スケートコミュニティを裏側で長年支えてきたマイク・シンクレア。コロナ禍の暇つぶしで始めたプロジェクトSLAPPY TRUCKSの全貌が明らかに。
──MIKE SINCLAIR / マイク・シンクレア
[ JAPANESE / ENGLISH ]
Photos courtesy of Slappy Trucks
Special thanks_Advance Marketing
VHSMAG(以下V): まず簡単な経歴からお願いします。
マイク・シンクレア(以下M): スケートを始めたのは'86年か'87年頃。スケートインダストリーの最初の仕事はノースカロライナに今もあるEndless Grindのショップスタッフだった。その後、膝を故障してしまったんだ。それからスケート業界で働き始めた。現在はToy Machine、Foundation、Pig、Nike SBで働き、X Gamesの仕事もしている。Real Streetシリーズもオレが考案した。そしてコロナ禍でSlappyというトラックブランドを始めたんだ。どの仕事もできなくて退屈だったからトラックをいじり始めたんだよ。
V: Slappyという名前については?
M: スケートで馴染みのある名前だし、簡単で覚えやすく楽しさも表現したかった。そうやってオレの中ですべてが結びついたんだ。
V: 市場には確立されたトラックブランドがあるよね? Slappyを始めようと思ったときはどんな心境だったの? 不安はなかった?
M: いや、ただ自分の好きなトラックを作りたかったから。他のトラックはこれまで何年も乗ってきた。そのようなトラックと共通点がありながら、しっかりターンして、グラインドできて、キングピンのクリアランスもあるものを作りたかった。トラックはとても個人的なものだから、一度試してみればそれが好きかどうかがわかる。みんな好みが違う。乗ってみて、自分に合うと感じたらそのトラックの虜になるんだ。オレもずっとそうやってトラックを選んできたから。
V: 周りの反応はどうだったの? コロナ禍ということで景気は悪いし、新しいブランドを立ち上げるのに最適な時期だったとは言えないと思うけど。
M: 一番多かったのは「トラックブランドを始めるのか? 狂ってるな」って反応。笑われる感じだよね。自分でも信じられなかったから。でもオレがSlappyを始めたのは、別に主張するためでも他のトラックを蹴散らすためでもなかった。ただ「ちょっとやってみよう、どうなるか見てみよう」という感じだったんだ。ずっと秘密にしていたんだけど、仲間がサンプルに乗ったときに「おっ、しっかりターンする。ヤバい!」って言ってくれたんだ。それがちょっとした後押しになってくれた。彼らの純粋な反応を見て自信がついたんだ。
V: 仲普段から仲間と滑っているのに、Slappyを作っているのをどうやって秘密にしていたの?
M: 基本的にコロナ禍は地元の東海岸で過ごしていたから。周りにたくさん仲間がいるわけじゃなかったから自由にサンプルをテストできていた。でもカリフォルニアに戻ってきてからは、みんなと会うことが多いからセットアップを何台か持っていた。スケートスポットでテストライドしているときに誰かが車で現れたら、グリップテープ側だけが見えるように自分のデッキを持って、車に戻って、水を一気飲みして、Slappyがついていない他のセットアップを取ってくる。シークレットスタイルだよ。だから誰にもバレなかった。クリスマスプレゼントや結婚祝いを隠すようなもの。「時が来るまで隠し通すためにベストを尽くす」みたいな感じだった。
V: 自分の好みのトラックにするまでかなり試行錯誤したと思うけど、完成するまでどれくらいかかったの?
M: おそらく2年くらいかな。ほとんどのことは工場とやりとりしながら進めた。寸法とか主要な素材とかを送ってくれたんだ。オレはそれを手にして感触を確かめる感じ。トラックに関する方程式とか数字の解析とかはまったくわからないからね。最初の頃はみんなから「トラックの高さは?」って聞かれたよ。でも自分の好きなようにトラックを作っただけだから数字なんて気にしていなかった。でも「待てよ、実際の高さはどうなってるんだ?」って思い始めたんだ。そこからすべての数字を学んだんだ。オレはずっと同じトラックを使ってきたから気にしていなかったけど、周りがそんなに細かい数字を気にしていたことに驚いたよ。高さなんて気にしたことがなかった。しっくり来るものを使っていただけ。まずしっくり来るサンプルを作ってから計測したんだ。いろんなブランドのトラックを用意して、ライザーパッドを付けたり外したりしながらテストしていった。違うトラックのセットアップを何台も用意した。たとえばThunderにライザーパッドを付けたとする。そうするとトラックの動きそのものが変わるんだ。マジでビックリするくらい。そんな感じで沼にハマっていったね。
V: どれくらい沼にハマったの?
M: オレは8.1のデッキに乗っているんだ。だから、まったく同じ8.1のデッキを15本用意した。そして普段から使っている52mmのウィール、Bone Swissのベアリング、Mob Gripをすべてのデッキに装着した。トラック以外はまったく同じだから違いが完璧にわかる。さらにトラックに関して言うと、ウィールの内側にワッシャーを3枚入れて少し余裕を持たせる。そしてアクスルが飛び出さないようにナットをちょうどの位置まで締める。そんな感じでまったく同じセットアップに違うトラックを装着していった。これがトラックを正しく読み取るための最善の方法だと思う。あとはキングピンの締め具合を全部同じくらいに合わせるだけ。
V: 実験中に一番大変だったことは?
M: 一番大変だったのはブッシュ。しっくり来るものを作るのはマジで難しい。シューズと同じで馴染むまで時間がかかることもあるから。オレが求めるブッシュは装着してすぐに馴染むもの。そしてオレのトラックに最適のプッシュを実現することができた。これは誇りに思っている。でもさっきも言ったように、みんな好みが違うから。低いトラックが好きな人もいる。それが次の課題だね。
V: トラックに求めることは?
