20年以上に渡り数々の名トリックが繰り出されてきたダブルセットといえば某学院。説明不要のこのスポットは国内はもちろん、世界的有名スポットとして新宿の一角に鎮座し、今日もまた新たなる挑戦者のNBDトリックを待ち構えているのであります。工g…いや、某学院に限った話ではありませんが、ダブルセットのようなスポットでメイクされる映像や写真というのは普通のステアでのそれとは2倍、3倍増しで映えるってもの。いざやるとなると、ステアの真ん中に1メートルほどの踊り場があるってだけで難易度が10倍くらいに感じるのだからあら不思議。狙ったトリックを磨きに磨いた者のみがその収穫を噛みしめられるってもの。ハンマートリックからはソーシャルディスタンシングな僕ですが、それでもいくらか飛んできたダブルセット。割と苦い思い出が多め(汗)。
あまり語り継がれることもなく、記憶の片隅へと忘れ去られつつあるダブルセットといえば池袋にあった「びっくりガード」。池袋駅から500メートルほど南下し、線路をくぐった歩道の最後がダブルセットになっているというもの。繁華街という土地柄、昼間は通行人も多いのでトライは深夜。アプローチ良し、地面の弾きも良しと条件はそこそこなのですが、割とゴツめの5段+5段という幅と落差はそう簡単に挑戦者を受け入れてはくれません。あれは6、7年も前のことでしょうか、当時撮影していたSketchy Lifeのパート用に僕もトライしてみたのです。「180系や回しはまだ出ていない」、「数々のスケーターがフリップにトライしてきたが誰も乗ったことがない」。そう聞くと可能性を信じて燃え上がってしまうもの。「オレがフリップのパイオニアになってやるぜー!」。そう言い聞かせ深夜0時過ぎから明け方まで飛び続けるもやっぱりダメで、踵を潰して涙のギブアップ。歴史を塗り替えることの大変さに打ちのめされ、足を引きずって帰りましたとさ。
そんなびっくりガードで繰り出されたトリック、パッと思いつくのは砂川元気のデッキ2台を使ったラグドール、柏田祥平のタックニー、我如古 亘のオーリーtoファイヤークラッカー。乗りゴケながら荒木太雪のノーリーヒールもハンパ無いですねぇ。そしてとうとう出たのが立川ローカル、山中佑馬のノーリーBs 180。もうこの辺になってくると他の追随を許しません。極めつけにはイッセイ・ユミバがフェイキーフリップを残し、日本の全スケーターが涙に濡れたとか。ほどなくしてこのダブルセットは取り壊され、ひとつの難関スポットの歴史に幕が下ろされました。あれからいくばくかが過ぎ、世界レベルのスキルを備えた日本人のスケーターが各地で暴れまわる現在。いまびっくりガードが存在していたら、きっとあんなトリックやこんなトリックが当たり前に映像化されていたに違いありません!
しかし悲しむことなかれ。ダブルセットは工事で取り壊されましたが、実はより巨大な10段ステアへと生まれ変わりました。もう4年近くの年月が経つのでしょうか、まだそこを飛んだという噂は入ってきておりません。そして今日も新生びっくりガードのステアは新たなる挑戦者を待ち、そこに鎮座しているのであります。
─Kazuaki Tamaki(きなこ棒選手)