4年の制作期間を経て完成した『TIMESCAN 2』がオンライン解禁。スケートボードの競技の側面に注目が集まるなか、ディレクターのロブ太郎の声を聞く。
──ROB TARO / TIMESCAN 2
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Photos courtesy of TIMESCAN
VHSMAG(以下V): 新作『TIMESCAN 2』の完成おめでとう。オンラインで解禁したことで世界中のスケーターが観ることができるようになった。今の気持ちは?
ロブ太郎 (以下R): ありがとう! 『TIMESCAN 2』は終わりのない旅のようだった。4年間の撮影、仲間と一緒に全国を旅したこと、神戸、東京、日本中のスケートショップ、クロアチアのウラジミール映画祭、ニューヨーク、そして地元のニュージャージーでの試写会が今となってはすべて過去のことになってしまったのが不思議な気分だね。
V: 人生の4年間をこの作品に捧げたわけだけど、この新作に込めた思いは?
R: 主な思いは、才能ある仲間たちをもっと世界中に認知させて、このようなネガティブな世界でポジティブなものを発信すること。
V: 『TIMESCAN 2』と4年前に制作した初フルレングスとの違いは? ロブ太郎自身と作品は進化したと思う?
R: 最初のフルレングスに比べて日本での生活経験が増えたことで人脈が広がり、今では日本の文化をより深く理解できるようになったと思う。
V: 4年間で多くのことが変わったよね。パンデミックもあったしオリンピックもあった。オリンピックがロブ太郎の活動に及ぼした影響は?
R: かつてスケートボードは僕にとって社会のプレッシャーから逃れるための場所だった。それがオリンピックの正式競技になって以来、視覚的にどう見えるか、どう感じるかではなく、コンテストのスコアに基づいてトリックを学ぶ人も増えた。そしてストリートは厳しくなる一方。自由のないスケートボードって何なんだろう? もう自分の居場所なんてないんじゃないかとさえ思うようになった。これらのことが、ポジティブなものを作り、かつて僕が崇めていたスケートボードの純粋な側面にもっと命を与えようというモチベーションに繋がった。『TIMESCAN 2』はそもそもなぜ僕がスケートボードを始めたのかを思い出させてくれた。この作品を通してスケートボードの素晴らしさを再認識してもらい、スケートボードに対する世間の目をポジティブなものに変えていくことができればと思っている。
V: 本作に登場するスケーターについて教えて。
R: それぞれのスケーターにストーリーがあるんだ。みんなスキルがあるだけでなく、一緒にいてとても楽しい。それぞれのスケーターについて語りたいのは山々だけど、全員について語るにはここではスペースが足りない。本作に登場するスケーターはスケートボードに対する考え方が同じだから自然に結びついた。僕はただのフィルムメーカーじゃない。撮影するだけでなくみんなと一緒に滑りに行く。みんな僕を信頼してくれたし、僕もみんなを信頼していた。何年も付き合ってくれたノブチカ・リョウ、本郷真輝、瀬尻 稜、玉城和明、本郷真太郎、宮城 豪には本当に感謝している。大好きなスケーターたちからの信頼と献身的な協力を得て、ひとつのプロジェクトで一緒に仕事ができたことはインディーズのフィルムメーカーとして間違いなく名誉なことだと思う。本当に感謝している。仲間たちのサポートがなければ完成させることはできなかっただろう。この作品に登場するスケーターはみんなもっと評価されるべき存在なんだ。
V: 宮城 豪のパートは特別だよね。どうやって新しいパートを撮るように説得したの? 彼との撮影はどうだった?
