パークビルダー集団MBMの職長を務める渡辺雄士のスケートキャリアを振り返りながら、MBM Parkbuildersが始動させる“働きたいスケーターをサポートする”最新プロジェクトの話を聞かせてもらった
──YUJI WATANABE × MBM PARKBUILDERS
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Photos by Junpei Ishikawa, Video by TK, Interview by VHSMAG, Special thanks: MBM Parkbuilders
VHSMAG(以下V): まずはスケートを始めたきっかけから教えてください。
渡辺雄士(以下W): スケートを始めたのは中2頃です。雑誌でスケートボードのコーナーを見て気になった感じです。当時は部活に入っていたんですけど面白くなくて…。そこでスケートを始めたらそっちのほうが楽しくて、スケーターの仲間とつるむようになってどっぷりハマりました。
V: 当時、影響を受けたスケーターは?
W: その当時だとやっぱり雑誌に出ていた人たちです。漆間(正則)さんとか。今では柄じゃないですけど三枝博貴さんとかも。昔は太いパンツ履いていました。誰にも見せられないですけど(笑)。
V: その頃の地元の環境はどんな感じだったの?
W: 最初はずっとストリートで滑っていました。トランジションを滑るようになったのは、今とは場所が違うんですけど龍ケ崎にAXISができてから。ランプとコンクリートのハーフボウルがあったんです。そこで練習するようになって、スタイルを変えたわけじゃないですけど気がつけばトランジションも楽しくなっていました。
V: そこからスキルを磨いてスポンサーをつけて活動していくわけだけど、初めてのスポンサーは?
W: 初めてのスポンサーはAXISです。あとはSonikからEmericaをもらったりもしていました。スポンサーを受けることによっていろんなスケーターと滑ることが増えて世界が広がっていった感じはします。
V: Codaにも所属していたよね?
W: そうですね。でもその前に5Boroからサポートされていたんですよ。かなり前ですけど、USチームがツアーで来日したことがあってパット・スミスも来たんですよ。Black Labelの時代から彼が好きだったんで関東近郊でデモをするときは追っかけて一緒に滑ったりして。それがきっかけで5Boroからサポートされるようになりました。10代の頃の話です。
V: じゃあ、パット・スミスがきっかけで彼が立ち上げたCodaに移籍した感じだね。ではシグネチャーモデルを出した経緯は?
W: 一度海外に行って、パットと一緒に滑ってからです。彼を訪ねてオレゴン州のポートランドに滑りに行きました。当時のパットは、夏はNYで冬はポートランドという生活をしていたんです。1ヵ月くらいパットの家で生活しながらスケートをするという毎日。そこでいろんな仕事も教わりました。彼は内装の大工なんですけど、ランプやイベント用のセクションを作ったりしていたんです。コンクリートを扱う知り合いもいたので、それを見せてもらったりもしました。本場の仕事を見ることができたのは大きかったです。その頃はパークビルドの仕事をすることになるなんて思ってもなかったですけど(笑)。
V: 当時、アメリカで学んだことは?
W: みんな仕事とスケートをしっかりと両立しているのを知ることができたことですかね。彼らを見て自分もちゃんと仕事しないとダメだと思いました。当時の自分はプータローだったんですけど、向こうの連中は仕事とスケートにメリハリがありましたから。
V: そういうスケーターの存在を知った経験は帰国してから役立った?
W: そうですね、それがきっかけで今のマサケンという会社に入ったといっても過言ではないです。当時はスケートパークを作る仕事はなくて普通の土建屋でしたけど。仕事を始めるといろいろ覚えることも多いし体力も使うんで、疲れすぎてスケートをすることができない時期もありました。5年間は真面目にほとんど仕事ばかりしていました。でもスケートと同じで新しい何かを覚えると楽しいんですよね。自分のトリックが増えていくみたいな(笑)。ただ、スケートのデモとかツアーの際は休ませてもらったりしていました。AXISはマサケンがやっていて僕はそこのライダーでもあったので、スケートに対する理解がありました。
V: では、ポートランドでパット・スミスたちの活動を見たこともそうだと思うけど、パークビルドに興味を持ったきっかけは?
W: 実はマサケンに入社する前からストリートにコンクリートを盛ったりして遊んでいたんですよ。すぐに役所にぶっ壊されちゃうんですけど、そういうことを繰り返していました。それがきっかけでパークビルドに興味を持つようになりました。
V: やがてマサケンがMBM Parkbuildersとしてパークビルドを始めるようになるわけだけど、現在の雄士くんのポジションは?
W: スケートパークを作る班の職長です。要は現場をまとめるポジションです。みんなと一緒に働いて、わからないことがあったらアドバイスをしてあげる感じです。あと主に自分の役割はカットマンといって、モルタルを面に吹き付けた後に一時的な成形をしています。表面を削ってアール面を出しています。
V: それはいろんなトランジションを滑る経験があるからこそできる仕事?
