでは誰か他の人がトライすることになったから、私はトランジションに設置された安全用のクッションを片付けるのを手伝ってとりあえず座って見てたの。
V: じゃあ、あれはイベントの後にメイクしたの?
L: そう。ループを解体する直前。とりあえず私もトライしたかった。トニーも「もしリジーがやりたいなら解体を待とう」って言ってくれて。それで何度もトライしたんだけど相変わらずうまくいかない。そしたらショーン・ヘイルが「パンピングするな」って。言葉通りパンピングをやめてトランジションに張り付いてたら、なんとか回りきれるような気がしてきた。そうなると現実味が帯びてきて恐怖心が襲ってくる。だってそこまできたら何が起きてもメイクするまでトライすることになるから。それでトライするうちにリズムが掴めてきた。そしてクッションが1枚ずつトランジションから取り外されていく。クッションをどけて1発目のトライでは頂点に到達する前に逃げちゃったんだよね。実はこれが一番危ないんだ。どうにか頂点でニースライドして向こう側のトランジションまで行けたから助かったけど。
V: ずっとひとりでトライしてたの?
L: Jawsも一緒。私がひとりでトライしなくていいように一緒に滑ってくれてた。ループのスタート地点にいるから、毎回トライする前に励ましてくれたんだよね。そして次のトライでループを抜けたんだけどなぜか最後で逃げちゃって。さらにはループを抜けてちょっとしてからコケたり。それでもみんなが走ってきて「できたじゃん!」って言ってくれるんだけど、完全なメイクじゃないからしっくり来ない。だから集中力が切れる前に急いでスタート地点へ戻って再トライ。そしたら前のめりで詰まっちゃって。次は重心が後ろすぎてすくわれて。毎回ループを抜けるんだけどメイクできない。そしてクッションをどけて5、6トライ目でようやく完全メイクして駐車場を走り抜けてた。ただ誰もちゃんとしたカメラで撮ってなかったんだよね。すべてiPhone。メイクした瞬間にトニーがスマホを放り投げて、みんなが一斉に暴徒みたいに駆け寄ってきて…。最高の1日だった。
V: 最高だね。ちなみにVansに加入したのは?
L: オーストラリアのボンダイビーチで開催されたBowl-A-Ramaのコンテストに行ったのがきっかけ。違うブランドのシューズを履いてたら、ジェフ・グロッソが「何履いてるんだ?」って言ってきて。このブランドはただでシューズを送ってくれるし、スケートシューズをずっと買い続けるお金もないって答えたら「あれ。もうすでにVansのライダーだと思ってた」って。たまにVansを履いてたからそう思ってたみたい。それで彼がVansに話をしてくれて正式にチームに入った感じかな。
V: 新しいシグネチャーコレクションが出たばかりだよね。
L: そう。新しいカラーウェイとアパレルコレクション。この春にキャンプペンドルトンをドライブしてたときの風景がインスピレーション。丘が一面きれいな緑でカラシナの花が咲いてて。その色が今回のコレクションに反映されてる。あまりたくさんの色を使いたくなかったっていうのもある。だから基本的に黒と白。色よりも質感を大切にしたかったからサイドストライプをクリアにして、チェカーをデボス加工にした。滑れば滑るほど汚れてデザインが浮き上がってくる仕組み。履き込んだほうがいい風合いが出てくる。そしてインソールには昔から好きだった心臓のイラスト。子供の頃によく辞書を見てたんだけど、イラストや図の独特のスタイルが好きだった。さらには漢字で「心」って書いてある。というのも、来年に延期になっちゃったけど今年は東京に行くはずだったから。
V: サイドパネルのチェッカーはプールのタイルにも似てるよね。
L: チェッカーを採用したのはVansのアイコンでクラシックだし気に入ってるからだけど、プールのタイルに似てるっていうのはわかる。プールで滑るのは好きだし。プールスケーティングはアートのようなものだと思う。滑れるプールを自分で探さないといけないし、実際にバックヤードプールで滑ればそれがわかる。スケートするために作られたものじゃないし、自分で滑れるプールを探すという行為も最高。しかもプールは難しい。普通のスケートパークでやるトリックの10倍難しいから。
V: Vansはずっといいコンテンツを発信してるよね。なかでもお気に入りは?
L: 最近だとLoveletter to SkateboardingのLGBTQのエピソードかな。
V: Lovelettersといえばジェフ・グロッソだけど、彼からのアドバイスで忘れられないものはある?
L: たしかにジェフからはたくさんアドバイスをもらった。私にとってジェフは何でも相談できる人だった。どんな悩みでも打ち明けることができた。何を相談しても、良くも悪くも何かしらのアドバイスをしてくれた。プロスケーターの経験が長いから、ひとつの決断がキャリアに大きな影響を及ぼすことも知ってた。だから何て言うのかな…私の理性の声というか、何か決断が必要なときはジェフのアドバイスを参考にすることが多かった。ジェフはいつでも助けてくれた。誰のためでも時間を割く人だったし、私にも時間を割いてくれた。あの人がやることはすべて本気。中途半端なことは絶対にしない。そこがかっこよかったかな。
V: ちなみに日本で好きなスケーターはいる?
L: 日本人スケーターだと手塚まみが仲良いね。彼女は最高のスケーターだと思う。
V: 日本には何度か来たことがあるよね。今年も来日する予定だったけど日本でやりたいことは?
L: 日本は何度でも行きたい場所。食事も美味しいし植物園も最高だった。街の構造もおもしろい。日本は本当に他とは違う特殊な国だと思う。文化もおもしろいし。いろんな伝統があるのも素晴らしいし美しい場所だと思う。
V: シグネチャーコレクションをリリースしたばかりだけど、この先の予定は?
L: 今はゆっくり家で過ごすようにしてるかな。また旅ができるようになる日が待ち遠しいね。今年はいろいろ大変なことが多いから、自分の恵まれた環境に感謝することが多くなった。スケートがあるのも最高だと思う。昼にスケートして気持ちを整えることができるし、スケートコミュニティもサポートしてくれてる。もう感謝しかないよね。
Lizzie Armanto
@lizziearmanto
1993年生まれ、カリフォルニア州サンタモニカ出身。しなやかなスケートスタイルと玄人好みのトリックセレクションで人気を集めるトランジションスケーター。Vans Park Seriesをはじめとするコンテストでも活躍中。