R: 僕がずっと日本にいる理由は、豪がスケートシーンに残したインパクトと関係があるんだ。彼が10年近くビデオパートを撮っていないのは偶然ではない。彼という人間を理解するために、僕は丸2年間一緒に撮影をした。なぜ彼は仕事をする相手を慎重に選ぶのか。数年前に彼と連絡を取れたのは奇跡だった。連絡を取り合った当初は1年ほど早朝に彼の地元のスケートパークを訪ね続けた。撮影せず、ただ話した。いろんな質問をしてくるんだけど、そのときはどう答えていいかわからなかった。ただ彼を撮影したいと思ったんだ。僕だけでなく、世界中のみんなが宮城 豪の新たなパートを待ち望んでいることを納得させるのに1年かかったよ。豪はスケートボードで一番楽しいのは想像することだと言っていた。そして難しいのは彼の素晴らしいアイデアを実現させることだった。撮影しながらふたりで試行錯誤していたよ。彼はとてもタフだ。今まで会った人の中で一番厳しい。長時間の夜勤の前に何時間かかっても、何度も何度も撮り直したがるんだ。そしてクレイジーなのは、何度も撮り直す度に毎回レベルアップすること。毎回良くなっていくのは本当にすごいと思う。スポットのほとんどは彼がよく滑っている青い公園(深北緑地公園)で撮影された。その公園には管理人ですら何のために作られたのかわからないような奇妙なレールがたくさんある。そのレールがやがて豪のスポットになるんだ。彼は自分が滑るスポットへのダメージを最小限に抑えるための天才的な方法を考える。世間的にスケーターは邪魔者扱いされるけど、彼は毎回セッションが終わるとスケーターではない歩行者がポイ捨てしたゴミを拾い集め、スポンジと水を使ってレールを到着前よりもキレイに掃除するんだ。池の真ん中にあるレールも。豪のレールの上を歩く/バランスを取る能力は、公園の管理人でさえ気にしないようなレールをきれいにするのに役立っている。
※宮城 豪のThrasherインタビュー(www.thrashermagazine.com/meeting-mr-miyagi-gou-s-return-to-the-spotlight/)
V: 制作中に起きた印象的な出来事は?
R: 『TIMESCAN 2』を初めてアナウンスした頃にクロアチアから驚きのメールが届いたんだ。ニコラという人からだった。彼はウラジミール映画祭という大規模なスケート映画祭の創設者のひとり。彼は僕の作品を最初からずっとチェックしていて、新作を上映するだけでなく僕自身も来てほしいと丁寧で心のこもった長文メールを送ってくれたんだ。夢のようなチャンスだった。他の国に招待されたことなんてなかったし、ヨーロッパに行ったこともなかった。お金もあまりなかったけど、彼らの援助で行くことができたんだ。
小さなビーチビレッジにヨーロッパ各地や世界各地からスケーターが集まっていた。日中は自由行動。ビーチに行ったり、DIYパークでスケートをしたり、プーラの街に出てストリートスケートをしたり。それから毎晩、いろいろな場所で試写会が行われた。ある晩は桟橋の前の古い教会の前で、次の日は丘の上にある廃墟の砦で、それから街の劇場で、そして最後には僕らスケーター全員がフェリーに乗って、ゴルフカートを借りてダチョウやロバ、シマウマやゾウがのんびりと生活しているサファリアイランドへ。岩の上には本物の恐竜の足跡まであった。その島には巨大な野外劇場があり、ニコラは映画祭のオープニング作品として『TIMESCAN 2』を上映してくれた。ニコラ、マリーナ、そして関係者のみんな、本当にありがとう。文字通り僕の人生を変える経験だった。
V: 使用された曲のほとんどが日本の曲だったね。編集で気をつけたことは?
R: いつもスケーターやモンタージュに合った曲を選ぶようにしている。日本にはかっこいい曲がたくさんある。ほとんどが旅先で知った曲だから懐かしくなるね。
V: フルレングスに取り組むには完全にコミットしなければならないよね。「もうダメだ!」って心が折れそうになったことは? 4年間諦めずに続けられた理由は?
R: もちろん途中で「なぜ自分はこんな目に遭ってるんだろう」って自問自答したことは何度もあったよ。短い人生で長期的に何かに取り組むモチベーションを保つのはとても難しかった。すでに多くの時間とエネルギーを注ぎ込んでいたし、みんなを裏切ることなんてできなかった。かなりのプレッシャーだったけどね…。でもこの作品が特別なものになることは心の奥底でわかっていたから。
V: ビデオパートやフルレングスの重要性とは?
