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スケートボードとカメラを手に世界の僻地へ。今回向かった先はキューバ
──PATRIK WALLNER

2014.04.30
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世界の僻地ともいえる国々をスケートボードとカメラを手に訪れるプロジェクトVisualtravelingを主宰する映像作家、パトリック・ウォールナー。過去にアジアや中東の国々でスケートを記録し続けてきたパトリックが今回向かった先はキューバ。Red Bullの協力のもと完成したツアービデオ『Cuban Fidelity』について話を訊いてみた。
[JAPANESE / ENGLISH]

Interview by VHSMAG Photo by Tobias Ulbrich
 

VHSMAG(以下V): 今回の『Cuban Fidelity』はどのように実現したの?

パトリック・ウォールナー(以下P): これまではVisualtravelingのプロジェクトで旧ソ連の国々や共産主義国家でスケートを記録してきたけど、今回は趣向を変えてキューバに足を運ぶことにした。マイケル・マクロッドが以前キューバでスケートをしたことがあって、そのときにメイクできなかったラインを撮影したいと言い出したのがすべてのきっかけだった。Red Bullの協力を得て、ウォーカー・ライアンも連れて美しいカリブ海の島の街々を舞台に作品を制作することにしたんだ。

V: 『Cuban Fidelity』というタイトルの由来は?

P: 語呂合わせをして遊んでいるうちにタイトルが決まったんだ。“Fidelity”という言葉は“忠誠”や“忠実”という意味。’50年代にキューバ革命を指導したフィデル・カストロは今でもキューバの重要人物で、“フィデル”という名前の響きが“Fidelity”に似ていたことで『Cuban Fidelity』に落ち着いた感じだね。

V: これまでは、主にアジア諸国や中東を旅していた印象が強いけど、今回のツアーの舞台をキューバにした理由は?

P: ユーラシア大陸の国々をすべて制覇するのがVisualtravelingの目標ではあるけど、たまには息抜きという意味でも場所を変えてみようと思ったんだ。ユーラシア大陸以外の国を訪れて好奇心を改めて刺激したかった。さらに言うと、現在のキューバは資本主義化に向かっている。だから、ラウル・カストロ(※フィデルの実弟)の自由化政策によってキューバが現在の形を失ってしまう前に、なるべく早く行ってみたいと思ったんだ。

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V: キューバで何か事件は起きなかったの?

P: キューバに行けたこと自体が事件だよ。キューバにいると、タイムマシンで’60年代の世界に迷い込んだような錯覚に陥ってしまう。クラシックカーがまだ走っているし、街は企業広告の代わりにチェ・ゲバラ、カミロ・シエンフェゴス(※キューバの革命家)や政治指導者を称えるプロパガンダであふれている。危険な目に遭わないように忠告されていたけど、結局、ストリートでの経験値が高い面子で旅をしていると事件に巻き込まれないものなんだよ。撮影機材の盗難が一番の心配だったけど、荷物を見てくれる人を雇ったから大丈夫だった。ただ、キューバにはATMがないから、つねに現金すべてを持ち歩かなければならなかった。強盗に遭おうものならすべて終わってしまう。

V: ツアーに出るときは、現地の人に連絡して情報収集をする? それとも行き当たりばったり?

P: 今回はまったく現地人の協力はなかった。未知の世界に飛び込んで、何も起こらないことを祈るだけ。機材の盗難に備えて念のために保険には加入したけどね。国によって法律やルールは違うけど、現地の人とのコミュニケーションを通して注意すべきことを学ぶのが大切。犯罪率が高い国は確かに怖いけど、ポーカーフェイスを保って、さっきも言ったようにストリートでの経験値が高い仲間と一緒にいれば大丈夫だ。

V: スケートとカメラを手に世界を旅する魅力とは?

P: つねに4つのウィールで移動できることかな。歩くのより楽しいからね(笑)。それにカメラがあれば、旅先で出会う珍事件を記録して、あとで楽しむことができる。

V: 旅先では感動的な場面に出会うことがあると思うけど、今回のキューバはどうだったの?

P: 大袈裟ではなく、医者の給料が月2千円という国家に行って現地の人と話ができたことが感動的だった。キューバの人たちは2011年まで出国を制限されていた。それを考えると、オレたちは幸運だとつくづく思う。オレたちは自由に旅ができるんだからね。現在のキューバは、ラウル・カストロの自由化政策によって政府に金を払いさえすれば出国できるようになり、プライベートビジネスを設立したり自動車の自由な売買をしたりできるようになった。キューバでは1959年の革命で共産党政権が誕生して以来、たった3年前までこれらのことがすべて違法だったんだ。こんな話を現地の人から聞けたのは鳥肌ものだよ。これを読んでいる日本のスケーターたちは、日本に生まれたことに感謝するべきだ。民主的で、ある程度の言論の自由があり、国民の大多数が中流階級で、いつでもおいしい日本料理を楽しむことができる。これは、本当に幸運なことなんだよ。キューバの食事はマジで最悪だった。アメリカから経済制裁を受けてきたキューバは物資が不足しているんだ。キューバに行くなら、おいしい食事は期待しないように。食事のせいで予定よりも早く帰国したほどだからね。

V: では、スケートツアーを題材にした作品を通して伝えたいことは?

P: スケートを知らない国で、スケートを楽しむという喜びが伝わればと思うよ。ただそれだけだね。

V: 最後に、今後の予定は?

P: 今年の秋にヨーロッパとマダガスカルでいろんなプロジェクトを敢行する予定。日本のみんな、お楽しみに。VHSMAG、SLIDER、FTC、そして日本の仲間、いつもありがとう。今後もさらに日本のスケートシーンと絡むことができればうれしいよ。

 

Patrik Walnner

ドイツ・テュービンゲン出身。上海/バンコク在住。アフガニスタンや北朝鮮など、スケートには極めて珍しい国々を訪れスケートトリップを記録する映像作家。代表作は『10,000 Kilometers』、『Mandalay Express』、『Meet the Stans』、『Kansai Banzai』、『The Taipei Ducks Tour』など。
@patrik_wallner

 

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