「美容室の数はコンビニの数よりも多い」と言われています。普段生活しているとそう感じることはないのですが、全国の美容室の数はコンビニの4倍もあるのだそうです。意識して見てみると僕の家から駅まで伸びる一直線の商店街にはコンビニが3店舗に対して美容室は8店舗あったので、その数にあらためて驚かされます。
毎日通るその商店街で、先日騒ぎを目撃しました。とある美容室の店内でふたりの女性による取っ組み合いの喧嘩が勃発しています。店内とはいえ、ガラス張りの路面店となればもはや公衆の面前で起きているカオス。目の前で起きているドラマさながらの様子、そしてそれを側で立ち尽くして見ているスタッフと思しき人ら。僕がその瞬間を目撃したのは、プッシュで店の前を通り過ぎるほんの1、2秒の出来事。その後どうなったのかはわかりません。
普段嫌がらせを受けていた後輩スタッフの鬱憤が爆発して先輩スタッフに噛みついたのか。それとも取り返しのつかない髪型にされたお客さんがブチ切れたのか。はたまた本当にドラマの撮影だったのか…。しかしその様子は酒に酔った野郎どもの喧嘩とは異質であり、また令和のこの時代の日常生活とも異質なもののように感じました。あの後、彼女らはどうなったのだろう。これを機に職場に辞表を叩きつけ、出て行ったのだろうか。周りの手に負えず、警察沙汰となったのだろうか。はたまたドラマの次のシーンの撮影が始まったのだろうか…。あれこれ考えを巡らせているうちに、僕のプッシュは自宅前まで来ていました。
勝手な憶測とともに、とにかく言葉にしにくい、妙な、もやもやとした感情が生じたのは間違いありません。と、同時にふと我に返って思ったのです、「僕のマインドは健康だ」と。あの場面、側から野次馬になってニヤニヤ眺めることもできただろうし、ストーリーにアップしてフォロワーの反応を楽しみにするることもできたかもしれません。しかしそうはならず、赤の他人の派手な揉め事に少し胸を痛めた自分の心に拍手をしてしまった。
そりゃ僕だって腹が立ったり、怒りをぶつけたいときだってあるものです。しかしそんなときでも不思議とプッシュしている瞬間はそれを忘れさせてくれたりもします。スケートボードをストレスの捌け口として使いたくはないけれど、多少なりともその役目ととなり、心を落ち着かせてきた部分は否めません。足の裏に響く心地良いストリートの響きに、つい夢見心地になってしまう。次の休みはどこへ滑りに行こうかな。
─Kazuaki Tamaki(きなこ棒選手)