R: まず第一に、スケーターなら全員ビデオパートに取り組むべき。フルレングスがないスケートシーンも想像できない。そういうものがないと楽しみがない気がする。楽しみがないとモチベーションも上がらない。インスタグラムクリップやクレイジーなパートが毎日のようにオンラインにアップされる今は、みんなコンテンツを出さなければと焦っている。そんなペースで映像を出し続けるのは物理的に不可能だ。観る側としてもすべてをチェックするのは不可能。息つく暇もない。作品はすぐに忘れ去られ、新しいコンテンツに埋もれてしまうとよく言われる。でも自分が本当に大切に思っている作品やプロジェクトに時間とエネルギーを費やせば、こんなデジタル時代であっても突出した作品にすることはできると信じている。ずっと忘れられないような作品になる可能性はあるし、もしかしたら誰かの人生を変えることができるかもしれない。それは映像作品に限らず、どんなことでも同じだと思う。
V: スケートボードは今さまざまな方向に向かっているよね。ロブ太郎が信じるスケートボードとは?
R: 単に好きでスケートボードをしているのなら、それがすべてだと思う。
V: メインストリームのメディアは競技の側面に焦点を当てて、ストリートスケートを「迷惑なもの」として報じることが多い。最近の状況をどう見ている?
R: この作品ではスケートボードのネガティブな側面を見せたくなかった。仲間や通行人とのポジティブな交流を描きたかった。僕ら全員が迷惑な存在ではないことをみんなに伝えたかった。宮城 豪のようにゴミを拾って公園の管理人が気にしないようなレールを掃除するスケーターもいる。豪は本当に絶妙なタイミングで僕と組んで今回のパートを発信したと思った。今の世界は豪から何かを学べると思う。
V: ロブ太郎は数年前に日本に移住してスケートすることを決めたよね。日本のスケートシーンのどこに惹かれたの? その魅力は今も健在だと思う?
R: 日本に来る前の10代の頃はよく日本のスケートビデオを観ていた。日本のスケーターのスポットの見方がユニークだっただけでなく、レンズの向こうにいる日本のフィルマーの視点も斬新だった。トリックだけでなく、細かなディテールへのこだわりはまるでアートのようだった。もっと知りたいと思った。それが9年前、僕が日本に来たきっかけだった。その魅力はまだ健在なのか? これは本当に興味深い質問だと思う。ストリートが厳しくなった上にコンテストやファッションで溢れかえった今の時代だったら、果たして日本に来たいと思ったかはわからないね。
V: 「『TIMESCAN 2』はただのスケートビデオではない。それ以上のものだ」とロブ太郎は言っていたよね。トリック以外に記録したかったものは?
R: 僕はただひとりでも多くの人に、そして日本人にも、日本にはクールなものがあることを知ってもらいたいんだ。日本のスケートはまだまだミステリアス。それを知るには自分の目で見るしかない。僕にできることはそれを映像に収め、みんなと共有することだけだ。
V: では最後にメッセージを。
R: 各地で試写会を開催して思うことは、『TIMESCAN 2』を通してたくさんの人を幸せにすることができたということ。全15回の試写会でみんなが大きな歓声をあげていたのを覚えている。48分を通してみんなが笑顔だったこと。東京と神戸での試写会の後にみんなと握手したこと。ウラジミール映画祭ではサファリ島からの帰りのフェリーでみんながハグしてくれたり僕の名前を何度も叫んでくれたりしたことが忘れられない。豪はまたビデオパートに取り組む機会が来るとは想像もしていなかったと言っていた。一緒に壁を乗り越えて、永遠に振り返ることのできる、やってよかったと思えるものを作ることができて本当にうれしい。豪の喜びも想像すらできない。特に彼のミステリアスな人生で経験したすべてのことの後では。彼は10年ぶりにビデオパートを完成させ、45歳にして生まれて初めてThrasherで4ページの特集が組まれた。これらの貴重な瞬間はすべて僕の心の奥深くに刻まれている。すべてこのプロジェクトに取り組んでよかったと実感させてくれる瞬間だ。スケートボードの世界に関われたことに感謝している。僕は周りの人にも恵まれている。みんな本当にありがとう!
Rob Taro / TIMESCAN
@timescan | @rob.taro
9年前に日本に移り、フィルマーとしてのキャリアをスタート。TIMESCAN名義のフルレングス作品の他にLONG DISTANCEと題したドキュメンタリー作品も手掛ける。
www.timescan.store