M: 重要なのは機能するかどうか。そしてオレにとって一番重要なことはしっかりターンするか。次に重要なのはグラインドの具合。グライドするときに重いか軽いか。音はどうか。それを自分の好みに落とし込んだ。それから、これまで試したどのトラックでもいつも気になっていたのが、キングピンの引っかかり。スラッピーでスミスグラインドやハリケーン、フロントフィーブルをするとき、キングピンが縁石やレールに引っかかる感覚はスケーターなら誰でも知っている。最悪だよ。だから摩擦や引っかかりを減らして、ルックスが変にならないように気にしながらキングピンのクリアランスを最大にすることにした。
V: 現在はSidewalk Distributionを通して世界中に流通させているんだよね。
M: 最初は自宅ガレージで完全にひとりでやっていたけどね。今、自宅に置いてあるのは、地元の販売担当者が取りに来るためのちょっとした在庫と、チームに送ったり、試してみたい仲間に送ったりするためのものだけ。そして在庫の98%がSidewalkにある。Sidewalkはスティーブ・ダグラスとボド・ボイルという業界のレジェンドが経営しているから最高だよ。計画してそうなったわけじゃなく偶然実現した感じ。
V: チームには誰がいるの?
M: チームは小規模。新進気鋭という感じ。そうやって始めて、話題にしてもらいながらみんなを巻き込みたかったんだ。主にやっているのはインスタグラム。タイムラインの投稿が正式のライダーだね。マット・ベネットはオレの親友で初期のライダー。ベネットグラインドという自分のシグネチャートリックを持っている。キングピンが低いから「おい、ベネットグラインドを今までよりディップできるぞ!」って感じで(笑)。気に入ってくれたよ。Toy Machineのジョージア・マーティンもライダー。バルセロナにはタニア・クルスもいる。でもX Gamesで優勝したアリサ・トリューは、ちょっと前に見かけて「Slappyに乗ってもらいたい!」って思ってトラックを渡したんだ。彼女はバーチカルとパークで優勝したわけだけど、観戦しながら「マジで頼むからアクスルナットが外れたりしないでくれ!」ってヒヤヒヤしていた(笑)。オレの長年の仕事は新進気鋭の才能を発掘し、次のレベルに引き上げることだった。だからSlappyでもそれを続けたいと思ったんだ。誰かを他のチームから引き抜いたりはしたくない。自然な感じがベスト。背伸びして自分を大きく見せようとも思っていない。今の状態でいられること自体が幸運。ボドとスティーブが支えてくれているなんて最高だよ。だから焦らずゆっくりやっているよ。ただオレはSlappyを信じているから成功することを願っている。もし他の人たちもSlappyを信じてくれるならさらに大きな意味がある。そうだろ?
V: そうだね。そういえばJenkemのインタビューで「このブランドは絶対に潰れない。資金がなくなったら一時休止するだけ」って言っていたよね。
M: そう。いい機会だからその言葉をアップデートしよう。「オレが別の仕事をしている限り、このブランドが潰れることはない(笑)」。マジでいい感じだよ。想像以上に上手くいっている。他の大手トラックブランドとSlappyを並べてくれる人がいるなんて…。この気持ちは言葉にできないよ。オレはただ他とは違うものを作れるようになりたいんだ。それが好きなんだ。サンプルが届くのも最高の感覚だし。いじくり回すのが好きなんだ。だから楽しい。
V: 現時点でSlappyには何モデルあるの?
M: 4モデルあるけどベースはすべて同じ。ST1 Classicは通常のキングピン。次にST1 Hollowがあって、これはClassicと同じだけどアクスルとキングピンが中空になっている。そしてインヴァーテッドキングピンのモデル。さらにインヴァーテッドキングピンでアクスルが中空のものもある。つまり同じトラック、同じサイズで、キングピンのオプションと重量が異なるって感じ。
V: ひとつ気づいたのは、トラックのサイズ表記がデッキの幅と同じだということ。デッキの幅が8.5なら、トラックのサイズも8.5。そんな測り方をしているトラックは今までなかったよね。
M: 長い間ショップで働いていたけど、トラックのサイズは5.0とか139とかずっとそんな感じだった。オレはただ滑りたいだけなんだよね。算数がしたいわけじゃない。だから単純にありのままを表現したかったんだ。ウィールのサイズ以外、ミリ単位で話をしてくる人なんて知らないし(笑)。デザインもクラシックにしたい。サイズ表記もわかりやすくしたかった。名前も覚えてもらえるようなものにしたかった。そしてトラックは「グラインドでハングアップしない」というようにシンプルに機能してほしい。オレにとってはそれがシンプルなことなんだ。
V: 自分がしっくり来るトラックを作って、海外のスケーターも使っているわけだよね。今の心境は?
M: ヤバすぎて現実味がないね。今ではAdvance Marketingを通して日本でも売られている。最初に実感したのは見知らぬスケーターが乗っているのを見たときだったと思う。そしてもうひとつはクールなショップにトラックが置いてあったとき。そこに置いてあるだけで光栄だったよ。
V: ではSlappyの次のムーブは?
M: 最近クリスチャン・ホールのビデオパートをリリースしたばかり。もうすぐLowのサンプルを取り寄せて、いろんなキングピンに取り組むつもり。あとは色とか細かいところ。さらに試行錯誤してみるよ。
Mike Sinclair
@slappytrucks
ノースカロライナ出身LA在住。Blockheadのライダーを経てスケートインダストリーに従事。Tum Yeto系列ブランドやNike SBのチームマネージャーを兼任しながらSlappy Trucksを運営中。