W: それもありますけど、技術に関してはこれまでのマサケンでの仕事が役立っています。いろんな現場でいろんな道具を使ってきた経験があってこそ。スケーターだからいきなりできるわけじゃないです。
V: では今AXISで進めている作業について。具体的に何を作っているの?
W: 昔からあるボウルが深すぎて簡単な気持ちで滑れないんで、もう少しゆるくて危なくないボウルを作ろうということになったんです。そこで、去年アメリカで滑って楽しかったPrince Parkのアメーバ型ボウルをモチーフにすることにしました。アールの角度は全然違うと思うんですけど、失敗しても翌日ちゃんと仕事ができるくらいのボウルを作っています。
V: 今日は朝からどんな作業をしていたの?
W: 今日は朝からコンクリートの打設ですね。表面にコンクリートを吹き付けて仕上げる作業。うちが使っているタイプの吹き付け用ポンプ車はまだ日本に1台しかありません。でもやっぱり、パークができた後に、作ったみんなで一緒に滑ることができるのがこの仕事の醍醐味ですね。そのためにみんな汗を流してがんばっている感じです。あと、こういう仕事は他にないと思うんです。というのも、アール面や斜面にコンクリートやモルタルを流して成形する仕事は特殊なんですよ。これはかなり難しい仕事なんで、他の普通の現場が楽になります。
V: これからMBMの新プロジェクトが始まるんだよね?
W: そうですね。でもちょっと内容をよく把握していないので社長に聞いたほうがいいかもしれないですね。
V: 木村さん、どのようなプロジェクトを始めるのですか?
木村将人(以下K): 簡単に言うとスケーターの仕事と活動をサポートするプロジェクトなんですけど、ぶっちゃけ雄士を見ていて気づいたんですよ。昔にストリートにDIYでコンクリートを盛っていた話をしていましたけど、彼らはもうド素人でしかなかった。でもそれがすごく好きでやっていたんだよね。スケートもしたい、仕事もしたい、コンクリートで作ってもみたい、でもスケートの撮影もしたい。そんな雄士を昔から見てきたんで、やりたいようにやらせていました。5年間あまりスケートをしていなかったと言っていましたけど、雄士は仕事にのめり込んでいたんです。そのタイミングでオリンピックの影響もあってかパークビルド業が始まった。そこで土建屋業とスケート、雄士の人生のすべてがリンクした。そんな彼を見ていると「いい人生を送っているな」と思うわけ。20年前にAXISを始めた頃もスケーターをサポートする気持ちはあったけど、商売が厳しくてうまくいかなかった。でも今ならスケートが好きな子たちをサポートできる。今のMBMなら、こういう人間、第2の雄士を作ることができるんじゃないかと思ったんです。
V: なるほど。しっかりとした基盤が出来上がったわけですね。
K: 仕事が中心となってスケートから一時的に離れた雄士を見て「これでいいのかな」と思った時期もありました。でも今はパークビルド業のおかげでスケートに戻ってきて「昔より今のほうが調子いい」と言っている。そんな言葉を聞けるのはやっぱりうれしいじゃないですか。こういう人間を育てていければと思っています。スケートで挫折しても「この道がある」という道標を立ててあげたい。
V: 具体的なサポート内容は決まっているのですか?
K: うちは作業員がいっぱいいるんで寮があるんですよ。そこに空きがあるので住み込みで働ける環境を作ります。ムラサキパークの近くに東京支店もあるんで、そっちに住んでもらってみんなで土木作業をして、その後はスケートができる。スケートのギアもショップがあるので店頭価格よりも安く譲れます。より良いスケート環境下で、まずは生コンの構造や仕事の流れを学んで手に職をつけることができる。スケートの活動はできる限り精一杯がんばってもらって、ウィークエンドスケーターになったときは雄士みたいに仕事をしながら楽しく人生を過ごすことができたらいいんじゃないかなと思っています。追って募集を始めるので興味のあるスケーターはチェックしてください。
V: では雄士くんに戻ります。すばりMBM Parkbuildersの魅力は?
W: 今パークビルドをやっているチームはみんな仲がいいし、スケートが大好きな連中ばかりなんですよ。スケートが好きな人だったらめちゃくちゃ楽しいと思います。旅先でパークビルドをしているときも、仕事以外に海で泳いだり釣りをしたり。仕事のONとOFFがしっかりとあるのでいい感じですね。スケートをしていてパークを作ることに少しでも興味があるのであれば、試しに1ヵ月だけでも働いてみればいいんじゃないかなと思います。
V: では最後にMBMの今後の活動予定は?
W: 今年はこれから年内に4箇所パークビルドの予定があります。場所はまだ言えませんけどね。楽しみにしていてください。
Yuji Watanabe
www.axis-mbm.com/mbm.html
千葉県出身。アールを舐めるような流れるスタイルでリスペクトを集め、Codaからシグネチャーモデルをリリースした経歴を持つ。現在はMBM Parkbuildersの職長として全国のパークを手がけている。