とあるスポットを求めてCLOSERの企画で来日したトム・Kことトム・カランゲロフ。ユニークなスケーティングで知られるいぶし銀の頭の中を少しだけ突いてみた。
──TOM KARANGELOV / トム・カランゲロフ
[ JAPANESE / ENGLISH ]
Photo_Rob Taro
Special thanks_Kento Takahashi
VHSMAG(以下V): まず東京に来た目的は?
トム・カランゲロフ(以下T): まずジャパンツアーを企画して、ある人物に連絡してあるスポットを教えてもらったんだ。5,000マイル離れた日本のスポットを訪れるという企画をCLOSERのジェイミー・オーウェンズに提案した。そして今日、高橋賢人とロブ太郎の助けを借りてそのスポットに行くことができた。日本に来るまでの3ヵ月間、画質の悪いスポットの写真とずっとにらめっこしていたんだ。かなりタイトなスポットだったけど、どうにか狙ったトリックをメイクすることができた。ジェイミーと正式に仕事をするのが初めてだったからいい機会だった。
V: ちなみにこの後大阪に行って、宮城 豪に会おうとしているでしょう?
T: そう、その予定。実はスポットを教えてくれたのは宮城 豪なんだ。ガキの頃から彼のスケートを観てきたから、かれこれ15〜20年くらい影響を受けていることになる。そしてロブ太郎の存在をオンラインのインタビューとかで知って連絡を取ったんだ。FOSにも連絡を取ったし、賢人ともちょっとした付き合いがある。そういう繋がりでこの小さなアイデアが実現したんだ。とりあえず宮城 豪に会いたいと思っているけど、実現しないかもね。彼はオレに何の借りもないし。ただオレが彼のファンなだけだから。
V: ではトムのキャリアについて少し。Zeroの『Cold War』が初のビデオ?
T: 昔Slapという雑誌があって、そのメディアのコンテストに自分の映像を出品したんだ。それを通じてマーク・ホワイトリーやジェイミー・トーマスに出会って、スケートに真剣に取り組みたいなら、とにかく撮影を続けろと言われた。だからそうだね、厳密にはZeroのビデオになるね。4年間撮影したビデオだから、ずいぶん昔のことのように感じるよ。
V: 3Dに関しては? 一瞬だけ3Dがあったよね。
T: そう。3Dに移籍するためにZeroを辞めたんだけど…。ツアーで中国にいるときにブライアン・アンダーソンから3Dを畳むって連絡が来たんだ。旅先で目が覚めたらボードスポンサーがなくなった感じ。あれはクレイジーだった。そして3DとSkate Mentalが同じ傘下のブランドだったから、自然の流れでSkate Mentalに入ったんだ。
V: WKNDに参加した経緯は?
T: 2019年のNew Balance Numericの『String Theory』の撮影中にジョーダン・テイラーとよく一緒に動いていたのがきっかけ。彼はWKNDのライダーで、当時はグラント・ヤンスラやジョーダン、そしてアレックス・シュミットと一緒にいることが多かった。これも本当に自然の流れ。スケートキャリアの中で最も自然に起こった出来事のひとつだと思う。
V: WKNDといえば寸劇が面白いよね。『アメリカン・サイコ』をパロってパトリック・ベイトマンを演じたこともあったよね。
T: パトリック・ベイトマンのように振る舞って話すために、あの映画を何度も観たよ。オレは役者じゃないけど、グラントは才能を引き出すのが本当にうまいしいろいろ指示してくれる。かなり緊張したけど、今はだいぶ楽になったかな。
V: 一番好きなWKNDのスキットは?
T: 『グッドフェローズ』の真似をしたスキットかな。みんなマフィアを演じていてかなり面白い。ジョーダンはかなりいい役者だよ。普段から面白いヤツだけど、この作品では特に何度も笑わせてくれた。
V: そういえば、ThrasherでCutting Cornersというビデオシリーズをジョーダンと担当していたよね。あのシリーズはどうなったの?
T: そろそろ再開しようと思っているんだけど、ジョーダンは怪我でスケートできないんだ。だから今後はスパンキーと組む予定。もうすぐ撮影を再開する。使いたいクールなゲストも何人かいるし。あんな企画を形にできてうれしいよ。楽しくてすぐに完成するから。ビデオパートの撮影は大きなプレッシャーと時間がかかるけど、こういう短い企画があるからスケートがずっと楽しいと感じられる。
V: あのシリーズを見る限り、トムは自分だけのスポットを見つけているよね。アイコニックなスポットを狙ったりはしないというか。
T: オレにはアイコニックなスポットでできるようなことがないような気がするから。オレのスタイルはそこでは通用しないんだ。有名なハンドレールやハバだけを攻めるスケーターは昔から好きじゃないし。変なスポットを探すようなスケーターが好きなんだ。宝探しみたいな感じかな。トリックが決まったときのような高揚感に近い。 スポットを見つけたときにそんな感覚を味わうんだ。だから「おっ、いいスポットを見つけた!」ってブチ上がって「おっ、いいトリックが撮れた!」って感じで高揚感を2度味わうことができる。
V: でもカリフォルニアはスケーターが多いから、新しいスポットを見つけるのは難しそうだね。
T: まあね。難しいけど幸い今はスケート以外の仕事をしなくていいから。だからスポットシークに時間を費やせる。もし東京に住んでいたら、すべての路地と道を隈なく探すと思う。
V: そういうスケーティングは観ていて面白いよね。ちなみにNew Balance Numericで何か予定はないの?
T: Museumとのカラーウェイの予定があるね。
V: いいね。知らない人のために、Museumとは何?
T: Museumはオレとマット・バブリッツのプロジェクト。ガキの頃から親友で一緒にスケートをしたりビデオを作ったりしてきたんだ。そしてパンデミックのときにふたりで何かを始められたらクールだろうって思って。アパレルブランドではないけど、そういう方向性に進んでいる感じ。そしてシャツや帽子、フーディとかを作り始めたんだ。それからThunderからもコラボを頼まれた。プロモビデオは公衆電話がコンセプトで楽しい撮影だったね。
そしてNew Balance Numericからも自分自身のカラーウェイの話が上がってひとりでどうするか考えていたんだ。すると「自分自身のカラーウェイじゃなくてMuseumとにするか?」っていう話になって。マジで最高だね。だってオレだけのプロジェクトじゃなくて仲間を巻き込めるから。だから最近はそれに取り組んでいる感じ。プロモビデオは2本予定していて、1本はすでに撮影済み。
V: 楽しみだね。では最後の質問。スケートにまったく関係ないけど、一番好きな映画は?
T: 毎回変わるけど今は『ブレードランナー』。最近のヤツじゃなくてオリジナルの『ブレードランナー』。リドリー・スコットの撮影の仕方とか画には何か特別な魅力がある。あの暗さがたまらない。映画以上の作品だよ。観ているとゾクゾクするしサウンドトラックも最高。東京は『ブレードランナー』のヴァイブスを感じるよ。初めて日本に来たときは雨が降っていて暗かった。渋谷の路地にひしめき合う小さな飲食店から煙が出ていて。だからそうだね、今一番好きな映画は『ブレードランナー』かな。
※編集後記:宮城 豪とは一瞬だけ会えたとのこと。トム・Kの日本滞在記は夏発売予定のCLOSERでチェック。
Tom Karangelov
@tomkarangelov
1988年生まれ。カリフォルニア州ロングビーチ出身。想像力を駆使したスポット使いとトリックセレクションが魅力。夏発売予定のCLOSER次号で今回の日本滞在記が掲載。